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本編
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しおりを挟むシュヴェリエ侯爵家子息レオナルドとの婚約が破棄された時、僕は主人公の立場にいるという理由から、いずれ報われると思っていた。
何故なら、前世の小説の中で主人公には、この国を救うという使命が課せられ、その結果、カールハインツ陛下に見初められて王妃になるという結末が用意されていたから。
しかし、冷静になって考えてみれば、世継ぎを産めない僕がいくら頑張ったところで、国王に見初められて妃になるなどあり得ないことだと気づいた。
それは例え、小説と異なる展開が起こっていたとしても変わらないだろう。
婚約者が同性だったため、少しでも可能性があると思ってしまった自分が恥ずかしい。
(そんなこと、あるはずないのになぁ……)
エリザベスが存在しないこの世界で、カールハインツ陛下はどんな女性を妃として選ぶのだろうか。
現状では、僕たちの周囲に候補となり得る女性は現れていない。
前世の小説に出てくる人物から推測するとしたら、恐らくこの世界でも陛下へ縁談を打診してきているであろう隣国――スレンダール皇国の第三皇女の存在が考えられるが、物語の中では彼女――アンネリー皇女はこの国の敵となる存在であった。
魔皇国とも呼ばれるスレンダール皇国は、魔石が多く採れる鉱山に囲まれ、優れた能力を持つ魔術師が多数在住している魔法特化の国である。
しかし、国土の大半が鉱山地帯である故に、魔石の影響を強く受け、魔素を多く含む植物が自然に増殖していくだけでなく、国の至る所に多くの魔獣が棲み着いている所為で、年々魔の森と荒れ地が増え続け、一般的な農作物が育ちにくいという欠点があった。
そのため、物語でのスレンダール皇国は、広大な国土とそれに見合った豊富な資源、そして古の神器“聖なる神の祈り”を有するグランストーム王国を乗っ取るべく、その足掛かりとして皇女をカールハインツ陛下に娶らせようとしていたのだ。
しかし、カールハインツ陛下がその縁談を断ったことで目論見が外れたスレンダール皇国は、自国の聖女であるアンネリー皇女を旗頭にしてグランストーム王国への侵略を決行する。
紆余曲折の末、グランストーム王国の聖女として神器に認められたエリザベスにスレンダール皇国は負け、首謀者であるスレンダール皇帝とアンネリー皇女は処刑され、スレンダール皇国はグランストーム王国の属国として支配下に置かれるという結末になっていた。
とはいえ、エリザベスがおらず、小説の展開から外れているこの世界では、アンネリー皇女がカールハインツ陛下の妃となる可能性もゼロではない。
もしそうなれば、隣国との戦争は避けられるかもしれないが、スレンダール皇国が本来企てていた乗っ取り計画が遂行される可能性が残っている。
(……僕は何をすれば良いのだろう?)
本来なら女主人公である世界に、僕が男のまま転生した所為で、何もかもが狂い始めているのではないかという考えが頭の片隅をチラつく。
それを認めたくなくて考えないようにしていたが、僕が何かの行動を起こす度、小説の展開とかけ離れていくという現状が、その考えを肯定しているように思えて仕方がない。
(僕が何もしない方が平和な展開になるだろうか……)
前世の小説のことを忘れ、傍観者に徹していたら良い方向に進んでくれるかもしれない。
――だが、そうでなかったとしたら……?
アンネリー皇女と婚姻することで、カールハインツ陛下が危険な目に遭うことは避けたい。
しかし、その縁談を退ければスレンダール皇国が攻め入ってくることになる。
(エリザベスがいれば、スレンダール皇国を滅ぼすこともできるのに……)
聖女になれない僕では、その役目を負うことができない。
(今の僕にできることは――少しでもカールハインツ陛下の憂いをなくせるよう、有益な情報を集めてくることだけ……)
いくら考えても良案は浮かばないが、ひとまず学院の同級生たちから良い情報を得られるよう努めようと決意した。
応援ありがとうございます!
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