13 / 39
13 中の人
しおりを挟む
深夜。喉の乾きで目が覚めた。フラフラしながら一階に降りる。冷えた麦茶をコップ一杯飲み干し、少し落ち着くと同時、見慣れたはずのリビングが別の場所のように居心地悪く感じた。
「………?」
ソファーの上に自分そっくりな小さなマネキンが一体置かれていた。
こんなもの、誰が?
神様は、こんな悪ふざけはしないし。
左手で冷や汗を拭おうとしたが、自分の手じゃないように動きが鈍い。慌てて見ると、両手がマネキンのようなツヤツヤ光る作り物になっていた。
悪夢を、この世界全てを拒絶するように目を閉じ、体を丸めた。
『大丈夫。あなたには、私がついてる』
その優しい神の声だけが、救いだった。
◆◆◆◆◆◆◆【中の人】◆◆◆◆◆◆◆
久しぶりに飲み友が、家に遊びに来た。
「この話とは全く関係ないんだけど、俺の実家にさ、昔から何体もマネキンがあって。マネキン集めが、親父の趣味なんだ」
「マネキン?」
「うん、マネキン。ちなみに俺のお気に入りは、左足のないマネキンガールなんだけど……。今度、見る?」
「いやいやいやいや、そんなもん見るかよ! ってか、急に怖ぇな」
「うん。子供の頃は、そのマネキンだらけの状況が怖かったんだけどさ、今はなんだか慣れてきて。しかも最近は、左足がないのが可哀想になってきたから………。ネットとかで探してるんだ」
「マネキンの足を? 大丈夫か、お前」
「でもどうしても良いモノが見つからないんだよ。仕方ないから俺の足をあげようとしたんだけどさ、人形が嫌だって言うから」
俺は、台所からノコギリを持ってきた。
「っ!?」
「だからさ、お前の左足をくれよ」
「バっ、ま、ま、待てっ!!」
…………………………………。
…………………。
…………。
「な~んちゃってぇ~」
「おぃ………笑えないぞ、それ。はぁ~怖かった。お前さぁ、演技の才能あるかもな。目が、かなりヤバかったし」
「そう? やったぁー! 大成功。あっ…………。もう、そろそろ彼女が来るからさ。お前、帰れよ」
「急になんだよ。勝手過ぎるぞ。そんなんじゃ、いつか友達無くす。ってか、お前いつから彼女いたんだよ」
「最近、出来た~。じゃあ、また連絡するから。妹さんに宜しく」
「はぁ? 俺に妹なんていねぇぞ。誰と勘違いしてんだよ。…………まぁ、いいや。じゃあな、変態マネキン野郎」
「うん。また」
友達が帰ったのをカーテンの隙間から確認後。俺は、浴室にいる彼女に声をかけた。
大量の睡眠薬で今もスヤスヤ夢の中。
「アイツがさ、この細い足が好きだって言うから……。ごめん。悪いけどその左足もらうわ」
俺の背後に立つ大好きなマネキンガール。
『お兄ちゃん、元気そうだったね』
「うん。アイツさぁ、すっかり忘れてるよな~。自分が、元マネキンだったこと」
「………?」
ソファーの上に自分そっくりな小さなマネキンが一体置かれていた。
こんなもの、誰が?
神様は、こんな悪ふざけはしないし。
左手で冷や汗を拭おうとしたが、自分の手じゃないように動きが鈍い。慌てて見ると、両手がマネキンのようなツヤツヤ光る作り物になっていた。
悪夢を、この世界全てを拒絶するように目を閉じ、体を丸めた。
『大丈夫。あなたには、私がついてる』
その優しい神の声だけが、救いだった。
◆◆◆◆◆◆◆【中の人】◆◆◆◆◆◆◆
久しぶりに飲み友が、家に遊びに来た。
「この話とは全く関係ないんだけど、俺の実家にさ、昔から何体もマネキンがあって。マネキン集めが、親父の趣味なんだ」
「マネキン?」
「うん、マネキン。ちなみに俺のお気に入りは、左足のないマネキンガールなんだけど……。今度、見る?」
「いやいやいやいや、そんなもん見るかよ! ってか、急に怖ぇな」
「うん。子供の頃は、そのマネキンだらけの状況が怖かったんだけどさ、今はなんだか慣れてきて。しかも最近は、左足がないのが可哀想になってきたから………。ネットとかで探してるんだ」
「マネキンの足を? 大丈夫か、お前」
「でもどうしても良いモノが見つからないんだよ。仕方ないから俺の足をあげようとしたんだけどさ、人形が嫌だって言うから」
俺は、台所からノコギリを持ってきた。
「っ!?」
「だからさ、お前の左足をくれよ」
「バっ、ま、ま、待てっ!!」
…………………………………。
…………………。
…………。
「な~んちゃってぇ~」
「おぃ………笑えないぞ、それ。はぁ~怖かった。お前さぁ、演技の才能あるかもな。目が、かなりヤバかったし」
「そう? やったぁー! 大成功。あっ…………。もう、そろそろ彼女が来るからさ。お前、帰れよ」
「急になんだよ。勝手過ぎるぞ。そんなんじゃ、いつか友達無くす。ってか、お前いつから彼女いたんだよ」
「最近、出来た~。じゃあ、また連絡するから。妹さんに宜しく」
「はぁ? 俺に妹なんていねぇぞ。誰と勘違いしてんだよ。…………まぁ、いいや。じゃあな、変態マネキン野郎」
「うん。また」
友達が帰ったのをカーテンの隙間から確認後。俺は、浴室にいる彼女に声をかけた。
大量の睡眠薬で今もスヤスヤ夢の中。
「アイツがさ、この細い足が好きだって言うから……。ごめん。悪いけどその左足もらうわ」
俺の背後に立つ大好きなマネキンガール。
『お兄ちゃん、元気そうだったね』
