1 / 39
1 黒い封筒
しおりを挟む
僕の人生をメチャクチャに掻き乱した彼女。
どうしてこんなに。
死ぬほど愛おしいんだろうーーー
◆◆◆◆◆【0】◆◆◆◆◆◆
甘い人間、逃げ癖のある僕は、自分の限界を思い知ると必ずここに来る。
何度、落選したか……。バカらしくて、途中から数えるのもやめた。
結局のところ、才能がない。
もう、さすがに無理かもしれない。
だけど、夢の欠片が僕の挫折をいつもいつも邪魔する。
誰かッ!!
今すぐビンタして目を覚まさせてくれ。
……………………。
……………。
……。
「はぁ~~」
静かな夜の喫茶店。客は少なく、店内では曲名は思い出せないけど、どこかで聞いたことのある懐かしい歌が流れていた。
ふと外を見ると、路面がテカテカ光っており、憎い雨が降り始めたことに気づいた。僕は、いつもの指定席に座ると小さなリュックから一冊のノートを取り出す。ここではない奇妙な世界に思いを馳せる。スラスラとまではいかないけど、なぜか家よりもこの場所の方が落ち着いて書くことが出来た。
ベシィッッ!!
突然襲う、強烈な頬の痛み。
「いっ!? 痛っっ……。な、なんでいきなりビンタするんだよ!!」
「心の中でビンタしてって言ってたよ? そんなに怒らないでよ。悲しぃ……。ところで、今度は何を書いてるの?」
「ホラーっぽい話……」
ヒョコっと顔を出したバイト中の友達が、アイスティーを僕の横に静かに置いた。
「ありがと………」
「これ飲んでさ、元気出しなよ」
信じてもらえないだろうけど、この小動物のように可愛い少女は『神様』。人間の振りをして、この人間界で自由気ままに生活している。一応これでも神様なので、魔法のような……不思議な力があり、度々とんでもない事をしでかす。
「なんか、腹立つ言い方だなぁ。相変わらず、人間の癖に生意気だね、キミって」
神様は、腕を組みながら僕の隣にドカッと座る。
「仕事中でしょ? サボるなよ」
「いいの、いいの。客は、アナタしかいないんだから~」
「………まぁ、確かに」
「いいの、いいの。私の店だから」
「それは、違うだろ」
「ハハハ」
神様は、無邪気に笑っていた。
一度ため息をついた後、また自分の世界に戻っていく。
しばらくして、
「頑張ったんだから、仕方ないよ。次だよ、次。頭切り替えていこっ!」
「そんな……簡単に言うなよ。はぁ~~」
「ハクシは才能あるから、きっとプロになれるよ」
「才能なんてない……。今日、また一次落ちしたし。はぁ~~~~~~」
「じゃあ、なんでまだ書いてるの?」
「さぁ………」
「書くことが好きならさ。まだ好きでいられるなら。それが、一番の才能じゃない?」
「…………………」
甘くはない液体を強引に喉に流し込んだ。
動揺と悔しさ。それらが溶けた涙も一緒に飲み込んだ。
「必ず、プロになる……」
「うんっ! その言葉を聞いたの三十二回目だけど、楽しみにしてるね」
不純な理由かもしれないけどさ、プロになって、もっと君の笑顔が見たい。
突然、激しい頭痛に襲われた。世界を拒絶するようにギュッと目を閉じる。数分後、ようやく目を開けると目の前に先ほどまでなかった『黒い封筒』がそっと置かれていた。
彼女が置いたに違いないと辺りを探したけど、誰の気配も感じなかった。
◆◆◆◆◆【黒い封筒】◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「は? なんだ、コレ」
家のポストに見たことのない黒い封筒があった。
手に取り良く見ると、その黒い封筒はざわざわと小さく動いている。俺は反射的にその封筒を地面に叩きつけた。
ザワザワザワザワザワザワサ
封筒にくっついていたのは、虫。虫の群れ。その虫たちが離れると黒い封筒は、ただの白い封筒になった。
白い封筒の中身を恐る恐る見ると、見たことのない字? が、びっしりと紙全体に書いてあった。内容は分からなかったが、自分に対する強い憎しみを文面から感じた。
今までに意識、無意識関係なく殺してきた虫たち。
目の前から、黒い風……いや、無数の虫が俺に迫ってきている。
俺に、逃げ場はない。俺がそうであったように、今度は虫たちが、害な俺を殺そうとしている。
どうしてこんなに。
死ぬほど愛おしいんだろうーーー
◆◆◆◆◆【0】◆◆◆◆◆◆
甘い人間、逃げ癖のある僕は、自分の限界を思い知ると必ずここに来る。
何度、落選したか……。バカらしくて、途中から数えるのもやめた。
結局のところ、才能がない。
もう、さすがに無理かもしれない。
だけど、夢の欠片が僕の挫折をいつもいつも邪魔する。
誰かッ!!
