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⑨夢物語
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住む場所を失った僕達は、しばらく町をさ迷っていた。手を繋ぎながら、町をぶらぶら。モモちゃんは、ニコニコ嬉しそう。
「とりあえず今夜は、ネットカフェにでも行こうか? 暖かいし、飲み物あるし」
「う~ん。それも良いけど……。とりあえず、私の知り合いがやってるホテルがあるからさ、そこに今夜は泊まらない? 広いし、便利だよ」
モモちゃんが携帯でタクシーを呼んだ。
そのリムジンに似ているタクシーに僕達は乗り込んだ。小さな財布の中身を確認した後、隣に座るモモちゃんに小声で話しかけた。
「ねぇ…ねぇ……。あの…さ、今あまりお金ないよ? このタクシー代、大丈夫かな……」
「アハハッ! 心配しなくても大丈夫。このタクシーも知り合いだから、無料だよ」
「えっ!? タダなの?」
「うん。無料。一生、無料。この私からお金とるような野暮なことしないよね? だよね、竜崎さん」
「うぇっ!? ああ、あ…の……貸し切りだと……だいぶ赤字で……」
「そういえば、あの可愛い娘さん、お元気? それにしても危ない墨好きな彼氏から縁が切れて良かったよね~。誰かのおかげで、さ!」
「モモちゃん。そんなに前のめりになったら危ないよ」
モモちゃんに肩を揉まれながら、なぜか焦っている運転手。
「はいっ! 娘も元気です!! ありがとうございました、桃香様」
長身の痩せた運転手が、立つような勢いでなぜかお礼を言っていた。
乗車時間、四十分。高速にまで乗り、リムジン風のタクシーが止まった場所は、県境にある高級ホテルだった。
戸惑う俺の手を引っ張りながら、ホテルの中に入る。
ーー確か、テレビでも見たことがある三ツ星ホテルだ。
再び不安になり、モモちゃんに話しかけた。
「………あの…さ、こんな高そうなホテルに入って大丈夫? さっきも言ったけど金ないよ?」
「もうっ! 心配が過ぎるよ、タツ君は。私に任せなさい!!」
モモちゃんは、一直線でフロントに向かうと従業員に支配人らしき女性を呼ばせた。今、その女性と話している。
…………………………。
……………………。
……………。
すぐに先ほどの運転手と同じようなリアクションになった女性は、僕達をスイートルームに案内した。
「無料だって。いつまでもいていいみたい」
「ここもタダなのっ!? はぁ~……モモちゃんは、凄いなぁ。良い知り合いがたくさんいて………。僕なんかそんな人、一人もいないし」
数十人は座れそうなソファーに寝転び、モモちゃんの柔らかい膝枕で頭を撫でられていると、嫌でも自分の不甲斐なさを感じた。
「タツ君には私がいるでしょ? その他大勢は要らないの。私だけがいればいいんだよ」
「最近、モモちゃんに甘え過ぎてない?」
「もっともっともっともっと甘えて良いよ~」
「………そんなに甘えて、ダメ人間にならないかな?」
「もしダメ人間になったら、タツ君のお尻に私の細腕を根本まで突き刺してでもしっかりしてもらうよ~」
「死んじゃうって」
「死なないギリギリを攻めるよ~」
「攻めるな! 色々と気を付けるわ。自分の為に」
「フフン」
住む場所が見つかり……。モモちゃんの体温を感じ、安堵からそのまま寝てしまった。
………………………。
…………………。
……………。
夢を見たーーーー。
憧れのあの人と初めて話した時。数メートル先にいる魔女。仮面を被っていてもその威圧感とオーラに全身の鳥肌が止まらなかった。
『あなたは、どうして殺し屋になったの?』
『……気づいたら、こんな糞みたいな自分になっていました。たいした理由なんてありません』
『私の願いを聞いてくれない?』
『…………願い…ですか…』
『お前に私を殺してほしい』
『ハ…ハ……最強の殺し屋のあなたを僕みたいな雑魚が殺せるはずないでしょ? 冗談はやめてください』
僕の前で両膝をつき、首を前につき出した。長刀を僕の前に放り投げた。
『私は抵抗もしないし、力も出さない。それを首の上から落とせばいい。簡単でしょ?』
『……………分かりました』
腰まである白銀の髪が、僕の靴に触れる。静かに刀を拾った。
『ありがとう』
『…………………』
『………………………』
『……………………………』
『早くして』
『………やっぱり…無理です。僕には』
『はぁ………。殺し屋として失格ね。何の価値もない。分かった。違う奴を探すから、私の前から消えなさい』
僕は、刀を魔女の前に置いた。
『殺せない。アナタは、もう死んでいるから。死体を弄ぶ趣味は、僕にはありません……ごめんなさい』
『っ!?』
最初で最後だったけど。世界一の殺し屋と話せただけで、僕は数日間、舞い上がっていたっけ。
あれ?
そういえば、モモちゃんも綺麗な白銀の髪。……長さは全然違うけど。
僕って、髪フェチなのかな?
