義妹の策略で婚約破棄された高嶺の花は、孤高の王太子に溺愛される。

胡桃

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第一章

07.本能が望む気高く美しい花

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[ライモンド視点]


 時を遡ること半年前――それは、よく晴れた暖かい日のことだった。
 
 映えあるグロリオーサ王立学園高等部三年生に在籍する、グレース公爵家子息ライモンドは、生徒会執行部に寄せられた投書の中に、近頃学園の敷地内で野生の小動物が徘徊しているという情報が増えていることに気づいた。
 小動物の種族ははっきりしないものの、整備された花壇を荒らしたり、校舎内に入り込んで悪戯をしたりする可能性を危惧し、ライモンドは生徒会役員総出で捕獲することを提案した。
 そして、役員の総意を得たライモンドは、空き時間になると敷地内を巡回するようになった。
 
 そんなある日、裏庭で野生の小動物――野ウサギと戯れるカトレアと出逢った。

 ライモンドは、才色兼備の高嶺の花と表現されているカトレアの存在を知っていたが、直接相対したことはなく、その美しい容貌をこのとき初めてしっかりと目にした。

 (何と美しい……)

 カトレアの美貌に目を奪われ、野ウサギに向けられている穏やかな微笑みを自分にも向けてほしいと願った。

「あっ……」

 思わず踏み出した足が地面の砂を鳴らし、その音に驚いた野ウサギが逃げ去っていく。
 カトレアは名残惜しそうに表情を曇らせながら、野ウサギを見送った。
 その悲しげな表情に、ライモンドの胸が痛む。

「す、すまない。俺が音を立ててしまったせいで……」

 ライモンドは思わず口をついた謝罪に驚いた。
 学園に入り込んだ野生の小動物を捕獲するべく行動していたのに、それがカトレアを悲しませてしまったため反射的に謝罪した。
 それに気づいたライモンドは、一瞬でボッと顔が熱くなるのを感じた。

「大変失礼いたしました。グレース公爵家子息様」

 カトレアはライモンドの正体に気づくと、スッと表情を消し、立ち上がって手早く制服を整えカーテシーを取った。

「い、いや……そんなに畏まらなくても良い。邪魔をしてすまなかった」

 その他人行儀な仕草に、身分差による壁を感じてしまったライモンドは、口籠もりながらそう言うと、くるりと踵を返して足早にその場から立ち去った。

 (何だ、この胸の高鳴りは……)

 まるで逆上のぼせたような全身の火照りと、口から飛び出しそうなくらい鼓動を激化させている心臓に、ライモンドは酷く動揺した。
 
 そして――

 あの美しい花――カトレアが欲しいと己の本能が望んでいることに気づいたライモンドは、必ずカトレアを自分のものにすると心に決めた。
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