83 / 92
第7章 それぞれの未来【ミリア視点】
9
しおりを挟む………翌日………
私の目の前では、優雅に微笑みながら嫌味の応酬を繰り出すルティア王女殿下と困惑顔のエリザベス様がお茶を飲んでいた。
ルティア王女はシュバイン公爵家のエントランスにてエリザベス様が出迎えた時から攻撃的だった。
まずエントランスで出迎えた使用人の数が少ないと遠回しに言い、王女がわざわざ出向いているのに軽んじられていると泣き真似をしだし、エリザベス様が何とか取りなしたが、庭の四阿に用意されたお茶の席に着いた途端、花が楽しめる場所が良いとワガママを言い出す始末で、手の空いている使用人で急遽お茶の席を移動する事になり、お茶が始まれば自分の好きな銘柄のお茶ではないと騒ぎ、急ぎ数種の紅茶の銘柄を用意させたりとエリザベス様や私を含め給仕をしている侍女を困惑させる要求を繰り返している。
………ルティア王女って…こんなにワガママな方だったの………
エリザベス様も流石に呆れてしまったのか、あからさまなため息をこぼしている。
………ベイカー公爵家でのリドル様とのお茶会では品よく、とても素敵な王女だと思ったけど………
これでは厚顔無恥なワガママ王女ではないか………
ルティア王女のあまりな態度にエリザベス様の我慢の限界を超えたのか、側に控えていた私を呼ぶ。
「ミリア…少しの間だけ席を立ちます………
後の事は任せました………」
エリザベス様が小声で指示され、ルティア王女に席を少し外す旨を伝え四阿から退室されていく。
………私にこのワガママ王女の相手をしろということね………
小さくため息が溢れてしまう………
「そこのメイド………お茶が温くなってしまったわ。入れ直しなさい!」
エリザベス様が退席してからお茶を飲んで待っていたルティア王女だったが、帰って来ないエリザベス様に焦れたのか標的を変えたようだ。
私は直ぐに新しいお茶を入れ直しルティア王女の持つカップを取り替えるため近づいた途端、紅茶を派手に浴びせられた。
「………っ‼︎‼︎」
突然の暴挙にビックリしてルティア王女の顔を思わず見ると、意地悪そうに口を歪め笑うルティア王女と目が合う。
「………あらぁ~ごめんなさいね………
手が滑ってしまったの………」
………手が滑った………?
あからさまに浴びせたくせに何を言っているのだ………
「新しい紅茶を入れ直しましたのでそちらのカップをお下げしてもよろしいでしょうか?」
………私は怒りを抑え給仕をする………
「テーブルの上も下も濡れてしまったわ………
わたくしのドレスが汚れたら大変………
すぐに綺麗にしてくださるかしら………」
「わかりました………」
テーブルの上の飛び散った紅茶の滴を拭き、入れ直した紅茶をルティア王女の前に置くと四阿のタイルの床に滴った紅茶の池を拭き始めた。
「………ひっ‼︎‼︎」
頭上から降ってきた紅茶が私の髪を濡らす………
額を伝い、頬を伝い………ポタポタと顎から滴る雫が床に紅茶の池を作っていく………
頭上を振り仰いだ私はカップを傾け歪んだ笑みを浮かべるルティア王女の言葉に衝撃を受ける事になる。
「わたくしのリドル様を惑わす身の程知らずのメイドは貴方よね?
貧乏男爵令嬢で、未だに独り身のおばさんが夢でも見たの………?
公爵家の子息と釣り合うとでも思ったのかしら………惨めよねぇ~」
私は俯き唇を噛みしめ耐える………
「貴方はさっさと実家へ帰りなさい。わたくしの周りでチョロチョロされると目障りよ。リドル様は好みじゃないけど結婚してあげるわ。リザンヌ王国の命令だしね………
………あっ!良い事を考えついたわぁ~
リドル様は貴方の事を好きなんですって。わたくしと政略結婚するのにね………
失恋したリドル様をわたくしが慰めてあげるの………
わたくしの魅力で骨抜きにしてベイカー公爵家を操るのも楽しそうね。結婚さえしてしまえばリザンヌ王国の力をチラつかせてベイカー公爵家を内から支配するのも簡単よね。
リドル様はお飾り公爵にして、わたくしが実権を握れば、愛するイアンと自由に会う事も可能だわ。
いい考えだと思わない?
………二人の公爵から愛されるわたくし………素敵ね………」
………リドル様をお飾り公爵にする………
………ベイカー公爵家を支配して愛するイアンと過ごすって………
二人の公爵から愛されるですって………
何よそれ……リドル様は貴方の欲を満たす道具ではないわ‼︎
私は怒りで体が震えてくるのを止める事が出来なかった………
「目障りよ!さっさと荷物をまとめて出ていきなさい。貴方のような魅力のない女がベイカー公爵家に関わっているなんて虫唾がはしるわ!」
「ミリア‼︎どうしたの⁈」
慌てて四阿へ駆け込んで来たエリザベス様が心配そうに私の顔を覗き込む。
「ルティア王女殿下…ミリアに何をされましたの?」
………剣呑な雰囲気を醸し出すエリザベス様に慌てて言い募る………
「エリザベス様大丈夫でございます。わたくしが誤って紅茶の入ったカップをひっくり返しただけでございます。
着替えをして参りますので、失礼致します。」
私はエリザベス様に辞去を申し出て、その場を急ぎ後にした。
紅茶で濡れた身体を洗うため、シャワーブースに入った私は、バシャバシャと降りしきるシャワーの雨の中、声を上げて泣いていた。
怒りで震える体を両手で抱きしめ抑えようとするが治らない………
………ルティア王女の言葉が頭をグルグル回り止めどなく涙が溢れてくる………
………未だに独り身のおばさん………
貧乏男爵令嬢の私と公爵家子息のリドル様………
貴方に言われなくても身分違いで釣り合わないのはわかっている。
何度離れよう、忘れようと思ったけど出来なかった………
リドル様から愛を向けられ本当に幸せだった………
………忘れる事なんて出来ないのだ………
あの人だけが私の特別で絶対だった………
………リドル様を欲を満たすだけの道具としか考えていない女に奪われていいの………?
抑えきれない心の声が溢れ出そうとしていた………
1
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる