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第一章
04.心を突き刺す無数の棘と刃
しおりを挟むルドルフとセレーネが婚姻を結んで間もない頃、何の気まぐれだったのか、ルドルフが初めてセレーネに買い与えたという、カトレアの花を模った銀細工の髪留め。
体調の良い日のセレーネは、いつもこの髪留めで美しい髪を飾っていて、贈り物として受け取ったときの思い出を繰り返し語っては、幸せそうに微笑んだ。
『この髪留めがあったから、あなたは生まれたのよ』
息を引き取るその瞬間まで、セレーネはこの思い出を大切に抱えて微笑んでいた。
その後、ライラとルシアによって、セレーネの持ち物が破棄された際、この髪留めも一緒に破棄されたはずだった。
恐らくルシアは、ライラの目を盗んでこの髪留めを隠し持っていたのだろう。
そして、いつの日かカトレアを傷つけるための小道具に使おうと虎視眈々と機会を狙っていたに違いない。
窓から放り捨てられたというには不自然な壊れ方をしている髪留めを、カトレアはじっと見つめた。
原型を止めないほど何度も踏み躙られた痕跡があるというのに、ライモンドはルシアの言葉を疑いもしない。
どう言えば伝わるだろうかとカトレアは考えを巡らすが、続いて投げつけられたライモンドの言葉に、カトレアが何を言ったところで、真実は何一つ伝わらないのだと悟った。
「ここまでのことをしておいて、更に何かをするつもりか!? お前がそんなに酷い女だとは知らなかった。俺はお前のその綺麗な容姿に騙されたということか……」
(それは誤解です! どうして信じてくださらないのですか!?)
「そのような事実はございません。何故、そのようなことを仰るのですか?」
カトレアは、内心では泣きたい気持ちになりつつも、日頃からの習い性で、冷静に淡々と答えてしまう。
そんなカトレアの姿は、実直で“正義の貴公子”と呼ばれるライモンドの目には、ただただ冷徹に映っていた。
「さすがは正妻という名の妾の娘と言うべきか。腹黒い本心を隠すのが得意なようだ。素直に認めれば赦してやったものを……お前には失望した」
ライモンドは空いている方の手で己の前髪をクシャリと握り締めると、この場にいる誰よりも傷ついたかのような表情でそう吐き捨てた。
その心無い言葉はカトレアの胸に深く突き刺さった。
目の前が暗くなり、意識が遠のきそうなほど打ちのめされたカトレアに、更なる追い討ちがかかる。
「……今日を限りに、俺はお前との婚約を破棄する。帰宅次第、父にもそう伝えると決めた」
ライモンドが苦々しい表情を浮かべたまま、きっぱりとそう告げると、その隣で俯いているルシアが邪悪な笑みを深めた――
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