上 下
2 / 5

2話

しおりを挟む
アパートに帰ってからも嫌な緊張が体を支配していた。

あれって、呪いの人形なのでは?

テレビ番組やホラー映画で見るような人間を呪い殺す類のものだったら、かなりヤバイ。安易に関わってしまった過去の自分をビンタしてやりたかった。

その夜。普段はあまり飲まない酒を浴びるように飲んだあと、気絶するように布団の中へダイブ。

…………………………。
……………………。
………………。


しばらくして、無音をかき消す突然のピンポーン。

「…………」

ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。

「…………………」

ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。

普段ならこんな深夜にチャイムなど鳴らない。嫌な予感しかしない。
俺は布団をかぶり、無視することを決めた。

ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。

「勘弁して……ください……静かに地獄にお戻りください……」

ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。

あまりにもしつこいチャイム攻撃。次第に恐怖よりもイライラが勝ってきた。

俺は飛び起きると、玄関まで走り、すぐにドアを開けた。

そこにはーーーー。


「こんな深夜にごめんね」

「んん?  え…え………ダレです?」

知らない美少女が、ニコニコ笑顔で立っていた。とりあえず、あの呪いの人形でないことに胸を撫で下ろした。

「人間の姿になれるのは、深夜のこの時間だけだからさ」

「は?」

腰まである艶々した長い髪。モデルのようにスラッとしていて、顔は雑誌の表紙レベル。さっきまでとは違う緊張が襲う。

「あの……」

「先ほどは助けていただき、ありがとうございました。私は、あなたに助けてもらった呪いの人形でーーす!!」

「はぁ!?」

「……ここだと近所迷惑だから、部屋に入って良い?」

「え、いや、あの」

戸惑う俺をどかし、強引に部屋に入ってくる女。横切る瞬間、フワッと甘い良い香りがして、意識が途切れた。

「一人暮らし? 彼女さんは…………いないみたいだね。はぁ~良かったぁ……」

「あ……とりあえず、そこ座ってください」

部屋の電気をつけて、小さなテーブルの前に座ってもらった。

「キミも座ったら? ずっと立ってないでさ」

「え、はい。じゃあ……」

目の前で見た女は、今まで見てきた女とはオーラがまるで違っていた。田舎の祖父母に紹介したら、腰を抜かすレベルに輝いて見えた。

全身から漏れる大人の色気。また儚げな雰囲気もあり、普通の男なら入れ食い状態だろう。

「さっき、呪いの人形がどうとか言ってましたけど……」

「うん。私ね、昼はあの人形の姿なんだ。夜のこの時間帯、なぜか丑の刻だけ人間の姿に戻れるの」

「はぁ………丑の刻だけ…人間に………はぁ…そうなんですね………なるほど……」

「すっごい目。かなり疑ってるね~。まぁ、これに関しては信じてもらうしかないよ」

目の前のスナック菓子をチラチラ見ている。

「あ、いいですよ。勝手に食べて。今、何か飲み物用意しますね」

俺は、立ち上がると小さな冷蔵庫からリンゴジュースを一番綺麗なグラスに入れて、女の前に置いた。

「ありがと……」

なぜかうつむき加減の女は、恥ずかしそうに俺をチラチラ見ていた。

「冗談ではないんですよね……ハハ…スゴいな、都会は………。呪いの人形って、人間になれるんだ……なるほど(?)」

「あ、少し誤解があるみたいだから言っておくと私って、元は人間だからね。なぜか私の魂だけがあの人形に入って、それからはこんな八割人形、二割人間みたいな中途半端な状態なんだけど」

「え!? 元は人間?  ますます頭が混乱する。何です、それ?」

「私が分かるワケないじゃん。ってか、美味しいね、このジュース。おかわりくださいな」

女から空のグラスを受け取り、再び立ち上がる。

「じゃあ、もしかして人間だった頃の記憶とかもあるんですか?」

台所から声を投げかける。
もう恐怖は消えていた。

「うん。もちろんあるよ。あ、自己紹介しとくね。私、『口美 レイア』。これから宜しく~」

「俺は、南 海人(みなみ かいと)って言います。まぁ……これからがあるのか分かりませんけど……」

………………ん?

あれ……何か…聞いたことあるな、その名前……。

口美……レイア。

「っ!!!?」

振り返ろうとした俺の前に白い女が立っていた。全く音がしなかった。幽霊のように近づき、その細い両手で優しく首を撫でられた。思わず、グラスを落としてしまった。

「あ、あ、あ」

「フフ……可愛いなぁ」

冷や汗、震えが止まらない。もしかしたら、失禁してるかも。

俺を見つめる女。
これが本当に人間の目なのか? 
こんなに冷たくて、暗い目は見たことがない。

「そうだよ~。私は、全国指名手配中の凶悪犯。連続殺人鬼の口美 レイア。…………ちなみに海人ってさぁ、童貞?」

意識が途切れ途切れの状態で、女に操られるようにベッドに誘われた。

「さっき言ったでしょ~?  恩返しだって。私には、今はこれしか出来ないから……ごめんね」

優しく倒され、馬乗りになった女にキスされた。

夢と現実の狭間。

桃源郷。

とにかく、気持ちが良かった。

「……私。やっぱり、キミが好きかも」

連続殺人犯に好かれてしまった。
バッドエンドまっしぐら。すでに詰んでしまった人生。

俺を大学まで進学させてくれて、今も仕送りまでしてくれる祖父母に申し訳なさすぎて…………………でもやっぱり、エッチは超絶気持ち良くて……。

「…ゃ……もう一回しよ……」

「はぁ……はぁ…はぁ…」

ほんと、ワケが分からなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吉祥寺あやかし甘露絵巻 白蛇さまと恋するショコラ

灰ノ木朱風
キャラ文芸
 平安の大陰陽師・芦屋道満の子孫、玲奈(れな)は新進気鋭のパティシエール。東京・吉祥寺の一角にある古民家で“カフェ9-Letters(ナインレターズ)”のオーナーとして日々奮闘中だが、やってくるのは一癖も二癖もあるあやかしばかり。  ある雨の日の夜、玲奈が保護した迷子の白蛇が、翌朝目覚めると黒髪の美青年(全裸)になっていた!?  態度だけはやたらと偉そうな白蛇のあやかしは、玲奈のスイーツの味に惚れ込んで屋敷に居着いてしまう。その上玲奈に「魂を寄越せ」とあの手この手で迫ってくるように。  しかし玲奈の幼なじみであり、安倍晴明の子孫である陰陽師・七弦(なつる)がそれを許さない。  愚直にスイーツを作り続ける玲奈の周囲で、謎の白蛇 VS 現代の陰陽師の恋のバトルが(勝手に)幕を開ける――!

群青の空

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
キャラ文芸
十年前―― 東京から引っ越し、友達も彼女もなく。退屈な日々を送り、隣の家から聴こえてくるピアノの音は、綺麗で穏やかな感じをさせるが、どこか腑に落ちないところがあった。そんな高校生・拓海がその土地で不思議な高校生美少女・空と出会う。 そんな彼女のと出会い、俺の一年は自分の人生の中で、何よりも大切なものになった。 ただ、俺は彼女に……。 これは十年前のたった一年の青春物語――

求不得苦 -ぐふとくく-

こあら
キャラ文芸
看護師として働く主人公は小さな頃から幽霊の姿が見える体質 毎日懸命に仕事をする中、ある意識不明の少女と出会い不思議なビジョンを見る 少女が見せるビジョンを読み取り解読していく 少女の伝えたい想いとは…

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

狐小路食堂 ~狐耳少女の千年レシピ~

無才乙三
キャラ文芸
繁華街から外れた暗い暗い路地の奥にその店はある。 店の名は『狐小路食堂』 狐耳の少女が店主をしているその飲食店には 毎夜毎晩、動物やあやかし達が訪れ……? 作者:無才乙三(@otozoumusai)表紙イラスト:白まめけい(@siromamekei) ※カクヨムにて2017年1月から3月まで連載していたグルメ小説のリメイク版です。 (主人公を男性から少女へと変更)

翠碧色の虹・彩 随筆

T.MONDEN
キャラ文芸
5人の少女さんが、のんびり楽しく綴る日常と恋愛!? ---あらすじ--- 不思議な「ふたつの虹」を持つ少女、水風七夏の家は民宿である事から、よくお友達が遊びに来るようです。今日もお友達が遊びに来たようです♪ 本随筆は、前作「翠碧色の虹」の、その後の日常です。 ↓小説本編 http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm ↓登場人物紹介動画 https://youtu.be/GYsJxMBn36w ↓小説本編紹介動画 https://youtu.be/0WKqkkbhVN4 どうぞよろしくお願い申しあげます! ↓原作者のWebサイト WebSite : ななついろひととき http://nanatsuiro.my.coocan.jp/ ---------- ご注意/ご留意事項 この物語は、フィクション(作り話)となります。 世界、舞台、登場する人物(キャラクター)、組織、団体、地域は全て架空となります。 実在するものとは一切関係ございません。 本小説に、実在する商標や物と同名の商標や物が登場した場合、そのオリジナルの商標は、各社、各権利者様の商標、または登録商標となります。作中内の商標や物とは、一切関係ございません。 本小説で登場する人物(キャラクター)の台詞に関しては、それぞれの人物(キャラクター)の個人的な心境を表しているに過ぎず、実在する事柄に対して宛てたものではございません。また、洒落や冗談へのご理解を頂けますよう、お願いいたします。 本小説の著作権は当方「T.MONDEN」にあります。事前に権利者の許可無く、複製、転載、放送、配信を行わないよう、お願い申し上げます。 本小説は、他の小説投稿サイト様にて重複投稿(マルチ投稿)を行っております。 投稿サイト様は下記URLに記載 http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm

つくもむすめは公務員-法律違反は見逃して♡-

halsan
キャラ文芸
超限界集落の村役場に一人務める木野虚(キノコ)玄墨(ゲンボク)は、ある夏の日に、宇宙から飛来した地球外生命体を股間に受けてしまった。 その結果、彼は地球外生命体が惑星を支配するための「胞子力エネルギー」を三つ目の「きんたま」として宿してしまう。 その能力は「無から有」 最初に現れたのは、ゲンボク愛用のお人形さんから生まれた「アリス」 さあ限界集落から発信だ!

職場は超ブルー

森山 銀杏
キャラ文芸
*完結しました 異世界「地球」へ侵略者を送る事で発生するドラマを放送するテレビ番組「5人の勇者 ファイバーズ」。 そんな裏の事情をしらず、傭兵上がりの三十二歳ブルーこと青島は実弾至上主義を掲げ、他四人の少年少女を指導しながら今日も戦う。 一方、異世界のテレビ局では視聴率は取りつつも、スポンサーの準備したファイバーブラスターとファイバーソードを全く使わないファイバーズ達が問題視されていた。 なんとか解決しようとするスタッフ達。だが「テコ入れ」というシナリオ変更は刻一刻と近づきつつ合った……。

処理中です...