売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】

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シュバイン公爵家に匿ってもらい数日が過ぎようとしていた。
徐々に生活にも慣れてきた私は明日からエリザベス様付き侍女として仕える事になった。

午前中に執事から大まかな仕事内容の説明を受けた私は、明日から暫く自由な時間を得られない事を見越し、午後から街に出る許可をエリザベス様にもらいに向かった。

「エリザベス様、午後から街に出たいのですがよろしいでしょうか?
明日から侍女として働く事になりましたし、中々街に行く時間も取れないと思いますので身の回りの生活用品を買いに行きたいのですが………」

「ミリアが街に行きたいのであればわたくしの許可を取らなくても自由に行って大丈夫よ。ただ、久々の街歩き一人で大丈夫かしら?護衛も付けましょうか?
………あっ!わたくしが付いていきましょうか?」

「………エリザベス様が一緒ですと護衛がたくさん必要になりますし、かえって皆さんに迷惑です!街には何度も一人で行っていますし大丈夫です。護衛も不要です。」

エリザベス様が嬉しそうに微笑まれる………

「やっといつものミリアに戻って来たようね………わたくしに説教するくらいでないとミリアじゃないもの。」

………どうやらエリザベス様に試されていたようだ………

知らず知らずのうちにエリザベス様にも沢山心配をかけてしまっていた………

かつての頼りない主人の成長が単純に嬉しかった。




私は簡素なワンピースに着替えるとシュバイン公爵家近くの街に行く辻馬車に乗り、街へ向かった。


街に着いた私は身の回りの生活用品を買い久々の街をウィンドウショッピングしながら歩く。街行く人々はとても楽しそうでこちらまで嬉しくなってくる。

ふと一軒のジュエリーショップの前で立ち止まる………

………ここって…リドル様に初めてネックレスを買ってもらった店だわ………

私は無意識に胸元に手を持っていき肌身離さず着けていたネックレスを握っていた。

………このネックレスだけはリドル様がルティア王女の婚約者候補になったと聞いたときも、リドル様の専属侍女を辞めた時も、ベイカー公爵家を辞した時も捨てることは出来なかった。

こんなんじゃいつまで経ってもリドル様を忘れる事なんて出来ないのにね………

私はフラフラと目の前の扉を開け、ジュエリーショップに入って行く。

簡素なワンピースだが、店員は私を快く受け入れてくれた………

「何かお探しの物がございますか?」

「………あのぉ………いえ…………」

不審に思われても嫌だわ………………

私はとっさに首につけていたネックレスを外し見せる。

「以前こちらのお店で購入したのですが、肌身離さず着けていたので、少しゴールドの部分がくすんできてしまって………
綺麗にして頂くことは出来ますか?」

私からネックレスを受け取った店員が確認している………

「そうですね…これはうちの商品で間違いありませんね。手入れは無料で行っております。直ぐに綺麗になるかと思いますが店内でお待ちになりますか?」

「すぐに綺麗になるなら待たせて貰います。」

店員が気を使い奥のソファ席で待つように薦めてくれたが断り店内を見て回る事にした。

以前も思ったけど…このお店本当にセンスが良いものばかり………

ショーケースを見ながら歩いていると突然後ろから声をかけられた。

「ミリア!久しぶりです。領地へ帰ったとばかり思ってましたが、王都に戻って来ていたのですね。」

私は慌てて声がした方へ振り向くと、そこにはルカが立っていた。

「えっ!ルカなの?………どうしてここに?」

「いや………この店にお願いしていた品を取りに来たんですよ。そしたらミリアがいるものだからビックリしました。
ミリアは買い物ですか?」

「………いいえ…大切にしているネックレスが汚れてきたので綺麗にしてもらってるの………」

「じゃあ…まだ時間はありますよね………
私と一緒にお茶しませんか?直ぐ近くに美味しいケーキを出すカフェがあります。色々と話したい事も有りますし………」

私は強引なルカに手を繋がれジュエリーショップを後にし、ルカお勧めのカフェへやって来た。

席に着いた私達はそれぞれ飲み物とケーキを頼み、しばらく経つとウェイターが注文の品を持ってきた。

………相変わらずの甘党なのねぇ………

ルカの目の前に置かれた数種類のケーキを見て苦笑してしまう。

私は目の前に置かれた紅茶を飲みながら美味しそうにケーキを食べるルカを見て和んでいた。

「ミリアもケーキ食べて!私だけ食べてるのも恥ずかしいから………」

「えぇ、頂くわ。」

ルカの可愛らしい戯言に頬が緩む………

………なんだかここ数週間色々な事がありすぎてずっと緊張しっぱなしだった。

ルカとのたわいないやり取りで緊張感がちょっと和らいだ気がする………

「ルカありがとね。美味しいカフェに連れて来て貰って、ルカの変わらない姿見てたら気が抜けちゃった。ずっと気を張って生活してたから、楽になれたわ。」

目の前で美味しそうにケーキを頬張っていたルカの手が止まる。

「ミリアが王都に戻って来たのはベイカー公爵家のリドル様と何かあったからですか?以前にも聞きましたが、ミリアとリドル様は恋仲だったのではありませんか?ミリアが王都を立つ時に言いましたよね………リドル様と辛い恋をしているのではないかと………」

