前世腐女子、今世でイケメン攻略対象者二人から溺愛されるなんて聞いてません!

湊未来

文字の大きさ
上 下
93 / 93
第4章

次世代へ継がれる想い

しおりを挟む
 晴れ渡る空の下、ひと組のカップルが互いの家族に囲まれ、永遠の愛を誓っていた。

 燃えるような赤髪を綺麗にまとめあげ、美しい刺繍が施されたベールをかぶった新婦は、わずかにのぞくアクアマリンを思わせるブルーの瞳を潤ませ、新郎を見つめる。

 一方、緊張の面持ちの新郎は、近衛騎士団の濃紺の制服に身を包み、慶次けいじの時にのみつける、いくつもの勲章が、彼の胸元を飾る。いつもは、ボサボサのとび色の髪は綺麗に後ろへと流され、ブルーの瞳は新婦を愛しげに見つめていた。

「サイラス・ナイトレイ。なんじはマリア・ウェストを妻とし、病める時も、健やかなる時も、生涯を通し、愛しぬく事を誓いますか?」

「誓います」

 新郎の朗々とした声が、抜けるような青空に響く。

「マリア・ウェスト。汝はサイラス・ナイトレイを夫とし、病める時も、健やかなる時も、生涯を通し愛しぬく事を誓いますか?」

「誓います」

 新婦の甘さを含んだ柔らかい声が会場内を包み、参列者の心を温かくさせる。

「では、誓いのキスを……」

 新郎がベールを上げ、新婦の額にぎこちなく口づけを落とすと、額へのキスだけではもの足りなかったのか、新婦が新郎の頭に腕を回し、無理やり唇を重ねている。

 そんな様子を頭を抱え見つめる新婦の父と、そんな娘を見つめクスクスと笑う新婦の母。そして、呆れ顔で二人を見つめる新郎の義父。

「――――、何をやっているんだマリアは」

「今に始まったことじゃないでしょ。あの娘の性格は、誰に似たのかしら?」

「「絶対に、アイシャだろう!!」」

 新郎の義父と新婦の父の声が見事にハモる。

「……心外だわ。わたくし、あの娘ほど、ガッついてはいないわよ」

「いいや、アイシャとリアムの結婚式も似たようなものだったぞ。誓いのキスも、ベールを上げた瞬間、緊張で動かないリアムに焦れて、アイシャからしていたもんなぁ」

「えっ!?  あの時、キースは結婚式に出席していたの?」

「あぁ。リアムを選んだアイシャの幸せな姿を、最後に目に焼きつけたかったからな。まぁ、予想外の結婚式にアイシャへの気持ちも、吹っ切れたけどな」

「あれは、リアムが悪いわよ。ベールを上げたら直ぐでしょ。なのにこの人ったら固まって動かないんですもの」

「……それでも待つだろう。普通は」

「まぁ、アイシャだから仕方ないんじゃないかぁ」

「そうだな……」

 男二人の小さなため息が聞こえてくる。

「何よそれ……」

 頬を膨らませ怒る妻の手を優しく握りなだめる新婦の父は、新郎の義父に頭を下げる。

「破天荒な娘だが、よろしく頼む。きっと、夫となるサイラスはマリアに振り回されるだろうが」

「まさか、俺達の子が結婚するとは思わなかったが、これで俺の肩の荷もおりる。白き魔女を迎え入れる事は、ナイトレイ侯爵家の悲願だったからな。サイラスは、兄貴の子だけあって頭も切れるし、剣の腕も俺をしのぐ。人望も厚く、次期騎士団長は確実だ。必ず、マリアを護り抜くだろう。心配するな、あれでなかなかサイラスも一筋縄ではいかん男だ。そうでなければ、狸ばかりの社交界で、白き魔女と認知されたマリアを護ることなど出来ないからな」

「本当、運命かしらね~
まさか、マリアとサイラスが巡り合い、お互いに惹かれ合うなんて、想像もしていなかったわ。そしてあの子達が、私達三人をまた巡り合わせてくれた。キース、ありがとう。……わたくし、今とても幸せよ」

「……そうか。アイシャが幸せなら、それでいい」

 アイシャとキース、二人の手と手が重なる。

 アイシャとリアム、そしてキース…………

 三人は、それぞれの心に宿った温かな想いをかみしめ、初々しい二人の門出をいつまでも祝福していた。



【完】
しおりを挟む
感想 36

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(36件)

ぱら
2023.09.10 ぱら
ネタバレ含む
2023.09.10 湊未来

最後までお読み頂き、ありがとうございました╰(*´︶`*)╯♡
そして、たくさんの感想、本当に嬉しかったです✨✨
きっとノアさんは、クレア王女と王妃様とアナベル様に、締め上げられたことでしょう〜

解除
ぱら
2023.09.09 ぱら

リアムとアイシャが?!
ウワァァ━━━。゚(゚´Д`゚)゚。━━━ン!!!!

2023.09.09 湊未来

わぁぁん。゚(゚´Д`゚)゚。

解除
ヨナ
2023.09.06 ヨナ
ネタバレ含む
2023.09.06 湊未来

ヨナ様は、リアム推しなのですね!
そうなんです!本当、ソコ!!
ノアさんは、キースには何も要求していないのです。そこ、ポイントなのです!
ノアさんにとって、リアムとは、どんな存在だったのか?
そんな所にも注目してお読み頂けると、ノアの闇深いところが分かるかと。
でも、筆力足りず伝わっていなかったら、ごめんなさい(>人<;)

解除

あなたにおすすめの小説

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】サキュバスでもいいの?

月狂 紫乃/月狂 四郎
恋愛
【第18回恋愛小説大賞参加作品】 勇者のもとへハニートラップ要員として送り込まれたサキュバスのメルがイケメン魔王のゾルムディアと勇者アルフォンソ・ツクモの間で揺れる話です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。