21 / 39
21 砂漠の海
しおりを挟む
立ち入り禁止になっている学校の屋上。普段は不良達のたまり場になっているが、今の季節は寒くて誰も来ない。
フェンスに寄りかかり、灰色の世界をぼんやりと見ていた。
「黄昏過ぎじゃない?」
「ここから見る景色が好きなんだ」
「私も好き。はぁ~~。今日は、バイト休みだから自由だぁあーーー。シャーーーー!!」
背伸びして、拳を天高く突き上げる少女。足が、プルプル震えていた。
「………いや、バイト中も好き勝手やってるじゃん。ところで……あ、あのさぁ。えっ……と、ん~~。そろそろ一緒に住まないか? ナタリもアパートの家賃払うの大変だろ。僕、一人だからさ………。空いた部屋使えばいいし」
「エッチなことしない?」
「………それは、約束出来ない。ただ、今よりももっとナタリと一緒にいたい。それだけなんだ。いつも………僕のそばにいてほしい」
「うん、分かった。あっ! 頭にゴミがついてるよ。今、取ってあげるね」
ゴミを取ったついでに、神様は母親のような優しさで、僕の頭を撫でてくれた。誰にも見られたくない姿。
「今だけは私のこと、ママって呼んでもいいよ? 帰ったら、いっぱいいっぱい膝枕して甘えさせてあげるね」
「やめ…ろ、それ……」
「ハクシは、こういうの好きだと思ったんだけどなぁ?」
意地悪く笑う。
「…………」
カリっ!
「そんっ、なとこ……噛んじゃ…ダ…メ」
甘噛し、照れ隠し。こういう行動が、いかにもガキっぽい。
夕陽よりも頬を染め。新たな癖が発動しそうな自分を必死に抑え込んでいた。
◆◆◆◆◆◆◆【砂漠の海】◆◆◆◆◆◆
あの日ーーー。
世界が、壊れてしまった日。
僕たちは、確かに学校の屋上にいた。
そして、今もこうして屋上にいる。僕たちは、この場所から出ることが出来ない。
出れないのは………きっと。
ここで死んでしまったからだろう。肉体は滅びても、僕たちの魂だけが、この場所に囚われている。
「大丈夫?」
「うん。平気」
僕たちの前には、果てのない砂漠が広がっていた。終わりがきた世界は、恐ろしいほど静か。人間も動物も。一匹の蟻ですら、この世界にはもういない。
「恐い?」
「………恐くない」
「嘘だ。震えてるよ」
小さな体が、さらに小さくなり、今も何かに怯えていた。
「私たち、死んだの?」
「うん。……たぶん」
「…………そう…だね」
「ごめんね。僕が、屋上に呼び出したから」
「ううん、いいの。気にしないで。ここに来たのは、私の意思だし。きっと、どこにいても生き残れなかったよ」
卒業する前に、どうしても君に伝えたかったこと。
言うタイミングは、きっと今じゃない。
だけどーーー。
「好きなんだ。こんな状況なのに告白してごめん。でもさ、でも……」
「うん」
容赦のない朝日が、砂漠の海を黄金に染めていく。目を開けていられないほど眩しかった。
数秒後、再び目を開けると。
彼女の姿が消えていた。どこを探しても見当たらない。僕は、本当に一人になってしまった。この誰もいない壊れた世界に一人。言葉に出来ない孤独感。唯一の救いだった君は、もうこの世界にはいない。
僕に残されたのは、最後に見た彼女の笑顔だけ。
僕は、彼女との思い出にすがって今も屋上に立っている。
フェンスに寄りかかり、灰色の世界をぼんやりと見ていた。
「黄昏過ぎじゃない?」
「ここから見る景色が好きなんだ」
「私も好き。はぁ~~。今日は、バイト休みだから自由だぁあーーー。シャーーーー!!」
背伸びして、拳を天高く突き上げる少女。足が、プルプル震えていた。
「………いや、バイト中も好き勝手やってるじゃん。ところで……あ、あのさぁ。えっ……と、ん~~。そろそろ一緒に住まないか? ナタリもアパートの家賃払うの大変だろ。僕、一人だからさ………。空いた部屋使えばいいし」
「エッチなことしない?」
「………それは、約束出来ない。ただ、今よりももっとナタリと一緒にいたい。それだけなんだ。いつも………僕のそばにいてほしい」
「うん、分かった。あっ! 頭にゴミがついてるよ。今、取ってあげるね」
ゴミを取ったついでに、神様は母親のような優しさで、僕の頭を撫でてくれた。誰にも見られたくない姿。
「今だけは私のこと、ママって呼んでもいいよ? 帰ったら、いっぱいいっぱい膝枕して甘えさせてあげるね」
「やめ…ろ、それ……」
「ハクシは、こういうの好きだと思ったんだけどなぁ?」
意地悪く笑う。
「…………」
カリっ!
「そんっ、なとこ……噛んじゃ…ダ…メ」
甘噛し、照れ隠し。こういう行動が、いかにもガキっぽい。
夕陽よりも頬を染め。新たな癖が発動しそうな自分を必死に抑え込んでいた。
◆◆◆◆◆◆◆【砂漠の海】◆◆◆◆◆◆
あの日ーーー。
世界が、壊れてしまった日。
僕たちは、確かに学校の屋上にいた。
そして、今もこうして屋上にいる。僕たちは、この場所から出ることが出来ない。
出れないのは………きっと。
ここで死んでしまったからだろう。肉体は滅びても、僕たちの魂だけが、この場所に囚われている。
「大丈夫?」
「うん。平気」
僕たちの前には、果てのない砂漠が広がっていた。終わりがきた世界は、恐ろしいほど静か。人間も動物も。一匹の蟻ですら、この世界にはもういない。
「恐い?」
「………恐くない」
「嘘だ。震えてるよ」
小さな体が、さらに小さくなり、今も何かに怯えていた。
「私たち、死んだの?」
「うん。……たぶん」
「…………そう…だね」
「ごめんね。僕が、屋上に呼び出したから」
「ううん、いいの。気にしないで。ここに来たのは、私の意思だし。きっと、どこにいても生き残れなかったよ」
卒業する前に、どうしても君に伝えたかったこと。
言うタイミングは、きっと今じゃない。
だけどーーー。
「好きなんだ。こんな状況なのに告白してごめん。でもさ、でも……」
「うん」
容赦のない朝日が、砂漠の海を黄金に染めていく。目を開けていられないほど眩しかった。
数秒後、再び目を開けると。
彼女の姿が消えていた。どこを探しても見当たらない。僕は、本当に一人になってしまった。この誰もいない壊れた世界に一人。言葉に出来ない孤独感。唯一の救いだった君は、もうこの世界にはいない。
僕に残されたのは、最後に見た彼女の笑顔だけ。
僕は、彼女との思い出にすがって今も屋上に立っている。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私の周りの裏表
愛’茶
キャラ文芸
市立桜ノ小路女学園生徒会の会長は、品行方正、眉目秀麗、文武両道、学園切っての才女だった。誰もが憧れ、一目を置く存在。しかしそんな彼女には誰にも言えない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる