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本編
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しおりを挟む執事長のジョシュアから鍵を預かってきたキースと共に父の書斎へ入り、目当ての物――カールハインツ陛下の絵姿を探す。
幸い、書斎にある本棚はきちんと分類ごとに整理されているため、カールハインツ陛下の絵姿はすぐに見つかった。
「あった、これだ」
グランストーム王国では、歴代の王が即位する度にその姿を絵に認め、貴族家へ配布する。
そして市井では、それを複製した絵姿が安価で出回っており、誰でも購入できるようになっているのだ。
貴族家に仕える使用人たちは、当主が入手した絵姿を見せてもらったり、自分で購入したりとまちまちだが、当家では父が入手した絵姿を使用人全員にお披露目したので、今この屋敷で働く者たちは全員カールハインツ陛下の顔を知っている。
「ねぇ、キース?」
「はい」
「……今からすごく変なことを訊くけど、良いかな?」
絵姿を胸に抱え、キースの顔をじっと見つめる。
「? はい、構いません」
キースは不思議そうに小さく首を傾げながらもそう言って頷いた。
「……これは、誰?」
カールハインツ陛下の絵姿をキースの方へ向け、緊張で震えそうになる声を抑えて訊ねる。
「グランストーム王国第三十二代国王――カールハインツ・フォン・グランストーム陛下です」
キースは迷うことなくそう言った。
「これは、わかるんだ……」
「……それはどういう意味でしょうか?」
思わず口をついて出た言葉を耳聡く拾ったキースに訊ねられるが、僕には答えようがなかった。
“フランツ・ブラウン”と名乗り、この屋敷に滞在している客が実はこの国の王です、などと安易に言えるはずもない。
「ううん、気にしなくて良い。……部屋に戻るよ」
仮に、今この屋敷にいるカールハインツ陛下が別の世界の人間だったとしても、姿形が全く同じであるのに誰も気づかないということはないだろう。
陛下の話では、執務室に突然現れた占い師に偽の王だと糾弾された途端、周囲の人間が彼を自国の王だと認識しなくなったということだった。
恐らく、このときに何かが起こったのだと思う。
(一体、何があったのだろう?)
考えてみるが、何も思いつかない。
これ以上のことを陛下に訊ねるとしたら、ミハイルとマーティンがいないときの方が良いだろう。
ひとまず、今ミハイルたちに聞かれても差し障りがない事項を優先して話すようにしようと決め、僕は父の書斎を後にした。
◇ ◇ ◇
「お待たせしました……?」
自室に戻ると、三人は何やら難しい表情で顔を突き合わせ、声を顰めて話しているところだった。
何を話しているかは距離があるため聞こえなかったが、僕が部屋に入った途端、三人ともハッとした様子で口を閉ざしたので、僕のことを話していたのだろうと当たりをつける。
「どこに行っていたんだ?」
不満げな表情を浮かべたミハイルに問われる。
「父様の書斎だよ。……これを借りてきた」
その問いに答えながら、テーブルの上にカールハインツ陛下の絵姿を載せた。
「? 国王様の絵姿がどうかしたのか?」
絵を見てすぐにミハイルが言った。
何の躊躇いもない声音から、彼もまた絵姿では陛下のことを正しく認識できるようだとわかる。
「……やっぱり、わかるんだね」
「は? いくら何でも、自国の王がわからないはずないだろ? なぁ、マーティン?」
ミハイルがそう言ってマーティンを見れば、マーティンもしっかりと頷いた。
僕はチラリとカールハインツ陛下の顔を見る。
カールハインツ陛下は僕を見て苦笑した。
「それは私も試したよ。執務室には肖像画があるからね。結果は今の彼らと全く同じ反応だったが……」
陛下は最後まで口にせずに首を横に振って、誰も陛下のことがわからなかったと言外に告げた。
「そうですか……」
先程のキースの様子を見て、ミハイルたちもわからないだろうとは予測していたが、それでも僅かな期待を持っていた。
この結果は残念としか言いようがない。
「……さっきから一体何なんだ? 何やら二人だけで分かり合ってることがあるみたいだが、俺たちには話してくれないのか?」
苛立った様子のミハイルに詰問され、僕は陛下の顔を見た。
陛下もミハイルたちにどこまで聞かせるか決めあぐねているようで、困ったような表情を浮かべて口を噤んだ。
~*~*~*~*~*~
【補足】
客(カールハインツ)が滞在しているので屋敷の各部屋が施錠されていますが、当主の書斎に重要書類等は保管されていないため、基本的に身内や使用人は出入り自由という設定です。
エリオットが父親の目を盗んで家探ししているわけではありませんので、一応補足しておきます笑
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