理想的な夫婦

カラスヤマ

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⑪理想的な夫婦

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ランキング圏外のあの男に『死人』だと言われたあの日ーーー。

私は、本当に限界だった。

殺し屋として難しい依頼をゲームのようにクリアしていく毎日。周りからの評価も上がり、気づいたら世界一の殺し屋になっていた。使いきれないほどのお金。私の前に天高くそびえ立つ。


私には確かに殺しの才能があったし、殺し自体もそこまで嫌いではなかった。

だけどーーー。

手をどんなに洗っても血の臭いが落ちなくなり。鏡を見ても『私ってこんな顔だっけ?』とまるで別人のように感じて。

なんで殺しをしているのか分からなくなった……。次第に私という存在が曖昧になり、内側から壊れ、崩れていくのだけは分かった。

周りの連中は、そんな私の異変に全く気づかない。

彼を除いてーーー。

あんなランキング外の弱っちい男に私は産まれて初めて頼りたくなった。

助けて欲しかった。

お金に執着していなかった彼は、信じられないような安い料金で殺しの依頼を引き受けていた。だから住んでいるアパートもぼろぼろ。

そんなボロアパートの前で彼の帰りを待っていると、急に空から雨が降ってきた。傘は持っていない。雨宿りする気もない。すぐに全身がびしょ濡れになった。

目の前の水溜まり。その前に土下座して、必死に両手を泥水で洗った。

臭い臭い臭い臭い。

臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い。

臭くて臭くて堪らない。

『臭いの…落ちない…』

『全然、臭くないよ』

泥だらけの両手を包まれた。我慢が出来ず、私は彼を抱き締めた。


『変な女でごめんなさい……』

『謝らなくていいよ』

彼の部屋でお風呂をかりて、変な柄のパジャマを着た。彼が淹れてくれたココアを飲むと、私の目から涙が溢れた。

殺し屋になってから、泣くなんて行為はしたことがなく。久しぶり過ぎて、どうやってこの涙を止めて良いのか分からなかった。

震えながら泣いている私の背中を彼は朝まで擦ってくれた。

朝日で部屋が明るくなった頃、ようやくこの涙が止まった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「着きましたよ。桃香様」

「………………」

ホテルの前で車を降りた私は、最上階を見上げた。灰色の空から、冷たい雨が落ちてくる。

でも、あの時とは逆で。

「おかえり。モモちゃん」

「ただいま……」

彼に抱きしめられた。
アイツが放った言葉が甦る。

「タツ君……。これは、幻想なんかじゃないよね?」

「もちろんっ!  僕達は、確かにここにいるよ? ちゃんと生きてる。だからさ、もう泣かなくて大丈夫だよ」


きっと、私達は世界で一番。

理想的な夫婦だろう。

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