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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】
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しおりを挟む………王城夜会当日………
「エリザベス様…わたくしリザンヌ王国へ行くことに致しました………」
「………それは旅行で?」
「………いいえ…あちらの国で暮らそうと思っております。」
「ちょっと待ってミリア!それはシュバイン公爵家からも去るということなの⁈」
………優雅に朝の紅茶を楽しんでいたエリザベス様がカップを取り落とし、慌てて立ち上がると私の目の前にやって来て肩をつかむ………
「………はい………
エリザベス様には幼少期からずっとお世話になりありがとうございました。」
「ミリア…考え直す気はないの?リザンヌ王国に知り合いでもいるの?」
「最後になりますしエリザベス様には正直に申し上げます。
………このままエリザベス様の元で仕え続ければリドル様にお会いする機会もありますでしょう。今でもリドル様はわたくしにとって誰よりも特別な方です。しかし、わたくしはリドル様の気持ちに応える事は出来ません。小さな頃から身分違いの結婚をした為、しなくてもいい苦労をしてきた両親を見て参りました。男爵家とは名ばかりの平民より貧しい暮らしに母の生家の侯爵家からの圧力で思うように他家の貴族家との関係を築けない父………
身分違いの恋は必ず軋轢を生む事を小さな頃から思い知らされて来ました。
だから…リドル様の気持ちには応えられないのです。
エリザベス様の元にいれば、いつまで経ってもリドル様を忘れられない………
わたくしがリザンヌ王国へ逃げる事をお許しください。」
私は深々とエリザベス様に頭を下げる。
「………ミリア…わかったわ………
悲しいけれど貴方の決意は変わらないのね。でもこれだけは約束してちょうだい。リザンヌ王国で辛い事があって逃げ出したい時は必ずわたくしに助けを求めると。どんな手を使っても貴方を助け出してあげるから………」
「エリザベス様…ありがとうございます………」
堪えていた涙が決壊しエリザベス様の胸で声をあげて泣いていた。
「ところでミリアはいつリザンヌ王国へ立つの?」
しばらく泣き続けた私が落ち着いた頃、エリザベス様が優しく問いかける………
「明日の朝早くに出発する予定です。今夜リザンヌ王国へ一緒に立つ友人の家に行くことになっています。
最後の侍女としての仕事がエリザベス様の夜会の準備だなんて、最後まで貴方様に関われて幸せでございました。」
「………今日はミリアにとびっきり綺麗にしてもらわなくちゃ!」
「えぇ…もちろんでございます。」
私は今までの感謝を込めてエリザベス様の全身をマッサージし、香油を塗る。夜会用のドレスを着付け、最後にドレッサーの前に座らせ、髪を丁寧に梳かしサラサラの艶々に仕上げる。
「今日はどのような髪型になさいますか?」
「………そうねぇ………サイドを編み込んでハーフアップにしてもらおうかしら」
私はエリザベス様の銀色の髪を編み込み仕上げていく………
「ミリアのいなくなる日に王城で夜会なんて憂鬱だわ………
しかも、噂では今夜の夜会でルティア王女殿下はリドルお兄様との婚約を発表すると豪語しているらしいわ。
………あんなワガママ王女と姻戚関係になるなんて最悪よね………
風の噂では、ベイカー公爵家に嫁いだ暁には女主人として公爵家を仕切ると言い出しているようよ。
………お兄様から断る事も出来ないし仕方ないのかもしれないけど………
これが政略結婚の末路なのね………
リドルお兄様はあんなワガママ王女を愛することが出来るのかしら………」
………ルティア王女がリドル様との婚約を発表するですって………
エリザベス様の言葉が私の心に突き刺さる。
凶悪な笑みを浮かべ私を罵るルティア王女の映像が脳裏に浮かぶ………
………リドル様の腕に手を絡め妖艶に微笑むルティア王女の勝ち誇った顔が見える………
リドル様の泣きそうな辛そうな顔も………
私は脳裏に浮かんだ映像を打ち払いエリザベス様の髪を結うことに集中する。
最後にドレスに合わせて髪飾りをつけ準備を終える………
「エリザベス様…完成でございます。本当に今までありがとうございました。」
私はエリザベス様に最後の挨拶を終え、深々と頭を下げる。
「………ミリア最後にひとつ………
リドルお兄様はミリアの事を本当に愛していたわ。社交界ではプレイボーイと言われていたけど、お兄様が愛した人は先にも後にもミリアだけよ。たとえルティア王女殿下と結婚することになってもミリアを愛し続けると思うわ。
それだけ貴方はお兄様にとって特別な女性なの。これだけは忘れないであげてね。」
「………」
「万が一、ルティア王女殿下と闘う気になったらマダムの店に行きなさい。
貴方の幸せをたくさんの人が応援している事実を忘れないで………
………ミリア元気でね………」
エリザベス様が笑顔で見送る中、私は逃げるように部屋を後にした。
私室に戻って来た私は、タンスを開け手当たり次第に服を旅行鞄に詰め込んでいく。ルカにはリザンヌ王国で全て用意するから身ひとつで来ればいいと言われていたがそんな事どうでもよかった。
何かしていないとルティア王女とリドル様の映像が頭を駆け回り気が狂いそうになる………
………私はリザンヌ王国へ行くのよ………
リザンヌ王国へ行って新しい人生を送るの………
………リドル様の事は忘れるのよ………
………忘れるの………
黒い笑みを浮かべ勝ち誇った顔のルティア王女が辛そうに歪むリドル様の顔を引き寄せキスをする………
ルティア王女のキスに応えながら涙を流すリドル様………
脳内で繰り返し流れる映像に私の心がジクジクと痛み血の涙を流す………
私は泣いているリドル様を見捨てるの………?
リドル様がルティア王女と結婚したら、あの方は一生孤独な可哀想な人生を歩むことになる。
………幼い頃の膝を抱え泣いていたリドル様の顔が大人になったリドル様の顔に重なる………
孤独な貴方を助けられるのは私だけ………
私の心に昔の仄暗い独占欲が甦る………
『リドル様は貴方の事を好きなんですって。わたくしと政略結婚するのにね………
失恋したリドル様をわたくしが慰めてあげるの………』
ルティア王女の言葉が頭の中で繰り返される。
私は机の中から便箋を取り出し手紙をしたため、封筒に入れる………
そして首に下げていた紫のアメジストが光るネックレスを外し、一緒に封筒に入れ封蝋をする。
机の奥深くにしまっていた小さな箱を取り出し中を開けると、真珠をあしらった小花のネックレスがあらわれる。
ネックレスを手に握り祈る………
………どうか私に勇気を………
私はある決意の元、部屋を飛び出した。
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