【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来

文字の大きさ
上 下
34 / 49

思いがけない告白

しおりを挟む
 キン! キィン!

 金属と金属がぶつかり合う音が響く。リベルテが戦う姿を、シンジュは見ている事しか出来なかった。カイリに殴られたところがじくじくと痛み、思うように体が動かせない。それでもシンジュはリベルテの為に何が出来るかを必死に考えた。このまま見ているだけなんて嫌だ。自分の為に戦ってくれているリベルテの手助けをしたい。

 シンジュがそう思っている間も、二人は激しい戦いを繰り広げていた。どちらも本気で相手を殺そうとしている。初めて見る命のやりとりに、シンジュは恐怖した。リベルテの事を信じている。勝ってほしいと思っている。けれど、不安は消えてくれず「もし、リベルさまが負けたら」と最悪の結末を考えてしまった。一瞬でもそんな事を考えてしまった自分が許せなくて、シンジュは首を横に振った。

「何か、僕に出来る事……リベルさまを、助けなきゃ……」

 痛みを我慢して立ち上がり、シンジュは二人が戦っている場所を注意深く見た。二人から少し離れた場所で、きらりと何かが光る。その光を見たシンジュはカイリに気付かれないよう注意しながら近寄って、光っていたものを拾い上げた。

「シズク! 良かった。すぐに助けるから」
「キュウ!」

 リベルテに投げ飛ばされた時にカイリの手から離れたのだろう。光の正体はシズクが閉じ込められている瓶だった。カイリはリベルテに集中していてシンジュには気付いていない。力の入らない手に無理矢理力を入れて、シンジュは瓶の蓋を開けようとした。しかし、蓋はびくともしない。もう一度力いっぱい蓋を取ろうとするが、ピクリとも動かない。

 早くしないとリベルさまが……

 カイリが正々堂々と戦うとは思えなかった。彼は一度卑怯な手を使ってリベルテを殺そうとした事がある。シンジュを海に連れて帰ろうとした時も彼はリベルテを殺すと脅した。このまま戦いが長引けばリベルテが危ない。自分が不利になった時、カイリがどう動くか分からない。そんな不安や恐怖と戦いながら、シンジュは必死に瓶の蓋を開けようとした。

 キィン!

 金属の高い音が響いたのと同時に砂浜に剣が突き刺さる。それはリベルテが持っていた剣だった。丸腰になったリベルテに、ニタニタ笑うカイリがじりじりと近付く。シンジュは願うように力を込めた。

 お願い! 開いて! このままじゃリベルさまが、僕の大切な人が死んでしまう!

 ふわりと、優しい温もりに包まれた気がした。シンジュの両手に誰かの手が重なる感触。シンジュが不思議に思っていると瓶からキュ、と音がしてビクともしなかった蓋が僅かに動いた。シンジュは蓋を凝視して、直ぐに蓋を回した。あんなにも硬かった蓋はあっさり開いて、瓶の中に閉じ込められていたシズクが元気に飛び出す。その勢いのままシズクはリベルテとカイリの間に割って入り、強い光を放った。

「リベルさま!」

 目を開けられない程の眩しい光に包まれても、シンジュはリベルテの元へ駆け寄った。彼は駆け寄って来るシンジュをしっかりと抱きとめる。光は直ぐに消え、ザアッと雨が降り注いだ。その雨は温かく、肌に触れると溶けるように染み込んだ。染み込んだ場所からすうっと痛みが消え、傷が塞がっていく。雨が止んだ時には、シンジュもリベルテも全ての傷が癒えていた。

「ぎ、ぎゃぁああああああ! 痛い! 痛い痛い痛い! あぁああああああ!」

 突然、カイリの悲鳴が聞こえ彼の姿を見た二人は息を詰まらせた。綺麗な藍色の髪はどんどん色素が薄くなり白髪へ変わり、同じ色をした瞳も白く濁り、干からびるように体から水分が抜けて皺だらけ。一瞬で老人のような姿に変貌したカイリを見て、二人は何が起こったのか分からず、その場から動く事が出来なかった。





