理想的な夫婦

カラスヤマ

文字の大きさ
上 下
9 / 22

⑨夢物語

しおりを挟む
住む場所を失った僕達は、しばらく町をさ迷っていた。手を繋ぎながら、町をぶらぶら。モモちゃんは、ニコニコ嬉しそう。

「とりあえず今夜は、ネットカフェにでも行こうか? 暖かいし、飲み物あるし」

「う~ん。それも良いけど……。とりあえず、私の知り合いがやってるホテルがあるからさ、そこに今夜は泊まらない?     広いし、便利だよ」

モモちゃんが携帯でタクシーを呼んだ。
そのリムジンに似ているタクシーに僕達は乗り込んだ。小さな財布の中身を確認した後、隣に座るモモちゃんに小声で話しかけた。

「ねぇ…ねぇ……。あの…さ、今あまりお金ないよ? このタクシー代、大丈夫かな……」

「アハハッ!  心配しなくても大丈夫。このタクシーも知り合いだから、無料だよ」

「えっ!?  タダなの?」

「うん。無料。一生、無料。この私からお金とるような野暮なことしないよね?  だよね、竜崎さん」

「うぇっ!?  ああ、あ…の……貸し切りだと……だいぶ赤字で……」

「そういえば、あの可愛い娘さん、お元気? それにしても危ない墨好きな彼氏から縁が切れて良かったよね~。誰かのおかげで、さ!」

「モモちゃん。そんなに前のめりになったら危ないよ」

モモちゃんに肩を揉まれながら、なぜか焦っている運転手。

「はいっ!  娘も元気です!!  ありがとうございました、桃香様」

長身の痩せた運転手が、立つような勢いでなぜかお礼を言っていた。

乗車時間、四十分。高速にまで乗り、リムジン風のタクシーが止まった場所は、県境にある高級ホテルだった。
戸惑う俺の手を引っ張りながら、ホテルの中に入る。
ーー確か、テレビでも見たことがある三ツ星ホテルだ。

再び不安になり、モモちゃんに話しかけた。

「………あの…さ、こんな高そうなホテルに入って大丈夫? さっきも言ったけど金ないよ?」

「もうっ! 心配が過ぎるよ、タツ君は。私に任せなさい!!」

モモちゃんは、一直線でフロントに向かうと従業員に支配人らしき女性を呼ばせた。今、その女性と話している。

…………………………。
……………………。
……………。

すぐに先ほどの運転手と同じようなリアクションになった女性は、僕達をスイートルームに案内した。

「無料だって。いつまでもいていいみたい」

「ここもタダなのっ!?  はぁ~……モモちゃんは、凄いなぁ。良い知り合いがたくさんいて………。僕なんかそんな人、一人もいないし」

数十人は座れそうなソファーに寝転び、モモちゃんの柔らかい膝枕で頭を撫でられていると、嫌でも自分の不甲斐なさを感じた。

「タツ君には私がいるでしょ? その他大勢は要らないの。私だけがいればいいんだよ」

「最近、モモちゃんに甘え過ぎてない?」

「もっともっともっともっと甘えて良いよ~」

「………そんなに甘えて、ダメ人間にならないかな?」

「もしダメ人間になったら、タツ君のお尻に私の細腕を根本まで突き刺してでもしっかりしてもらうよ~」

「死んじゃうって」

「死なないギリギリを攻めるよ~」

「攻めるな!  色々と気を付けるわ。自分の為に」

「フフン」

住む場所が見つかり……。モモちゃんの体温を感じ、安堵からそのまま寝てしまった。

………………………。
…………………。
……………。

夢を見たーーーー。

憧れのあの人と初めて話した時。数メートル先にいる魔女。仮面を被っていてもその威圧感とオーラに全身の鳥肌が止まらなかった。

『あなたは、どうして殺し屋になったの?』

『……気づいたら、こんな糞みたいな自分になっていました。たいした理由なんてありません』

『私の願いを聞いてくれない?』

『…………願い…ですか…』

『お前に私を殺してほしい』

『ハ…ハ……最強の殺し屋のあなたを僕みたいな雑魚が殺せるはずないでしょ? 冗談はやめてください』

僕の前で両膝をつき、首を前につき出した。長刀を僕の前に放り投げた。

『私は抵抗もしないし、力も出さない。それを首の上から落とせばいい。簡単でしょ?』

『……………分かりました』

腰まである白銀の髪が、僕の靴に触れる。静かに刀を拾った。

『ありがとう』

『…………………』

『………………………』

『……………………………』

『早くして』

『………やっぱり…無理です。僕には』

『はぁ………。殺し屋として失格ね。何の価値もない。分かった。違う奴を探すから、私の前から消えなさい』

僕は、刀を魔女の前に置いた。

『殺せない。アナタは、もう死んでいるから。死体を弄ぶ趣味は、僕にはありません……ごめんなさい』

『っ!?』

最初で最後だったけど。世界一の殺し屋と話せただけで、僕は数日間、舞い上がっていたっけ。

あれ?

そういえば、モモちゃんも綺麗な白銀の髪。……長さは全然違うけど。


僕って、髪フェチなのかな?


「むにゃ……むにゃ……どんかん……むにゃむにゃ……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ようこそ精神障害へ

まる1
ライト文芸
筆者が体験した精神障碍者自立支援施設での、あんなことやこんな事をフィクションを交えつつ、短編小説風に書いていきます。 ※なお筆者は精神、身体障害、難病もちなので偏見や差別はなく書いていこうと思ってます。

俺はパンツが見れると直観した

黒うさぎ
ライト文芸
駅のホームを歩く女性。そして迫る特急電車。その時俺は直観した。「パンツがみれるぞ」、と。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...