「むにゃ……むにゃ……どんかん……むにゃむにゃ……」
「とりあえず今夜は、ネットカフェにでも行こうか? 暖かいし、飲み物あるし」
「う~ん。それも良いけど……。とりあえず、私の知り合いがやってるホテルがあるからさ、そこに今夜は泊まらない? 広いし、便利だよ」
モモちゃんが携帯でタクシーを呼んだ。
そのリムジンに似ているタクシーに僕達は乗り込んだ。小さな財布の中身を確認した後、隣に座るモモちゃんに小声で話しかけた。
「ねぇ…ねぇ……。あの…さ、今あまりお金ないよ? このタクシー代、大丈夫かな……」
「アハハッ! 心配しなくても大丈夫。このタクシーも知り合いだから、無料だよ」
「えっ!? タダなの?」
「うん。無料。一生、無料。この私からお金とるような野暮なことしないよね? だよね、竜崎さん」
「うぇっ!? ああ、あ…の……貸し切りだと……だいぶ赤字で……」
「そういえば、あの可愛い娘さん、お元気? それにしても危ない墨好きな彼氏から縁が切れて良かったよね~。誰かのおかげで、さ!」
「モモちゃん。そんなに前のめりになったら危ないよ」
モモちゃんに肩を揉まれながら、なぜか焦っている運転手。
「はいっ! 娘も元気です!! ありがとうございました、桃香様」
長身の痩せた運転手が、立つような勢いでなぜかお礼を言っていた。
乗車時間、四十分。高速にまで乗り、リムジン風のタクシーが止まった場所は、県境にある高級ホテルだった。
戸惑う俺の手を引っ張りながら、ホテルの中に入る。
ーー確か、テレビでも見たことがある三ツ星ホテルだ。
再び不安になり、モモちゃんに話しかけた。
「………あの…さ、こんな高そうなホテルに入って大丈夫? さっきも言ったけど金ないよ?」
「もうっ! 心配が過ぎるよ、タツ君は。私に任せなさい!!」
モモちゃんは、一直線でフロントに向かうと従業員に支配人らしき女性を呼ばせた。今、その女性と話している。
…………………………。
……………………。
……………。
すぐに先ほどの運転手と同じようなリアクションになった女性は、僕達をスイートルームに案内した。
「無料だって。いつまでもいていいみたい」
「ここもタダなのっ!? はぁ~……モモちゃんは、凄いなぁ。良い知り合いがたくさんいて………。僕なんかそんな人、一人もいないし」
数十人は座れそうなソファーに寝転び、モモちゃんの柔らかい膝枕で頭を撫でられていると、嫌でも自分の不甲斐なさを感じた。
「タツ君には私がいるでしょ? その他大勢は要らないの。私だけがいればいいんだよ」
「最近、モモちゃんに甘え過ぎてない?」
「もっともっともっともっと甘えて良いよ~」
「………そんなに甘えて、ダメ人間にならないかな?」
「もしダメ人間になったら、タツ君のお尻に私の細腕を根本まで突き刺してでもしっかりしてもらうよ~」
「死んじゃうって」
「死なないギリギリを攻めるよ~」
「攻めるな! 色々と気を付けるわ。自分の為に」
「フフン」
住む場所が見つかり……。モモちゃんの体温を感じ、安堵からそのまま寝てしまった。
………………………。
…………………。
……………。
夢を見たーーーー。
憧れのあの人と初めて話した時。数メートル先にいる魔女。仮面を被っていてもその威圧感とオーラに全身の鳥肌が止まらなかった。
『あなたは、どうして殺し屋になったの?』
『……気づいたら、こんな糞みたいな自分になっていました。たいした理由なんてありません』
『私の願いを聞いてくれない?』
『…………願い…ですか…』
『お前に私を殺してほしい』
『ハ…ハ……最強の殺し屋のあなたを僕みたいな雑魚が殺せるはずないでしょ? 冗談はやめてください』
僕の前で両膝をつき、首を前につき出した。長刀を僕の前に放り投げた。
『私は抵抗もしないし、力も出さない。それを首の上から落とせばいい。簡単でしょ?』
『……………分かりました』
腰まである白銀の髪が、僕の靴に触れる。静かに刀を拾った。
『ありがとう』
『…………………』
『………………………』
『……………………………』
『早くして』
『………やっぱり…無理です。僕には』
『はぁ………。殺し屋として失格ね。何の価値もない。分かった。違う奴を探すから、私の前から消えなさい』
僕は、刀を魔女の前に置いた。
『殺せない。アナタは、もう死んでいるから。死体を弄ぶ趣味は、僕にはありません……ごめんなさい』
『っ!?』
最初で最後だったけど。世界一の殺し屋と話せただけで、僕は数日間、舞い上がっていたっけ。
あれ?
そういえば、モモちゃんも綺麗な白銀の髪。……長さは全然違うけど。
僕って、髪フェチなのかな?
「むにゃ……むにゃ……どんかん……むにゃむにゃ……」
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