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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】

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シュバイン公爵家の馬車に乗り王城に着いた私はエントランスにいた侍従に呼び止められた。

「………失礼ですが…貴方様はウィッチ男爵家のミリア様ですか?」

「………えぇ………」

「シュバイン公爵家のハインツ様より到着次第、案内するように申しつかっております。奥の広間にて夜会は開かれておりますのでお連れ致します。」

………エリザベス様…ありがとうございます。本当に沢山の方に支えられているのだわ………

………私は一人ではないのね………
エリザベス様にハインツ様…マダムにベイカー公爵家の使用人仲間、そしてタウンハウスのエマ………
皆が私の背を押し今日の舞台まで連れて来てくれた。
………負ける訳にはいかない………

私は夜会が開かれている会場の扉の前に立ち気合いを入れ直す。

………私は夜の世界を支配する女王………
誰もが私の魅力の虜になる………

さぁ!ミリア………貴方の愛する人をその手に取り戻すのよ‼︎

私は妖艶な笑みを浮かべ目の前の扉を開け放つとゆっくりと会場内に足を踏み出した。




夜会会場は沢山の紳士淑女で溢れ、ゆったりとした音楽に楽しそうな騒めきが聴こえてくる。

会場内を一歩一歩進むに連れ、私に気づいた者達の視線が突き刺さるが何も気にならなかった。心は穏やかに凪、頭は冴え渡る…周りの状況を冷静に見る余裕すらあった。

女王然として前を見据え歩くミリアが放つ匂い立つような色香に周りの者達は陶然とし自然に道が開かれる。

いつの間にか騒めきが消え、ピンっと張り詰めた空気が場を支配していた。

誰もがミリアの存在を訝しみながら、その姿に魅せられ言葉を失う………
その場を支配しているのは御伽噺の中から抜け出して来た夜の女王かと見紛う程の魅力を放つミリアだった。

………カツン………カツン………

靴音だけが響く会場内を進むミリアの目の前の人垣が割れる………

………見つけた………………

目の前にはリドル様の腕に手を絡め、こちらを唖然と見つめるルティア王女がいた。

私は二人に近づき妖艶に微笑む………

唖然とこちらを見るリドル様の手を取り、引き寄せキスを仕掛ける………

「ルティア王女殿下………
リドル様はわたくしのものでしてよ………」

私はリドル様の肩越しにルティア王女に勝ち誇った愉悦に満ちた笑みを見せるとリドル様の手を引っ張り会場内を走り出した………

あっという間に二人が消え去った会場は大混乱に襲われる。
そこかしこから響く騒めきは収拾がつかない程だ………

………あの女性は誰だ………

ベイカー公爵家のリドル殿とどういう関係なのだ………

あぁぁぁ………もう一度会いたい………

リドル殿に頼めば会えるのだろうか………

………あなた!鼻の下が伸びてますわ!
シャンとなさい‼︎‼︎

この騒めきを収めたのはもう一人の当事者だった。

『陛下に申し上げます………
リザンヌ王国王女ルティアは、隣におりますレッシュ公爵家のイアン様との婚約を所望致します。』

『わかった。ルティア王女とイアンとの婚約を了承した。』

静まり返った会場に響く陛下の声………

「皆のもの……今夜は良い夜会であった。私は退出するが夜は長い………
楽しんでくれ。」

陛下が退出した後の会場は、更なる大混乱に見舞われた………

しかし騒ぎに乗じて今夜の二組目の主役達も消え失せていたため、この混乱が収まる事はなく、憶測が憶測を呼ぶ事態へ発展していくことになった。






騒めき続ける会場の片隅………

1組の夫婦が祝杯をあげていた………

「ハインツ様、ご協力感謝致しますわ。」

「いやぁ~私の愛する奥さんの頼みだしね。それより、この騒ぎ………
沢山の尾鰭がついて噂が流れるだろうねぇ~
これからベイカー公爵家は大変な事態になると思うけど大丈夫かな?」

「………そんな事知った事ではありませんわ!不甲斐ないお兄様に余計な事をしたお父様………
噂くらい捻り潰せないようでは、男爵家から嫁入りするミリアを守る事など出来ませんわ。精々苦労して奔走すればよろしい!そうでないとベイカー公爵家の今後が心配になってしまうわ………
ミリアには憂いなくベイカー公爵家に嫁いでもらいたいもの!」

「………くくっ…エリザベスも言うようになったね。
私の腹黒さが伝染したようだ………」

「………もぅ…ハインツ様意地悪言わないで………」

「意地悪ではないよ。益々エリザベスの事が好きになってしまっただけさ………」

「………」

会場の片隅では、真っ赤になったエリザベスとそんなエリザベスを愛しそうに見つめるハインツ様の会話が延々と続いていた………


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