ルカの視線が鋭くなる………
まるで誤魔化しは許さないと言われているみたいだわ………

確かにルカには結婚の申し出をされていたにも関わらず、結局うやむやのままウィッチ男爵家へ戻ってしまった。

「………リドル様とは………………
わたくしが一方的に好きだっただけよ。
あの方はもうすぐ他の女性と婚約されるわ………」

「やはりそうでしたか………………
私も噂で聞きました…グルテンブルク王国に滞在しているルティア王女殿下がベイカー公爵家へ嫁ぐらしいと。」

………市井にまでそんな噂が広まっているのね………
やはりこの婚約を無くすことは不可能なんだわ………

「ミリアは…まだリドル様の事を忘れられないの?」

「………そうね…あの方とは幼少期からの長い付き合いなの………
昔からずっと好きだった………
簡単には忘れられないでしょうね。」

今まで誰にも話した事が無かったリドル様への長年の想いを吐き出していた。

「ルカごめんなさいね。全部話したら何だかスッキリしちゃった。」

ルカが最後まで私の話を聞いてくれた事で心が軽くなっていた。
………本当不思議よね………
ルカの持つ優しい雰囲気についつい喋っちゃったわ。

「ミリア…今の環境で本当にリドル様を忘れられますか?このままシュバイン公爵家のエリザベス様に仕えていたらリドル様と会う事は避けられないでしょう。
貴方はルティア王女殿下と仲睦まじく過ごすリドル様を見る事になる。そんな事耐えられますか?」

エリザベス様付き侍女として今後も仕える事になればリドル様と会う事になる………
そんな事はわかっている………
………それでも良かった………
遠くからでもリドル様を見る事が出来れば私の恋心は満たされる。
私がリドル様を愛し続けてもそれは私の自由だ………
きっと忘れる事なんて出来ない………

「………きっと時間が解決してくれるわ………
リドル様の幸せな姿を見れば諦めがつくかもしれないしね。」

無理して笑う私に反して、ルカの表情が辛いものに変わっていく………

「私は貴方が傷つくのを黙って見ていられない………
貴方の心が私にないのはわかっています。でも貴方が辛い人生を選ぼうとしているなら、私が貴方の人生を変えてみせる。
どうかお願いです。私の手をとってください………ミリア………
貴方を絶対に幸せにします………
今はリドル様を好きでも構いません。いつか私を好きにさせてみせますから。」

私の手を握り真摯に紡がれる言葉に揺さぶられる………

この手を取れたら私は楽になるのだろうか………

「私は数日後にグルテンブルク王国を立ちます。拠点をリザンヌ王国に移すためです。あの国は、今後目まぐるしい発展を遂げる。ミリアが一緒なら私は今以上に成長出来る。私と一緒にリザンヌ王国へ行きましょう。私との結婚の返事はリザンヌ王国へ行き、ミリアの気持ちが私に向いた時で構いません。
出立する日時は手紙で伝えます。その日に街のリックベン商会へ来てください。」

「………………」

「ミリアよく考えてください。
貴方はグルテンブルク王国に居ては傷つく未来しかない………
私と一緒にリザンヌ王国へ行きましょう。」

ルカの誘惑が私の脳に浸透していく………



ルカは私を連れカフェを出るとその足でジュエリーショップへ行く。

綺麗に磨き上げられたネックレスを見て私の胸が痛み出す………

「貴方にこのネックレスは似合わない………」

真珠があしらわれた小花のネックレスの箱を閉じ、目の前に綺麗な紫色のアメジストがあしらわれたネックレスを掲げられ、そのまま首につけられる。

「ミリア今日からはこのネックレスが貴方のお守りです。肌身離さず持っていてくださいね。
………私の瞳の色を纏う貴方は本当に美しい………」

私にかけられたネックレスを手に取ったルカがアメジストにキスをする………

「………ミリア…愛しています………」

心臓が壊れたように早鐘を打つ………

私の中でルカを本当の意味で意識し出した瞬間だった。



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