 凄まじい痛みと苦しみに襲われたカイリは、少しでもその痛みから逃れる為に砂浜をのたうち回る。しかし、その行為は更に痛みを増すだけで何の解決にもなっていなかった。

「神子殺しの烙印さ」

 変わり果ててしまったカイリを見ていると、突然誰かの声が聞こえた。二人がは声のした方へ視線を向けると、其処には深海の魔女と呼ばれている老いた人魚が静かに佇んでいた。感情のない目をカイリに向け「自業自得だ」と冷酷に吐き捨てる。

「烙印?」

 リベルテが恐る恐る聞くと、老いた人魚は頷いて話を続けた。

「簡潔に言えば神罰。神子の証を奪おうとした者、神子の力欲しさに神子を殺そうとした者は神子殺しの烙印を押されるのさ。烙印を押された者は神子を苦しめた罰として死ぬまで苦痛と絶望の中を生き続ける。自ら死ぬ事も許されない。苦痛と絶望の中、罪を償い切るまであの地獄は続く。当然の報いだよ。彼奴は散々神子殿を苦しめたんだからね」

 当然の報い。確かに今迄カイリがしてきた事を思えばそうなのかもしれない。しかし、シンジュは素直に受け入れる事は出来なかった。そう思っても、今のシンジュがカイリに出来る事は何もない。老いた人魚もリベルテも「気にするな」と言ってくれるが、シンジュはカイリから視線を逸らした。

 カイリから顔を背け老いた人魚を見て、シンジュはある事に気付いた。皺だらけの肌。縮れ傷んだぼさぼさの髪。濁った緑色の瞳。老いた人魚と罰を受けたカイリの姿は酷似していた。恐る恐るシンジュが「あなた、も?」と問うと、老いた人魚は一瞬目を見開いた。しかし、直ぐに表情を戻し「神子殿が知る必要はないさ」と告げて、痛みに耐え切れず気を失ったカイリを担いだ。

「コレは連れて行くよ。神子殺しの末路を見せれば、流石の人魚族も恐れて神子殿に手を出さなくなるだろう」

 老いた人魚はシンジュを悲しそうな表情で見詰め「今迄、済まなかったね」と謝罪した。

「え?」
「今度こそ、幸せにおなり。神子殿の幸せが、小娘の、ヒスイの願いだから」

 カイリを連れて海に帰ろうとする老いた人魚の腕を、シンジュは咄嗟に掴んだ。驚く人魚に、シンジュは縋るような目を向け「まって、ください」と言った。

「貴方が過去に何をしたのか、どうして罰を受けたのか、僕は知りません。聞くつもりも、ありません。でも、貴方は僕を助けてくれました」
「……これはワタシが選んだ道だ。神子殿には関係ない」
「確かに、僕が言っても意味は無いかもしれません。救えないのも、分かってます。でも、言わせて、ください。僕は……僕は、貴方を許します」

  シンジュが「許す」と言った直後、老いた人魚を暖かい光が包み込む。痛み縮れた髪は長く美しい淡い碧色に、濁った緑色の瞳は宝石のような青紫に。皺だらけだった肌は瑞々しいハリのある滑らかな肌に。光の中から現れたのは、男性とも女性ともとれる中性的な顔立ちの美しい人魚だった。

「え? 嘘!? 物凄く美人になってる!?」
「失礼な餓鬼だね。これが本来の姿だ」

 皺がれた声も美しい声に変わった。何が起こったのか分からず驚いていると、リベルテに失礼な発言をされ人魚は不機嫌な顔をして反論した。未だに信じられず口をパクパク動かすリベルテに、人魚は深いため息を吐く。

「よかった」

 神子殺しの烙印から解放された深海の魔女を見て、シンジュは安心したように笑った。控えめに笑う彼に感謝の言葉を述べ、人魚はカイリを連れて今度こそ海の中へ帰ろうとした。

「夜の神子が危ない。早くお行き。彼らは神殿に居る」

 バッと神殿の映像が空中に流れる。多くの騎士に囲まれたユリウスと夕、そして不敵に笑うシェルスの姿を見た瞬間、二人はシズクと共に急いで神殿へ向かった。

「後はお前の仕事だ。クラウス」

 去って行く二人を眺めながら、人魚は小さな声で呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

処理中です...