売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】

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~ルティア視点~

私はその場を立ち去るミリア様が見えなくなってやっと緊張を解くことが出来た。

手近にあった椅子に座り大きくため息をつく………

あれで上手くいったのかしら………

性悪王女を演じるのは思ったよりも精神をゴリゴリと削られるものだ。

リザンヌ王国の王宮で繰り広げられた数々の嫌がらせを参考にしたが、ミリア様に性悪王女として敵認定してもらえたかは不安が残る。

性悪王女にリドル様を奪われてたまるかとミリア様が奮起してくれなければ今回の計画は失敗に終わる。

私の演技にすべてかかっていた訳だが………

「ルティア王女殿下………大丈夫ですか?げっそりしてらっしゃいます………」

「人を貶める行為がこんなにも自分の心まで傷つけるとは思いませんでした………
エリザベス様始め、侍女の皆様にも酷い態度で接してしまい申し訳ありませんでした。」

私はエリザベス様に向かい深々と頭を下げた。

「………いいえ…これでミリアの頑なな気持ちにヒビが入れば協力した甲斐がありましたわ。」

目の前のエリザベス様が晴れ晴れとした笑顔を見せてくださる。

「わたくしはミリア様の心を変えさせる事が出来たのでしょうか?」

「………それは分かりませんが、他の侍女にミリアの様子を見に行ってもらったところシャワー室からいっこうに出て来ないようなので何かしらのインパクトは与えられたのではないでしょうか………
あとは、王城での夜会当日になってみないと何とも分かりませんが。」

「エリザベス様にお伺いしたいのですが、何故ミリア様は頑なに身分差にこだわるのでしょうか?
今のミリア様の環境はとても恵まれています。リドル様から愛され、ベイカー公爵様もミリア様とリドル様が結婚する事を認めてらっしゃる。そしてエリザベス様も協力している現状で、ミリア様さえ結婚を承諾すればなんの障害もなく、幸せな結婚が出来るというのに………
確かにわたくしという邪魔者はいても、リドル様からわたくしとの婚約はないと聞いているはずなんです。
正直、わたくしよりよっぽどミリア様の方が恵まれています。政略結婚を強いる敵もいませんしね………」

私は内心ミリア様に腹を立てていた………

確かに男爵令嬢と公爵子息では身分差があるのはわかるし、男爵令嬢が公爵家に嫁入りすれば社交界で色々とやり玉にあげられる可能性は高い。しかし、公爵様から反対されているでもなく、ベイカー公爵家の使用人含め全ての人達から結婚を望まれているなんてそんな幸せな環境はない。
ただ、魑魅魍魎集う社交界に表立って出るのを怖がっているだけではないか!

私から見たらミリア様は一歩前に踏み出す勇気も決意もない負け犬にしか見えない………

「ミリアの境遇も複雑なんですの………
ミリアのお母様がリドルお兄様の乳母をやっていたのはご存知かしら?」

「………いいえ………」

「ミリアの生家であるウィッチ男爵家はあの当時から貴族とは名ばかりのとても貧しい家なの。領地も山岳地帯にあって土地も作物があまり育たない不毛な場所で男爵家の中でも最下位に近い立ち位置の家なの。
そんな貧乏男爵家に高位貴族の侯爵令嬢が勘当同然で嫁入りした………
それがミリアのお母様だった。

高位貴族の家では、下位貴族の子爵家や男爵家から乳母を雇う事はよくあるの。
貧乏男爵家に嫁いだミリアのお母様は、家計を助けるために高位貴族家に頭を下げ働かせて欲しいと頼んだそうよ。しかし、侯爵令嬢だったミリアのお母様を雇う家はどこにもなかった。勘当された侯爵家当主からの圧力もあったようよ………
そんな時、リドルお兄様の乳母をお父様が探しているという話を聞き藁をも縋る思いでベイカー公爵家に訪れたそうなの。当時、ミリアのお母様はわたくしのお父様とも面識があり、困り果てたミリアのお母様を助けるつもりで乳母として雇う事にしたそうよ。
公爵家であれば、侯爵家からの圧力も関係ないしね。
ミリアもそんな事情を小さい頃から聞いていたのだと思うわ。
侯爵令嬢として生まれたのに、貧乏男爵と結婚したばかりに苦労した母を見て、身分差の結婚の厳しさを知ったんだと思う。愛に希望を持てなくなってしまったんだわ………ミリアはね………」

「そんな事情がありましたのね………
ミリア様は、リドル様との愛を取ることはないのでしょうか?」

今回の計画は、ミリア様がリドル様の愛を受け入れなければ失敗する………

「………勝算は五分五分ね………
ミリアのリドルお兄様に対する愛情が深ければ深い程、成功する確率は高くなる。ミリアは昔から困っている人をほっとけない極度のお節介焼きなのよ。
性悪ルティア王女殿下との結婚で愛するリドルお兄様が不幸になると思えば、絶対に行動を起こすはずよ………
今度の王城での夜会が勝負ね………
さらにルティア王女殿下の性悪振りをミリアに吹き込みましょう。」

「よろしくお願い致します。
後は、ミリア様が奮起して下さることを願うだけですわ。」

ミリアが去った四阿で今回の計画の黒幕達の最終打ち合わせは続いた。

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