91 / 92
第7章 それぞれの未来【ミリア視点】
17
しおりを挟む………1年後………
真っ青に澄み渡る空の下、二組の愛し合うカップルが婚礼の儀を挙げた。
この二組のカップルの新婦達が嫁ぐ事になるベイカー公爵家とレッシュ公爵家が『例の夜会』以降どうなったのかを少し説明しておこう。
例の夜会の当事者の一人、妖艶な夜の女王に攫われたリドル殿だが………
夜会当初は時の人となり、色々と噂される事となった。
リザンヌ王国のルティア王女の婚約者候補でありながら、得体の知れない女と関係を持っていたとして身持ちの固いご婦人達から蔑みの目で見られる一方、ルティア王女の社交界での評判の悪さから、名前もわからない美女と逃避行し愛を貫いたリドルの行為を称賛する声も上がっていた。
社交界で様々な女性を虜にするプレイボーイ振りを見せながら、今までどんな女性にも本気にならなかったリドルの姿を知っていた者達は、夜会に突然現れた夜の女王然とした女の存在を納得を持って受け入れていた。
もちろん夜会以降、リドルと共に消えた女性にひと目会いたいが為、ベイカー公爵家やリドル本人にコンタクトを取ろうとする男共がわんさか現れた訳だが、ベイカー公爵家からの圧力とリドル本人が口をつぐみ数ヶ月タウンハウスに引き篭もったため、未だにあの女性が誰か知り得た者はいない。
あれから半年後………
ベイカー公爵家のリドルとウィッチ男爵家のミリアの婚約が発表された。
公爵家と男爵家のあまりに身分差のある婚約に、高位貴族の未婚の令嬢がいる家から横やりが入り、混乱する事態となったが、社交界である噂が流れ出すとこの婚約話を潰そうと動く貴族家はいなくなった。
『夜の女王の怒りをかったリドル殿は、愛する夜の女王から見捨てられ絶望しタウンハウスに篭っていたが、乳兄妹のミリア嬢の献身的な慰めに絆され、いつしか妹のように思っていたミリアを愛するようになっていた………』
男爵令嬢が格上の公爵令息に嫁ぐシンデレラストーリーは市井でも噂になり、観劇として上演され人気をはくした。
一方、あの夜会でレッシュ公爵家のイアン殿との婚約を所望したルティア王女は、社交界での評判が地に落ち、夜会以降公の場に一切出なくなった。
永らくベイカー公爵家のリドル殿とレッシュ公爵家のイアン殿で、どちらを婚約者にするかを決めなかった事で、沢山の令嬢の反感を買っていたのが災いした。
性悪王女として社交界でひとり歩きした噂に耐えかねリザンヌ王国へ帰ったのではと最近まで言われいた。
そのルティア王女が半年後、レッシュ公爵家のイアン殿にエスコートされ颯爽と舞い戻って来た。その様子を冷めた目で迎えた貴族は驚愕する事になる。貴族令嬢の憧れであり、社交界で絶対的地位を築いたシュバイン公爵家のエリザベス様を筆頭に、高位貴族の夫人や令嬢達が談笑する輪に招かれ、あまつさえ輪の中心となり穏やかな笑みを浮かべ会話を楽しんでいる………
半年前の性悪王女の噂が全くの嘘だったのではと思える光景に、ルティア王女の見方が大きく変わった一夜となった。
青空の下、ウィッチ男爵領にある小さな教会にて婚礼の儀を挙げたカップルが扉を開け、外で待つ親しい者達の元へ歩み寄る。
真っ白なウェディングドレスを身に纏った新婦は、幸せそうに笑み崩れた新郎に抱き上げられ顔を真っ赤にし俯く………
年相応の成熟した色香を纏いつつ、恥ずかしそうに頬を染めた姿は初々しく、見る者を魅了する。
身分差を乗り越え愛を貫いた二人を祝福する拍手は鳴り止む事なく、晴れ渡った空に響く………
集まった誰しもがそんな二人を心から祝福していた………
そして…レッシュ公爵家のとある一室………
この物語のもう一人の主人公が緊張した面持ちで椅子に掛けていた。
「………ルティ…緊張してるの?」
花嫁の様子を見に部屋へ入って来た新郎が心配そうに話しかける。
「大丈夫よ…イアン………………」
花嫁の前に跪いた新郎が花嫁の手をとる………
『次期薔薇の聖女であるルティアに誓う………
………生涯を貴方と共に………………』
薬指で輝く薔薇の聖女たる証の指輪に誓いのキスが落ちる………
幸せそうに微笑む花嫁を優しく見つめる新郎もまた、幸せな笑みを浮かべていた。
1
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる