上 下
19 / 39

19 神の子①

しおりを挟む
平日の夜。神様と一緒にハンバーガーを食べながら、テレビのお笑い番組を見ていた。

「この真ん中の芸人さん、六十三日後に死ぬよ。確か、魂の回収リストに載ってた」

「えぇっ! そう…なの? なんか………それ聞いたら、笑えなくなったわ」

ふと気になった事があったので聞いてみた。

「あのさ、神様の名前を教えてよ。これからは名前で呼びたいし」

「ぶ、ぶ、無礼なっ! 神を名前で呼ぶなななんて」

急に立ちあがり、口を尖らせて文句を言っている。正直、なんで無礼なのか全然分からない。僕は神様の首筋、透き通るような肌を人差し指で上下に往復させた。

「ひゅっ、んぅ……ダッ……メ…。し…ちゃ」

神様は、くすぐりにかなり弱い。唯一の弱点でもあった。五分後、汗ばんでくたくたになった神様は、ようやく観念して僕に名前を教えてくれた。


『ナタリ』


◆◆◆◆◆◆◆【神の子①】◆◆◆◆◆◆◆


下界に住む人間が手を合わせ、空を見上げ、各々の願いを神に届ける。


天の国。

人間が死の直前に一瞬だけ見ることを許される天の割れ目。そこから溢れた光を進み、初めて行ける場所。

「はぁ~~、人間ってホント勝手よね~。何でもかんでも神頼みだし。少しは、自分の力で何とかしろっての」

神様のストレスは、貯まる一方だった。

「ハハハ。確かにそうですね。あっ……。そういえば、今回の試験で面白い子がいましたよ」

神様の側に立つ大天使、ケルン。口髭を生やし、老いた彼はパチンッ!と指を鳴らした。すると神様の前にある映像が流れた。円形の広い講堂を埋め尽くす約一万の神様候補生が試験を受けている。皆、難問に頭を悩ませながらも必死に手を動かし、書き進めていた。


「ありゃりゃ。ダメダメじゃん、全然」

「はい……。確かにダメダメです。彼らは、何も分かっていない。あの試験は、神としての資質を見極める為のもの。高得点をとるテストじゃない。そもそも問題の数と内容は候補生それぞれ違うし。テスト用紙が候補生の内なる才を見抜き、その才能がある者ほど問題の数は少なく、簡単になる。だから、必死になって大量の問題を解いている時点で、自ら才能ないと宣言しているようなもの」

老天使は、神様の隣で寝そべる聖獣を撫でようと手を伸ばし、危うく腕まで噛みきられそうになった。慌てて、飛んで回避する。

「アッハッハ、相変わらず嫌われてるね~~。ところでさぁ、面白い子って誰?」

パチンッ!

また彼が指を鳴らすと、一人の少女が画面上に映し出された。その少女は、鉛筆を持ったまま、うとうと居眠りをしている。

「………………ふ~ん」

明らかに興味を示し、前のめりになった神様は、その子の様子を見て目を輝かせた。

「彼女は、プラハー・アンタシア・ナタリ。下級天使の家の子です。ですが、超特別。異質な存在です」

少女のテスト用紙には、問題が一問だけ。

『あなたの名前は?』


「あれれ? 確か、問題が一問だけなのって………」

「はい。そうです。天使から神様の地位まで上りつめたあなた様だけ。まぁ、あなたのお父様は別格なので参考にすらなりませんがね」

鬼気迫り、汗だくになりながら問題を解いていく候補生の中。
一人だけ、幸せそうに眠っている少女を見ながら、神様は久しぶりに身震いをしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

ほんとうに、そこらで勘弁してくださいっ ~盗聴器が出てきました……~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 盗聴器が出てきました……。 「そこらで勘弁してください」のその後のお話です。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

少女探偵

ハイブリッジ万生
キャラ文芸
少女の探偵と愉快な仲間たち

私の周りの裏表

愛’茶
キャラ文芸
市立桜ノ小路女学園生徒会の会長は、品行方正、眉目秀麗、文武両道、学園切っての才女だった。誰もが憧れ、一目を置く存在。しかしそんな彼女には誰にも言えない秘密があった。

処理中です...