今すぐビンタして目を覚まさせてくれ。
……………………。
……………。
……。
「はぁ~~」
静かな夜の喫茶店。客は少なく、店内では曲名は思い出せないけど、どこかで聞いたことのある懐かしい歌が流れていた。
ふと外を見ると、路面がテカテカ光っており、憎い雨が降り始めたことに気づいた。僕は、いつもの指定席に座ると小さなリュックから一冊のノートを取り出す。ここではない奇妙な世界に思いを馳せる。スラスラとまではいかないけど、なぜか家よりもこの場所の方が落ち着いて書くことが出来た。
ベシィッッ!!
突然襲う、強烈な頬の痛み。
「いっ!? 痛っっ……。な、なんでいきなりビンタするんだよ!!」
「心の中でビンタしてって言ってたよ? そんなに怒らないでよ。悲しぃ……。ところで、今度は何を書いてるの?」
「ホラーっぽい話……」
ヒョコっと顔を出したバイト中の友達が、アイスティーを僕の横に静かに置いた。
「ありがと………」
「これ飲んでさ、元気出しなよ」
信じてもらえないだろうけど、この小動物のように可愛い少女は『神様』。人間の振りをして、この人間界で自由気ままに生活している。一応これでも神様なので、魔法のような……不思議な力があり、度々とんでもない事をしでかす。
「なんか、腹立つ言い方だなぁ。相変わらず、人間の癖に生意気だね、キミって」
神様は、腕を組みながら僕の隣にドカッと座る。
「仕事中でしょ? サボるなよ」
「いいの、いいの。客は、アナタしかいないんだから~」
「………まぁ、確かに」
「いいの、いいの。私の店だから」
「それは、違うだろ」
「ハハハ」
神様は、無邪気に笑っていた。
一度ため息をついた後、また自分の世界に戻っていく。
しばらくして、
「頑張ったんだから、仕方ないよ。次だよ、次。頭切り替えていこっ!」
「そんな……簡単に言うなよ。はぁ~~」
「ハクシは才能あるから、きっとプロになれるよ」
「才能なんてない……。今日、また一次落ちしたし。はぁ~~~~~~」
「じゃあ、なんでまだ書いてるの?」
「さぁ………」
「書くことが好きならさ。まだ好きでいられるなら。それが、一番の才能じゃない?」
「…………………」
甘くはない液体を強引に喉に流し込んだ。
動揺と悔しさ。それらが溶けた涙も一緒に飲み込んだ。
「必ず、プロになる……」
「うんっ! その言葉を聞いたの三十二回目だけど、楽しみにしてるね」
不純な理由かもしれないけどさ、プロになって、もっと君の笑顔が見たい。
突然、激しい頭痛に襲われた。世界を拒絶するようにギュッと目を閉じる。数分後、ようやく目を開けると目の前に先ほどまでなかった『黒い封筒』がそっと置かれていた。
彼女が置いたに違いないと辺りを探したけど、誰の気配も感じなかった。
◆◆◆◆◆【黒い封筒】◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「は? なんだ、コレ」
家のポストに見たことのない黒い封筒があった。
手に取り良く見ると、その黒い封筒はざわざわと小さく動いている。俺は反射的にその封筒を地面に叩きつけた。
ザワザワザワザワザワザワサ
封筒にくっついていたのは、虫。虫の群れ。その虫たちが離れると黒い封筒は、ただの白い封筒になった。
白い封筒の中身を恐る恐る見ると、見たことのない字? が、びっしりと紙全体に書いてあった。内容は分からなかったが、自分に対する強い憎しみを文面から感じた。
今までに意識、無意識関係なく殺してきた虫たち。
目の前から、黒い風……いや、無数の虫が俺に迫ってきている。
俺に、逃げ場はない。俺がそうであったように、今度は虫たちが、害な俺を殺そうとしている。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私の周りの裏表
愛’茶
キャラ文芸
市立桜ノ小路女学園生徒会の会長は、品行方正、眉目秀麗、文武両道、学園切っての才女だった。誰もが憧れ、一目を置く存在。しかしそんな彼女には誰にも言えない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる