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第一章
17.王太子の目論見ー準備編ー
しおりを挟む[アルベルト視点]
アルベルトは、裏庭でカトレアと別れると、その後の授業を放棄し、即座に王宮へ戻った。
「早急に陛下へ謁見の申請をしろ。それからグランシア公爵の元へ伝令を出せ」
「は、畏まりました」
王太子の執務室へ入るや否や、アルベルトは控えていた補佐官の一人に命じる。
そして、執務机に向かうと、鍵のかかった引き出しを解錠し、中から数枚の書類を取り出した。
ザッと目を通し、内容を確認してから書類挟みに挟み込む。
「魔導記録用紙を」
「は、こちらに」
執務室内に残る補佐官が紙の束をアルベルトへ差し出す。
アルベルトは用紙を受け取り、その内の一枚を机の上に載せ、制服のネクタイにつけていたタイピンを取り外した。
そして、タイピンを持った手を用紙の上から下へとなぞるように動かす。
直後、タイピンについた魔石が淡い光を放ち、用紙に文字を刻み込み始める。
これは、グロリオーサ王国宮廷魔導士によって開発された、魔導具の記録装置である。
特殊な加工を施した魔石に映像や音声を記憶させ、それと対になる魔導記録用紙へ書き出すという仕組みになっており、まだ市場には出回っていない貴重な魔導具であった。
「………………」
アルベルトが手を動かすにつれ、用紙一面を細かい文字が埋め尽くし、記録するための余白がなくなると、隣に立つ補佐官が次の新しい用紙と取り替える。
それを幾度か繰り返し、ようやくタイピンの光が収まった。
それはわずか五分にも満たない間のことであった。
「――っ、はぁ、はぁ、はぁ……」
タイピンを机に置いたアルベルトは、額に脂汗を浮かせ、荒い呼吸を繰り返す。
「殿下、魔力回復薬です」
「あぁ……」
補佐官に差し出された掌サイズの小瓶を受け取り、蓋を開けて一気に中身を煽る。
飲み干して間もなく、体内の魔力が回復したのを感じ、アルベルトは安堵の息を漏らした。
(何度やっても慣れないな……)
この記録装置を使用するには、毎回膨大な魔力を消費する。
幼少期からの訓練の成果によって、アルベルトは常人以上の魔力を保有しているが、それでも宮廷魔導士たちには到底及ばず、この記録装置を使用するにはギリギリの魔力量であった。
この記録装置が開発されてから五年近く経つのにも関わらず、未だ市場に出回らないのは、この使用魔力量の改善がなかなか成功しないためである。
「……宮廷魔導士長に、早く改善しろと念を押しておくように」
「は、畏まりました」
補佐官はフフフと小さく笑いながらも、アルベルトの言葉に御意を示す。
アルベルトはそんな補佐官を不満気に睨みつけた後、たった今記録したばかりの内容に目を通し始めた。
――アルベルトの目的が成功するか否かは、この記録内容に懸かっていた。
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