14 / 39
14 出会い
しおりを挟む
夢を見た。いつも見る怖い夢ではなく、とても懐かしく………良い夢だった。
朝起きて夢から覚めると、なんだか……こう…………。胸がジンとした。僕は、またあの夏祭りの夜を思い出す。
神様に初めて会った夜。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そろそろ帰るよ。母さんが心配するからさ」
「えっ、もう帰るのか? 花火だってこれからだぞ」
屋台で順番待ちをしているタカシにサヨナラし、僕は家に帰るふりをしてタカシにばれないように神社に向かった。神社は山の奥にあって、なかなか人も来ない。
「……………」
誰もいなかった。ちょうど良い。一人になりたかったから。
夜空の星を数えるのに飽き、持っていたりんご飴の棒をゴミ箱に投げ捨てた。
「そろそろ、帰ろう」
やけに大きな独り言。
今夜は、この地区の夏祭り。女性の甲高い笑い声を背中で聞きながら、神社を後にした。
その時ーーーーー。
「……遊ぼ?」
声がした。小さい声だった。振り返るが、誰もいない。ただ、蛍が一匹飛んでいるだけ。
「この蛍の姿。驚いた? すごいでしょ~」
可愛い蛍は、僕の周りをグルッと一周すると肩にピタッと止まった。
「とても不思議だけど………。じゃあ……さ。一緒に花火を見よう。まだ始まったばかりだから」
「うん」
これが、誰かのイタズラでもかまわない。僕はただ、この蛍ともっと長く一緒にいたかった。
肩に蛍を乗せたまま、花火が見える河原まで行った。河原には、人がいっぱいで座れる場所がなかった。
赤、青、黄色……。
いろんな色が複雑に混ざりあい、目の前で弾けている。
「きれいだね。宝石みたい」
「うん」
蛍の光は、花火に負けないくらい僕には輝いて見えた。
「キミは、この町好き?」
「昔は好きだったけど……。今は、そうでもない」
「ふ~ん。私は、この町が大好きだよ。山も川も綺麗だし。美味しい食べ物もいっぱいあるしね」
急に涙が出そうになった。理由は、分からない。
「どうしたの?」
「なんでもない。……なんでもないよ」
どうしてこんなに悲しいのかな。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。ごめん」
「……………」
花火が終わるアナウンスと共に人が川原から動き始めた。二十分もすると僕たち以外誰もいなくなった。
「また会える?」
なるべく笑顔で話しかけた。
「分からない」
「そっ…か………」
最後のほうは、涙声になっていた。
「ごめんなさい。今日だって、パパにうんとお願いして、ようやく。特別に今夜だけ時間もらえたから。わたし………。実は神様なの。まだまだ見習いだけどね。だから、あんまり人間とは仲良く出来ないの」
神様だと名乗る蛍は、たぶん。涙がこぼれないように夜空を見ていたんだと思う。
そんな気がした。
「ありがとう。こんなに私のことを想ってくれて。また会えるよ。きっと。あなたは、特別だから」
僕の頬に優しく触れ、離れていく。
「もう時間みたい。パパが呼んでる。行かなくちゃ……。さようなら、ハクシくん」
「待って! まだ話したいことがあるんだ。まだ、」
蛍の光を追いながら、暗い林道を走った。神社に戻るとオレンジに輝く光の粒が、天から降ってきた。それが、フワッと舞い始める。僕の周りを。
あたたかい雪のようだった。その光から神様の声が聞こえた。
「今日は、楽しかったよ。キミに会えて本当に良かった。去年の夏祭り、覚えてる? 屋台の側でさ、捨てられた三匹の金魚の為に泣いてくれたよね。今、その金魚ちゃん。天国の湖で元気に泳いでるよ」
神様の声を聞いてると、自然と涙が溢れてきた。
最後に、僕は一番気になっていたことを聞いてみた。
「次は、人間の姿で会える?」
「かもね~」
突然、左の頬にキスされた。ビクッとして振り向くと白い衣を纏った銀髪の少女が、僕を見ながら微笑んでいた。
「……きれ…い」
「ありがとう。キミに言われると照れちゃう……」
瞬きすることさえ勿体ない。そんな奇跡的な美しさ。しばらく思考が停止。その後、すぐに手をのばしたけど女の子は幻のように僕の前から消えてしまった。
朝起きて夢から覚めると、なんだか……こう…………。胸がジンとした。僕は、またあの夏祭りの夜を思い出す。
神様に初めて会った夜。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そろそろ帰るよ。母さんが心配するからさ」
「えっ、もう帰るのか? 花火だってこれからだぞ」
屋台で順番待ちをしているタカシにサヨナラし、僕は家に帰るふりをしてタカシにばれないように神社に向かった。神社は山の奥にあって、なかなか人も来ない。
「……………」
誰もいなかった。ちょうど良い。一人になりたかったから。
夜空の星を数えるのに飽き、持っていたりんご飴の棒をゴミ箱に投げ捨てた。
「そろそろ、帰ろう」
やけに大きな独り言。
今夜は、この地区の夏祭り。女性の甲高い笑い声を背中で聞きながら、神社を後にした。
その時ーーーーー。
「……遊ぼ?」
声がした。小さい声だった。振り返るが、誰もいない。ただ、蛍が一匹飛んでいるだけ。
「この蛍の姿。驚いた? すごいでしょ~」
可愛い蛍は、僕の周りをグルッと一周すると肩にピタッと止まった。
「とても不思議だけど………。じゃあ……さ。一緒に花火を見よう。まだ始まったばかりだから」
「うん」
これが、誰かのイタズラでもかまわない。僕はただ、この蛍ともっと長く一緒にいたかった。
肩に蛍を乗せたまま、花火が見える河原まで行った。河原には、人がいっぱいで座れる場所がなかった。
赤、青、黄色……。
いろんな色が複雑に混ざりあい、目の前で弾けている。
「きれいだね。宝石みたい」
「うん」
蛍の光は、花火に負けないくらい僕には輝いて見えた。
「キミは、この町好き?」
「昔は好きだったけど……。今は、そうでもない」
「ふ~ん。私は、この町が大好きだよ。山も川も綺麗だし。美味しい食べ物もいっぱいあるしね」
急に涙が出そうになった。理由は、分からない。
「どうしたの?」
「なんでもない。……なんでもないよ」
どうしてこんなに悲しいのかな。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。ごめん」
「……………」
花火が終わるアナウンスと共に人が川原から動き始めた。二十分もすると僕たち以外誰もいなくなった。
「また会える?」
なるべく笑顔で話しかけた。
「分からない」
「そっ…か………」
最後のほうは、涙声になっていた。
「ごめんなさい。今日だって、パパにうんとお願いして、ようやく。特別に今夜だけ時間もらえたから。わたし………。実は神様なの。まだまだ見習いだけどね。だから、あんまり人間とは仲良く出来ないの」
神様だと名乗る蛍は、たぶん。涙がこぼれないように夜空を見ていたんだと思う。
そんな気がした。
「ありがとう。こんなに私のことを想ってくれて。また会えるよ。きっと。あなたは、特別だから」
僕の頬に優しく触れ、離れていく。
「もう時間みたい。パパが呼んでる。行かなくちゃ……。さようなら、ハクシくん」
「待って! まだ話したいことがあるんだ。まだ、」
蛍の光を追いながら、暗い林道を走った。神社に戻るとオレンジに輝く光の粒が、天から降ってきた。それが、フワッと舞い始める。僕の周りを。
あたたかい雪のようだった。その光から神様の声が聞こえた。
「今日は、楽しかったよ。キミに会えて本当に良かった。去年の夏祭り、覚えてる? 屋台の側でさ、捨てられた三匹の金魚の為に泣いてくれたよね。今、その金魚ちゃん。天国の湖で元気に泳いでるよ」
神様の声を聞いてると、自然と涙が溢れてきた。
最後に、僕は一番気になっていたことを聞いてみた。
「次は、人間の姿で会える?」
「かもね~」
突然、左の頬にキスされた。ビクッとして振り向くと白い衣を纏った銀髪の少女が、僕を見ながら微笑んでいた。
「……きれ…い」
「ありがとう。キミに言われると照れちゃう……」
瞬きすることさえ勿体ない。そんな奇跡的な美しさ。しばらく思考が停止。その後、すぐに手をのばしたけど女の子は幻のように僕の前から消えてしまった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私の周りの裏表
愛’茶
キャラ文芸
市立桜ノ小路女学園生徒会の会長は、品行方正、眉目秀麗、文武両道、学園切っての才女だった。誰もが憧れ、一目を置く存在。しかしそんな彼女には誰にも言えない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる