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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】

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シュバイン公爵家を飛び出した私は、その足で辻馬車に乗り街に向かった。

夕暮れ時の街中は、帰路を急ぐ人とこれから一杯呑みに出る人と沢山の人々が道を行き交い混雑していた。

私は走るように人と人との間をすり抜け先を急ぐ………

息を切らした私は街中の一等地に構えるよく見知ったマダムの店に到着した。

エントランスに入りインターフォンを押すと中からお仕着せを着た店員が出て来て私の顔を見ると直ぐにマダムに取り次いでくれると言う。

何も用件を言わないのにマダムに取り次いでもらえた事を訝しみながらエントランスで待っていた私は、急いで階段を降りて来たマダムに問答無用で連行される。

「ぅっもぉ~来るのが遅いわよ!ミリア………ヤキモキしちゃったじゃない‼︎」

まるで私が店に来ることを知っていたかのようなマダムの言葉に困惑する。

「………あのぉ………私何も………」

「話は後々!時間がないわよぉ~
ちゃっちゃと行きましょう!」

強引なマダムに手を引かれ連れて行かれたのはバスルーム………
そこで待っていた数名の女性達に妙な笑顔で出迎えられる。

「時間がないわ!超特急で仕上げて頂戴‼︎」

マダムの号令とともに一斉に動き出す女性達………

あっという間に裸にひん剥かれバスタブに放り込まれ、あれよあれよという間にピカピカのツヤツヤに磨かれていた。

ひと皮むけた私が次に連れて行かれた部屋にも数名の女性店員とマダムが待ち構えていて、部屋に入ると同時に取り囲まれ、深い緑色の生地に精緻な黒の花の刺繍が施されたドレスに着替えさせられていた。

「ミリア…貴方少し痩せたわね………
色々と大変だったのねぇ~
………でも、今の貴方とても魅力的よ!
どこか排他的で謎めいた陰のある女ってところかしら………
………これからさらに魅力的な女性に仕上げてあげるわ!」

ドレスの軽い手直しを終えると、ドレッサーの前に座らされマダム自らの手で化粧を施される。

「髪はどうしようかしら………
………そうね!アップにしてサイドにおくれ毛を垂らしましょう。
頸はみせつつ、おくれ毛を垂らす事でちょっぴり隙のある女を演出した方が良いわね。男が喰らい付きたくなる女がいいわぁ~」

ご機嫌で私の髪を結っていくマダムと鏡ごしに目が合う。

「………マダムは………
これからわたくしが何をしようとしているのかご存知なのですか?」

「う~ん………正確には知らないわ。
ただ、ある人に今夜ミリアが店を訪ねて来たら助けてあげて欲しいとお願いされただけよ。とびっきり素敵なドレスの注文と一緒にね。」


『万が一、ルティア王女殿下と闘う気になったらマダムの店に行きなさい。
貴方の幸せをたくさんの人が応援している事実を忘れないで………』

………エリザベス様………………

溢れそうになる涙を耐え下を向く………

「コラコラ!ミリア泣いたら化粧が崩れて全てが台無しよ。
これから闘いに行くのでしょ‼︎
勝利を勝ち取ってから思い切り泣きなさい!今はまだその時ではないわ………
………ほら前を向いて………」

目の前の鏡の中には溢れ出す色気を携えた妖艶な美女がいた。

………これが私なの⁈

涙も引っ込む程の衝撃が私を襲う………

「最後にひとつおまじないよ………
貴方は誰よりも美しく魅力的な女………
どんな女も貴方の前ではひれ伏すでしょう。このルージュをつけた貴方は、誰にも負けない。
………さぁ!ミリア立ち上がりなさい‼︎
貴方は誰よりも強く美しい!」

真っ赤なルージュが唇にひかれ、鏡の中の私が妖艶に微笑む………

マダムの言葉が耳から脳に伝わり心に浸透していく。

………私は誰よりも強く美しい………

マダムに手を引かれ姿見の前に連れてこられる………

深緑色のドレスがシャンデリアの光を受けキラキラと輝く。
大きく開かれたデコルテも艶を帯び、強調された胸元から腰のラインは見るものを妙な世界へ引き込む………
真っ赤なルージュがひかれた唇が笑みを浮かべれば、その妖艶さに心惹かれずにはいられない………
………そして強く輝く瞳に射抜かれた者は陥落する………

………まるで全てを手に入れた絶対的支配者………夜の女王が鏡には写っていた。


「あとは………ネックレスをどうしましょう?」

満足気に微笑むマダムに慌てて言う………

「どうしてもつけて行きたいネックレスがあるんです。」

私は持って来た小さな鞄から小箱を取り出しマダムに渡す。

「………あら!可愛らしいネックレスだこと………
これは貴方にとって何よりも大切な物なのかしら?」

「………はい………
私に勇気をくれる大切なネックレスです。」

「夜の女王にしてはささやかなネックレスだけど………
………いいわね~この儚さが………
かえって男の支配欲をそそりそうね~」

リドル様にもらったネックレスが胸元で光る………

「清らかなまま悩ましい魅力を放ち、愛する人の身も心も虜にしてしまえる石………それが真珠のパワーよ。
誰にも汚すことの出来ない真っ白に輝く真珠は女性の処女性を表し、柔らかく放たれる光は誰をも包み込む優しい母そのもの………
夜の女王のような妖艶さを放ちながら聖母のような温かさを内に秘めた貴方は最強ね。このネックレスを送った誰かさんが今の貴方を見たら卒倒するわね。
………その誰かさんのために闘うのでしょ。今の貴方なら大丈夫!絶対勝てるは‼︎がんばってミリア………」

マダムに優しく背中を叩かれ気合いが入る。

………私はルティア王女に勝てる!


胸元で光る真珠を握り祈る………

………どうか勝利をこの手に………



エントランスに留まるシュバイン公爵家の馬車に乗り込む………

「マダム最後にお願いがあります。この手紙をリックベン商会へ届けてください。大切な手紙です。よろしくお願い致します。」

「わかったわミリア。がんばっていってらっしゃい‼︎」

私を乗せた馬車はマダムに見送られ王城へ向け駆け出した。
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