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第4章
二人の転生者
しおりを挟む「クレア様の仰るとおりです。わたくし、この世界に生を受けた瞬間から、前世の記憶がございました」
「えっ!? 生を受けた瞬間からですって!!」
「えぇ。正確には、日本で普通に暮らしていたのに、朝、目が覚めたら産まれたばかりの赤ん坊になっていたと言う訳です」
「――――それは、酷ね」
「たぶん、寝ている間に心臓麻痺かなんかで死んで、この世界に前世の記憶を持ったまま、魂だけ転生しちゃったんだと思います。それはもう赤ちゃんの時は羞恥プレイの連続で、私の魂を転生させた神だか何だかを、何度恨んだことか。まぁ、今では日本人だった時の記憶もあり、好き勝手生きてますし、家族にも恵まれ幸せなんで、転生させた神を恨んではいませんが」
「そうだったの……、大変だったわね」
「なので、クレア様が仰っていた事は全て理解しています。『白き魔女は蜜夜に溺れる』でしたっけ。その乙女ゲーム、わたくしも前世でやっておりましたから」
「では、この世界が乙女ゲームに酷似している事も始めから気づいていたの?」
「実は、乙女ゲームに似ていると思い出したのは最近の事なのです。幼児期から前世の記憶があった割に、この世界が乙女ゲームの世界に似ていると気づいたのは、リアムに捨てられてからなんです。しかも、前世の記憶では、アイシャという名のキャラクターは一切出て来ないのに、今までの私の行動や起こった出来事は、乙女ゲームのヒロインの立ち位置そのものだった。不気味な符号の一致に気づいた時は、寒気が走りました」
「そうね。今のアイシャの立ち位置は完全にヒロインよね。そして、グレイスが悪役令嬢の立ち位置で間違いないわ」
「でも、何故その様なバグが起こったのか? そして、何よりも私の存在って、いったい何なんでしょうね?」
ヒロインの立ち位置にいる乙女ゲームにいない『アイシャ』という存在は不気味でしかない。しかし、この世界でアイシャは生きているのだ。乙女ゲームに似た世界だと言えども、『私』は生きている。
私の人生は私のものなのだ。
ただ、もし本当にこの世界が乙女ゲームの世界だとしたら、いつかアイシャという存在は消えて無くなってしまうのだろうか?
矯正力という名の元に……
「いつかアイシャという存在は、この世界から消えてしまうのでしょうか?」
「――――っ!! わたくしがそんな事させないわ!!!! アイシャを死なせるような事、絶対に!」
前世でプレイした乙女ゲームには、たった一つだけバッドエンドが存在する。しかし、前世の『私』は、そのバッドエンドに興味がなかった。腐女子だったこともあり、男女の恋愛に興味がわかなかったというか、乙女ゲームに出てくる美麗男性キャラクターをくっつけ、妄想する遊びにハマり、全ルート攻略に興味を示さなかった。
バッドエンドが存在することも、噂では知っていた。そして、そのバッドエンドが、話題を呼ぶほど好評を博したことも。
怒りを露わに拳を握るクレア王女を見て、アイシャの中に確信にも似た思いが芽生える。
「クレア様は、わたくしがこの世界から消える未来をご存知なのではありませんか?」
クレア王女の瞳が驚きで見開かれる。
「わたくしは、乙女ゲームの記憶を全て思い出した訳ではありません。キース様にナイトレイ侯爵家の薔薇園でプロポーズされました。そのシーンは乙女ゲームの中にも出てきたのではありませんか? この婚約指輪をクレア様がご存知だったのが何よりの証拠です。そして、この先ヒロインの命が危険に晒されるシーンが出てくる」
そう……、たった一つのバッドエンドへと繋がる道。あの薔薇園でのプロポーズが、『アイシャ』を破滅へと導く鍵となっていたのだろう。
(結局、乙女ゲームの矯正力には勝てないのかしらね……)
「アイシャが、乙女ゲームのバグのような存在なら命が危険に晒されるシーンでアイシャという存在は淘汰されると考えられます」
「私がそんな事絶対にさせない!! そのために、アイシャに前世の記憶を打ち明ける決心をしたの!
――――もう親友を亡くす悲しみは味わいたくない。アイシャを見ていると思い出すの。若葉の事を……………、後悔しても仕切れない彼女との日々を」
顔を両手で覆い泣き崩れたクレア王女を見つめ、アイシャの心に大きな衝撃が走る。あまりの衝撃に、言葉が出てこない。
若葉って……、まさか……、そんな事ってありえるの?
クレア王女が『桐山梨花』だなんて、そんな運命の悪戯が。
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