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本編
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しおりを挟む「僕が学院に通うようになれば、同級生たちから王城の噂を何か聞き出せるかもしれません。僕にはあまり友人がいませんが、頑張って聞き出してきます。だから、どうか貴方は伯爵家で待っていてください」
お願いします、と深く頭を下げる。
「……ふぅ」
しばらく頭を下げたままでいると、陛下が小さく息を吐くのが聞こえた。
「……命の恩人である君にそこまで言われてしまったら、聞かないわけにはいかないな。わかった。君の言う通り、もう暫く世話になろう」
僕の言葉を聞いた陛下が、そう言って小さく微笑む。
その表情を見て、彼を騙しているような後ろめたい気持ちが湧き起こる。
「い、命の恩人だなんて畏れ多いです‼︎ 僕はただ、何が起こっているのか知りたかっただけで……」
あのときの僕は、とにかく状況を知りたい一心で、彼を家に連れ帰っただけだった。
もちろん、陛下の身の安全を心配する気持ちに偽りはないけれど、打算がなかったとは言えない。
「君の目的がどうあれ、あの日、君が私を馬車に乗せてくれなければ、あのまま私は巡回兵の詰所に連れていかれて、投獄されていたはずだ。詰所の牢も強い魔力封じが施されているため、私の魔力は戻らないまま命が尽きていただろうな。だから、結果として私の命は君に救われた。それに、君がご両親に嘘をついてまで私を保護してくれたことにも感謝している」
彼は貧民街の廃屋に置き去りにされた後、微量に回復した魔力で魔法を使って廃屋を抜け出し、時間経過で魔力が回復する度に魔法を使いつつ、人目を避けての移動を続けていたそうだ。
更に、街中で巡回兵に見つかると尋問される可能性があったため、夜陰に紛れて移動するしかなく、本来なら一日もあれば辿り着くはずの貴族街に入るまで数日掛かったらしい。
そして、僕が乗る馬車と行き合ったときは、整備が行き届いているために身を隠す場所がなくなり、仕方なく中央通りに出て、極力気配を消しながら移動していたところだったと聞いた。
空腹と魔力不足で足元がふらつき、倒れ込んだ際、近づいてくる馬車の音に死を覚悟したとも言っていた。
「……まだ君にはきちんと礼を告げていなかったな。ありがとう。君のおかげで、私はここまで回復できた。あのとき、君を信じ、ついていくことに決めた私の判断は間違っていなかったよ。無事に王城へ戻ることができたら、君に褒章を用意しよう。他にも欲しい物があれば何でも言ってくれ」
陛下は満面の笑みを浮かべ、そう言った。
「ほ、褒章なんていりません。その他に欲しい物もありません。陛下がご無事であれば、僕はそれで十分嬉しいです」
前世の記憶があると言っても、嘘だなどと言わず信じてくれただけで、僕は報われたように感じていた。
何故、僕がこの世界に転生したのか、それはまだわからないけれど、前世の記憶があったおかげで、陛下の命を救うことができたのなら、僕がこの世界にいる意味があったと思える。
これは偽りのない本心だった。
(……どうして僕には前世の記憶があるのだろう? それに、どうしてエリザベスじゃないのだろう? 性別を変えて転生した意味がわからないけど……どうせならエリザベスのままにしてくれたら良かったのにな)
小説の主人公の立ち位置にいるとはいえ、僕はヒロインではない。
エリザベスは、物語の最後にカールハインツ陛下と結ばれる運命にあったが、その道を僕が歩むことはないだろう。
いくら同性婚が許されている世界でも、世継ぎを求められる国王陛下と子を産めない男の僕が結ばれる日は永遠に来ないのだから。
――そのことが少しだけ悲しかった。
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