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⑯記念日
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研究施設を見下ろせる小高い丘の頂上で少女を静かに背中から下ろした。
「大丈夫?」
『はい……大丈夫です。助けていただき、ありがとうございました』
「うん。じゃあ、僕……。そろそろ行くね」
『はい。お気をつけて』
「……………」
しばらく歩き、振り返る。謎の少女は、まだ同じ場所にいた。落ちている葉っぱや枝を興味深そうに触っている。
団子虫を手のひらに乗せ、笑いながら話しかけていた。
『虫さん、こんにちは。私は、人間の女です』
そんな無邪気な少女に迫る、確実な命の期限ーー。
この少女も分かっているはず。施設から逃げた時点で死ぬ覚悟は出来ているだろう。
「…………………」
これ以上関わると、僕だけじゃなくモモちゃんにまで危険が及ぶ可能性がある。
あの研究施設は、生体実験をしていたのだろう。施設から逃げ出した貴重なサンプルである、あの少女を今後も血眼で探すはずで………。一緒にいたら、間違いなく僕達も無事じゃすまない。
だからーーーー。
「ごめん。僕を許して」
………………………。
………………。
…………。
……。
モモちゃん。
「行く場所ないならさ、僕のアパートに来る?」
再び、少女の元へ。
『…………私には、アナタにあげるものがもう何もありません。だから……』
「これはサービスだから気にしなくて良いよ。キミ、とっても運が良いね~。じゃあ、あの…えっ…と…ほら、とにかく乗ってっ!」
腰を屈める。
『…………ありがとうございます』
泣き虫な少女をおんぶし、歩き出した。
その時ーーーー。
激しい爆発音と共に研究施設から激しい炎が上がった。離れた距離にいるここまで爆風と衝撃波が来たくらい、凄まじい爆発だった。
「な、なな、なんだぁ!?」
『………………』
爆発の原因は分からないが、あの中で助かるのは、ほぼ不可能だろう。逆に僕達の生存確率が爆上がりした。
奇跡が、起こった。
「やったぜっ!!」
『あまり…揺らさないでください……気持ちが悪くて』
「あ、うん。ごめん」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ボロアパートに帰還した僕と少女。
モモちゃんには、親戚の子をしばらく預かったと嘘をついた。
「こっちへ来て。お風呂でキレイキレイしようね」
モモちゃんは、少女の体をキレイに洗った後、足の手当てをした。手際が良い。
「ごめんね。急にこんなことになって……」
「大丈夫だよ。この子、とっても良い子だし。それに私、子供大好きだから」
「はぁ~。良かったぁ」
「これから宜しくね」
『はぃ……』
「あれ? モモちゃんは、頭にこの子の声が響くの驚かない?」
「世界は広いからね~。これくらいじゃ、全然驚かないよ~」
『あなた……施設で見ました』
「施設? 私は、ずっとこの部屋で寝てたよ。だから、人違いだよ~」
『…………人違い…?』
「タツ君。今日からこの子も私達の家族だね」
「うん。僕達は、もう家族だから仲良くしよう!」
『……家族』
「あぁーーーっ!? 泣かせたぁ! いっけないんだ、最低~!」
横腹をツンツン指先で刺してくる。
「あ、この子も海が好きみたいだからさ、今度の休みに三人で海に行こう」
『海ぃ!……ひぐっ……』
「あーーーーーっ!? また泣かせたぁ!!」
「うるさいな……さっきから」
「今日からは、私のことをママって呼んでね」
『はい……。ママ』
「私に、こんな可愛い子が出来ました。うれしいな~」
「じゃあ、僕はパパ?」
「調子に乗らないで! ったく、もう!!」
「なんでキレてんだよっ!」
『…………ハハ』
僕の中で、また記念日が一つ増えた。
「大丈夫?」
『はい……大丈夫です。助けていただき、ありがとうございました』
「うん。じゃあ、僕……。そろそろ行くね」
『はい。お気をつけて』
「……………」
しばらく歩き、振り返る。謎の少女は、まだ同じ場所にいた。落ちている葉っぱや枝を興味深そうに触っている。
団子虫を手のひらに乗せ、笑いながら話しかけていた。
『虫さん、こんにちは。私は、人間の女です』
そんな無邪気な少女に迫る、確実な命の期限ーー。
この少女も分かっているはず。施設から逃げた時点で死ぬ覚悟は出来ているだろう。
「…………………」
これ以上関わると、僕だけじゃなくモモちゃんにまで危険が及ぶ可能性がある。
あの研究施設は、生体実験をしていたのだろう。施設から逃げ出した貴重なサンプルである、あの少女を今後も血眼で探すはずで………。一緒にいたら、間違いなく僕達も無事じゃすまない。
だからーーーー。
「ごめん。僕を許して」
………………………。
………………。
…………。
……。
モモちゃん。
「行く場所ないならさ、僕のアパートに来る?」
再び、少女の元へ。
『…………私には、アナタにあげるものがもう何もありません。だから……』
「これはサービスだから気にしなくて良いよ。キミ、とっても運が良いね~。じゃあ、あの…えっ…と…ほら、とにかく乗ってっ!」
腰を屈める。
『…………ありがとうございます』
泣き虫な少女をおんぶし、歩き出した。
その時ーーーー。
激しい爆発音と共に研究施設から激しい炎が上がった。離れた距離にいるここまで爆風と衝撃波が来たくらい、凄まじい爆発だった。
「な、なな、なんだぁ!?」
『………………』
爆発の原因は分からないが、あの中で助かるのは、ほぼ不可能だろう。逆に僕達の生存確率が爆上がりした。
奇跡が、起こった。
「やったぜっ!!」
『あまり…揺らさないでください……気持ちが悪くて』
「あ、うん。ごめん」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ボロアパートに帰還した僕と少女。
モモちゃんには、親戚の子をしばらく預かったと嘘をついた。
「こっちへ来て。お風呂でキレイキレイしようね」
モモちゃんは、少女の体をキレイに洗った後、足の手当てをした。手際が良い。
「ごめんね。急にこんなことになって……」
「大丈夫だよ。この子、とっても良い子だし。それに私、子供大好きだから」
「はぁ~。良かったぁ」
「これから宜しくね」
『はぃ……』
「あれ? モモちゃんは、頭にこの子の声が響くの驚かない?」
「世界は広いからね~。これくらいじゃ、全然驚かないよ~」
『あなた……施設で見ました』
「施設? 私は、ずっとこの部屋で寝てたよ。だから、人違いだよ~」
『…………人違い…?』
「タツ君。今日からこの子も私達の家族だね」
「うん。僕達は、もう家族だから仲良くしよう!」
『……家族』
「あぁーーーっ!? 泣かせたぁ! いっけないんだ、最低~!」
横腹をツンツン指先で刺してくる。
「あ、この子も海が好きみたいだからさ、今度の休みに三人で海に行こう」
『海ぃ!……ひぐっ……』
「あーーーーーっ!? また泣かせたぁ!!」
「うるさいな……さっきから」
「今日からは、私のことをママって呼んでね」
『はい……。ママ』
「私に、こんな可愛い子が出来ました。うれしいな~」
「じゃあ、僕はパパ?」
「調子に乗らないで! ったく、もう!!」
「なんでキレてんだよっ!」
『…………ハハ』
僕の中で、また記念日が一つ増えた。
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