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幕間
ナイトレイ侯爵家【ルイス視点】
しおりを挟む(まさかキースの時代に『白き魔女』が復活するとは。こんな事になるなら、キースとアイシャの仲を、もっと早くに取り持っておくのだった)
今さら考えても仕方がない事をツラツラと考えながら、ルイス・マクレーンは父の執務室の扉を叩く。
「おぅ! ルイスか。どうしたんだこんな時間に珍しいな。騎士団に厄介事でも舞い込んだか?」
ルイスは、騎士団トップである父の命を受け、副長として外部からの依頼などをまとめ騎士に振り分ける仕事も担っている。父は豪快で大雑把な性格なため、細々とした仕事が苦手なのだ。結果としてルイスが裏方的な仕事を一手に引き受けている。
(まぁ、父に任せていたら終わる仕事も終わらなくなるから仕方がな)
「いいえ。騎士団は至って順調ですよ。今日は取り急ぎ伝えたい事が起きましたので参上しました。『白き魔女』が復活しました」
「――――っそ、それは誠か!?」
腰掛けていた椅子を蹴倒し立ち上がった父は、ルイスに掴みかからんばかりの勢いで前のめりに叫ぶ。
(相変わらずの迫力だな。執務机まで倒れそうだ)
熊並の大きな体躯に、太く低い声と歴戦の猛者をも黙らせる眼光で睨まれれば、父だとわかっていても冷や汗がでる。
「まずは、その殺気収めてください」
「あぁ、すまんすまん。それで?」
蹴倒した椅子を戻し、ドカッと座り直した父に問われる。
「俺が以前からアイシャ嬢に剣の稽古をつけていたのは知っていますね? そして、キースに練習相手をさせていた事も」
鷹揚に頷いた父を見て、話を続ける。
「今日、二人の最後の練習試合がありました。アイシャ嬢も、もうすぐ十七歳。十八歳で迎える社交界デビューに向け、剣の稽古を辞め、準備を始めるとのことでした」
「まぁ、一般的な令嬢であれば、致し方あるまい。よく今までリンベル伯爵が、剣を習うことを許していたのか不思議なくらいだ」
「そうですね。ある意味、アイシャは特殊な令嬢でしたから、リンベル伯爵も何か考えがあったのでしょう」
「確かにな。あの娘に初めて会ったときも度肝を抜かれたよ。わしの顔を見ても泣き出さん娘は初めてだった。それで、練習試合で何があった?」
「いつものように、キースにズタボロにされたアイシャ嬢は、最後に一撃を放った。そしてキースは吹っ飛び気絶しました。キースの持っていた長剣は真っ二つに折れていた。長剣で止めていなかったら、キースは大怪我をしていたでしょうね」
「あのキースがアイシャ嬢に吹っ飛ばされただと!?」
「えぇ、そうです。しかも、アイシャ嬢が持っていたのは護身用の短剣です。たとえ男同士の戦いでも、護身用の短剣で一撃されたくらいでは吹っ飛びませんよ。何かしらの力が加わらない限り、有り得ない現象です。直ぐに折れた長剣を調べましたら青白い光に包まれていました。一瞬で消えましたが、あれは魔力の残滓ではないかと」
「信じられん話だが……、とうとうナイトレイ侯爵家の悲願である『白き魔女』が復活したのだな。我が家に是が非にでも迎え入れたいところだが」
――――ナイトレイ侯爵家の悲願。
『白き魔女』の片翼である武の名家ナイトレイ侯爵家には悲しい伝承がある。
最後の白き魔女は、当時のナイトレイ侯爵と血の繋がった兄妹でありながら、恋仲であったのだ。ナイトレイ侯爵家へと養子に出された兄と、リンベル伯爵家の最後の白き魔女となった妹の悲しい恋物語。
膨大な魔力を有していた彼女は未来を見る力を持っていた。そして彼女は知ってしまったのだ。自分の命と引き換えに全魔力を未来へ転送しなければ魔女の血筋は彼女の時代で滅んでしまうという事を。
その事をナイトレイ侯爵に告げた時、彼は彼女の命を優先するように言った。しかし、彼女の意思は変わらなかった。彼女もまた魔女の血筋を遺すために生きたリンベル伯爵家の娘だったから。
最期に、彼女はナイトレイ侯爵との子を産むと、その子をナイトレイ侯爵家に遺し、全魔力を注ぎ転送魔法を発動させ、この世から去った。
魔法陣の中に立ち、青白い光に包まれキラキラと輝きながら消えていく彼女を見つめていたのは、可愛らしい赤ちゃんを抱いたナイトレイ侯爵だけだった。
光が消え去った部屋の中からは、慟哭するナイトレイ侯爵の声がいつまでも続いていた。
最後の『白き魔女』とナイトレイ侯爵との悲恋は何百年にも渡り、ナイトレイ侯爵家の伝承として伝えられてきた。ルイスもまた、子守唄のように何度も聞かされたおとぎ話。
『ナイトレイ侯爵家は最後の白き魔女の魂を取り戻さなければならない』
魔力を転送した時、最後の白き魔女の魂も一緒に未来へと転送されたと言われている。魔力の器こそが彼女の魂だったのだ。
ナイトレイ侯爵家は悲恋に泣いた先祖の為にも復活した白き魔女を手に入れなければならない。
『白き魔女』として復活したアイシャを。
「その場に居たのはキースとお前だけだったのか?」
「いいえ。王家の子飼いとウェスト侯爵家のリアムも居ました。おそらくどちらも気付いているかと思います」
「よりによってその二家とは……、情勢が大きく動くな。アイシャ嬢とキースの関係は?」
「最悪です。二人で話したことで、キースのアイシャ嬢に対する見方は大きく変わりましたが、アイシャ嬢はおそらくキースを嫌っているでしょうね」
「かなりマズい状況であるなぁ。どうにか二人の仲を進展させる猶予を作らねばならないな」
「今の段階では、ウェスト侯爵家のリアムが一歩リードでしょうね。アイツはアイシャに剣をずっと教えていましたから」
「はぁ!? 何だそれは……」
「申し訳ありません。まさか、キースの時代に白き魔女が復活するとは思っておりませんで」
「まぁ、無理もない。最後の魔女が逝ってから数百年、一度たりとも、そんな兆候なかったのだからな。さて、どうしたものか。ルイス、お前はどう思う? 王家はどう動くか」
「そうですね。王家に、アイシャを娶る権利はありません。しかし、このまま黙ってはいないでしょうね。ある意味、一番厄介な存在です。『白き魔女の保護役』の立場を利用し、婚約に難癖をつけるのは可能でしょう」
「そうだな。『古の契約』にのっとり、白き魔女の婚約には王家の承認を必要とするか」
「はい。それと、もう一つ。ノア王太子の婚約者が決まっていないのが気がかりです」
「王家もまた、アイシャを狙ってくると」
「えぇ、必ずどこかで仕掛けてくるでしょう。ただ、今はウェスト公爵家が一歩リードしている状況です。ひとまず王家と手を組み、ウェスト侯爵家が抜け駆け出来ないように手を打つのが、得策かと」
「ふむ、ルイスよ。至急陛下へ手紙を届けよ!」
「かしこまりました」
(さて、アイシャ争奪戦の行方はどうなるのか?)
アイシャへの気持ちを少しずつ自覚しつつあるキースへと心の中でエールを送りながら、ルイスは団長室を後にした。
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