殺し屋しかいない世界

カラスヤマ

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異世界 一日目

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店長らしきオヤジに飲食代金分を働くように言われた私達は、閉店後に店内の掃除をしていた。

「あのさぁ、そこまだ汚れてるんですけどぉ。適当にやらないでくださぁい」

ベチィ!!

さっきまで愛想の良かった猫耳娘が、今は女王様のように『私にだけ』あたりが強い。細い鞭でことあるごとに尻を叩かれる。

「痛っ……。分かりました。ってか、エムはどこですか? さっきから姿が見えないけど」

「今、姉さんはまかないを食べてるよ。人の心配は良いから、まず手を動かして」

姉さん?

「はぃ……」

一時間後。
ようやく掃除が終わった報告に行くと、エムと猫耳娘は仲良く談笑していた。

「掃除終わりました。はぁ~、エム……。そろそろ帰ろう」

「うん。分かったぁ」

「えぇ!? 姉さん、もう行っちゃうんですか? もう少しゆっくりしていけば良いのに」

エムにくっつく猫耳娘。本当に猫のようにゴロゴロ甘えた声を出していた。

「ん?」

なんだろう……。

やけに外が騒がしい。様子を見に行くと店の扉をどんどん叩きながら騒いでいる近所迷惑な男が二人いた。
柄の悪そうな連中だった。どこの世界にも似たような奴はいるらしい。

走ってきた猫耳娘は、陰から眺めていた私を突き飛ばし、彼らに頭を下げて必死に何かを謝っていた。

話している内容から察すると、どうやら彼らは金貸しで集金に来た。金がないことが分かると、古臭いやり方なんだけど。猫耳娘を連れていこうとしている。………時代劇じゃあるまいし。

別に恩があるわけじゃないから、放っておこうと思った。それに下手に目立ちたくもないし。


「どぅりゃあぁあ!」

飛び蹴りを派手にくらわすエム。小さなエムだが、力比べなら大の大人三人分は軽くある。

ぼろぼろの男達は、慌てて逃げていく。

「あまり目立たない方が良いよ。ここは、私達の住む世界とは違うんだから」

「はいはい。でも、殺さないだけマシじゃん」

店を後にした私達は、今夜泊まる宿を探すことにした。後ろから、ダッシュで私達を追ってきた猫耳娘。

「はぁ………はぁ…………ぁ。と、泊まる場所、探してるんです? それなら、私の家に来ませんか? 少し狭いですけど姉さん一人なら何とかなりますし」

いや、ワタシ八?

「いいの? 助かるよ。ありがとう、ネコちゃん」

私達は、猫耳娘の家に泊まることにした。ちゃんと私が寝る場所も用意してくれた。床に。かなり薄い布団も貸してくれた。


日付が変わる少し前ーーーー。

私とエムは、猫耳娘を起こさないように静かに部屋を抜け出した。

「な~んだ。考えることは一緒か」

「リサのそういうところ好きぃ!」

「しぃ、静かに。起きちゃうよ」


子悪党のアジトへゴー!!

腐った魚をさばく。一匹ずつ。確実に。

「またお前らか! いったい、何しに来たっ!! こんなことしてただで済むと」

「うるさいよ、お前」

「粛清~、粛清~」

誰もいなくなり、静かになったアジトを漁る。借用書他、すべての記録を燃やした。建物も含めて。


 「猫への恩返し、完了っ!!」

「ぁ~眠い。帰って二度寝しよう」

「くっついて寝たい。ギュッ、ギュッ~てしながら……。ダメ?」

「ダメ」

「お前のそういうところ大嫌いだよ」


そんなこんなで異世界一日目が無事終了した。
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