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8 赤い蝶

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今日、学校を休んだ。多少、我慢したら普通に行けた。微熱と軽い頭痛があったが、今はこの家に一人。休んでも文句を言う人間はいない。

「お粥出来たよ。……食べれそう?」

神様は、そんなほぼ仮病の僕を看病するためにバイトを休んで、わざわざ家に来てくれた。彼女は、優しい…………。それに、すごく可愛い。正直、ずっと前から大好きだった。

「ありがとう。もう大丈夫だからさ、帰って大丈夫だよ」

でも神様に手を出したら、地獄行きが確定する。

「じゃあ、この甘えん坊の手を離してくれないかなぁ?」

ニタニタ笑いながら、神様は僕の左手を優しく握り返してくれた。少し開けた窓からは、見たことのない赤い蝶が一匹部屋に入って来た。
急に立ち上がった神様は、その蝶を掴み、息を吹きかけた。赤い蝶は、見慣れた紋白蝶になった。

「この人間は、殺させない」

そう呟いた神様は、珍しく少し怒っていた。


◆◆◆◆◆◆◆【赤い蝶】◆◆◆◆◆◆◆◆


風邪を引いた。ダルくてダルくて。それでも会社は休めないから、無理して出勤した。ほぼ機能しない頭での仕事は、ミスばかり。上司の怒りを買うだけだった。

昼休み。午後をなんとか乗り切る為に薬をドリング剤で流し込んだ。

熱のせいで幻覚を見ているのか。さっきから赤い蝶々がそこら中を飛び回っている。しかも時間と共に数を増しているみたいだ。


………そろそろ本当に限界かもしれない。


夕方頃。俺は早退することを決め、ふらふらしながら席を立つ。酷い頭痛と吐き気。

その時には、増えに増えた蝶が、壁や床、デスク周り。オフィス全体を赤く染めていた。


「あの……さ。なんだろ、この蝶」

「何? 蝶なんてどこにいる? それより、お前。すげぇ、顔真っ赤だな。インフルじゃねぇだろうな。……俺にうつすなよ。女子大との合コンも近いし」

この群れた蝶が見えてないのか?
はは……。いくらなんでも、ありえないだろ。まぁ、いいや。今は、それどころじゃない。


逃げるように去った同僚の背中には、びっしりと蝶が貼り付いていた。良く見ると周りの人間、 みんな仲良く蝶がお好きみたいだ。

自分も慌てて確認したが、一匹も蝶はついていない。


早退する旨を伝え、機嫌が最悪な上司に嫌味を言われた。が、今さら気にもならない。それよりも上司の顔にへばりついた蝶が気になって仕方なかった。


タクシーで自宅マンションまで帰り、スーツ姿のまま、ベッドにダイブ。それから半日。死んだように眠った。
目が覚め、少し空腹を感じたのでカップ麺を食べながら、テレビでニュースをぼんやり見ていると自分の職場が画面に映った。

原因不明の爆発により、死傷者が多数出たらしい。俺が働いている部署がある階は一番被害が大きく、助かった者はいなかった。

俺は震えながら、それでも画面から目を離せなかった。ビルの割れた窓から出てくる無数の赤い蝶が、天まで届くほどに連なっていた。
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