「うん。アイツさぁ、すっかり忘れてるよな~。自分が、元マネキンだったこと」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん
翠常梟莉(みどりとこきょうり)
キャラ文芸
三十路男3人の日常もの。魔法も超能力もありません。
毎週水曜日20時10分更新予定。
※一気読みしたい方は外部の個人サイトへどうぞ。執筆の勢いのままに更新されています。
東方幻影外時空伝
小池 竜一
キャラ文芸
忘れられた者たちが紡ぐ奇跡の物語。
幻想郷に突如蔓延した、謎のウイルス。幻想郷住民達では、どうにも成らなくなって、幻想郷の巫女様にも蔓延した。その時、妖怪の賢者様がある判断を下す。
果たして、下した先に待ち構えてる、幻想郷の未来とは?
ヘンリエッタの再婚約
桃井すもも
恋愛
ヘンリエッタは学園の卒業を半年後に控えたある日、縁談を打診される。
それは王国の第二王子殿下からの勧めであるらしく、文には王家の金色の封蝋が見えていた。
そんな事ってあるだろうか。ヘンリエッタは第二王子殿下が無理にこの婚約を推し進めるのであれば、一層修道院にでも駆け込んで、決して言うがままにはされるまいと思った。
それもその筈、婚約話しの相手とは元の婚約者であった。
元婚約者のハロルドとは、彼が他に愛を移した事から婚約を解消した過去がある。
あれ以来、ヘンリエッタはひと粒の涙も零す事が無くなった。涙は既に枯れてしまった。
❇短編から長編へ変更致しました。
❇R15短編にてスタートです。R18なるかな?どうかな?
❇登場人物のお名前が他作品とダダ被りしておりますが、皆様別人でございます。
❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。
❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。
❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。
疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。
❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。
❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく公開後から激しい微修正が入ります。
「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。
ご自分の病気が治ったら私は用無しですか…邪魔者となった私は、姿を消す事にします。
coco
恋愛
病気の婚約者の看病を、必死にしていた私。
ところが…病気が治った途端、彼は私を捨てた。
そして彼は、美しい愛人と結ばれるつもりだったが…?
護堂先生と神様のごはん あやかし子狐と三日月オムライス
栗槙ひので
キャラ文芸
中学校教師の護堂夏也は、独り身で亡くなった叔父の古屋敷に住む事になり、食いしん坊の神様と、ちょっと大人びた座敷童子の少年と一緒に山間の田舎町で暮らしている。
神様や妖怪達と暮らす奇妙な日常にも慣れつつあった夏也だが、ある日雑木林の藪の中から呻き声がする事に気が付く。心配して近寄ってみると、小さな子どもが倒れていた。その子には狐の耳と尻尾が生えていて……。
保護した子狐を狙って次々現れるあやかし達。霊感のある警察官やオカルト好きの生徒、はた迷惑な英語教師に近所のお稲荷さんまで、人間も神様もクセ者ばかり。夏也の毎日はやっぱり落ち着かない。
護堂先生と神様のごはんシリーズ
長編3作目
「アンダーワールド*冥界と下界*」~神・死神・人間・妖怪の戦が今始まる~番外編
八雲翔
ライト文芸
アンダーワールドの番外編になります。
その後の冥界と人間界の闘いです。
人柱により国を治めてきた人間界と、
そんな国のトップと戦う冥界の日常を描いています。
冥界もマルシェでお金を稼ぎ、
妖怪、幽霊作家とともに冥界で暮らす資金を集めています。
ただ働きでで下界(人間界)の悪霊を退治し、
神殺しをする人間に天罰が下り始めた後半からの続きを、
この番外編で少し触れています。
冥界、死神、人間、幽霊、妖怪………が蠢く世界。
物語の国は人々の負の感情から悪霊に覆われ、
冥界に所属する特例達は彼らの為に死んでもなお働いています。
本編から少し先の物語に触れていますので、
番外編も楽しんでいただけたら嬉しいです。
本編に掲載されていましたが、
番外編なので別に分けさせていただきました。
*この物語はフィクションです。
実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。
八雲翔
高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!
ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。
しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる