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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】
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しおりを挟む「エマさんに聞きたい事があるのだけど………よろしいかしら?
わたくし、ずっとタウンハウスから外へ出ていないのだけど、外出は出来るのかしら?少し気晴らしに街へ行きたいのだけど………」
今日も変わらず私の身の回りの世話をしてくれているエマさんに聞いてみた。
最近は、リドル様からの過剰な愛情を受け幸せと感じる反面、ルティア王女の存在が自分の中で大きくなり鬱屈した日々を送っていた。
リドル様といる時は、リドル様の事だけを考え幸せに浸る事が出来るが、いざ独りになると考えてしまう………
リドル様は私を愛人にするつもりなのではと………
毎日の戯れでリドル様から向けられる愛は疑いようのないものに変わっていった。しかし、リドル様の口からルティア王女との婚約がなくなったとは聞いていない。それにあの甘い香りは紛れもなくリドル様が他の女性と会っている証拠でもあった。
政略結婚が当たり前の貴族社会では愛人を囲っている高位貴族も少なくない。
リドル様はルティア王女を本妻に迎え、私を愛人としてこのタウンハウスに囲うつもりかしらねぇ………
25歳になってウィッチ男爵家に帰ったところで結婚相手がすぐに見つかる訳でもなく、このまま独身をつらぬけばウィッチ男爵家を継ぐ弟にも迷惑になる。
実家に居座り続ける小姑なんて最悪………
かと言ってリドル様の愛人で良いかと言われると、それはそれでルティア王女も私も不幸でしかない。
やっぱり早目に此処を出て次の職場を探した方がいいわよね………
リドル様がすんなり此処を出て行く事を認めてくれればだけど………
つらつらと考えていた私にエマが答えてくれる………
「ミリア様…護衛と一緒であれば街に出る事も可能かとは思いますが………
一度リドル様に確認を取りますので、もうしばらくご辛抱くださいませ。」
そしてその夜、エマから外出の件を聞いたリドル様が部屋にやって来た。
「エマから聞いたけどミリアは街に行きたいの?それは誰かに会うため?」
リドル様のいつになく剣呑な雰囲気に飲まれそうになる………
「………いえ…誰かに会うとかではなく………
ただ、ここ数週間ずっとタウンハウスから出ておりませんので、気晴らしに外出したいなぁ~って思いまして………
街の様子も気になりますし………
ダメでしょうか?」
「もちろん俺にミリアの行動を制限する権限はないし、街に行きたいなら行ってもいいよ。ただし、一人で行くのはダメだ。護衛とエマを一緒に連れて行くこと。本当は俺が一緒に行きたいところだけど、王城の仕事が立て込んでいてね…
これ以上休む事が難しい………」
「………リドル様…街はよく知っていますし、ひとりでも大丈夫ですが………」
リドル様の視線が鋭くなる………
「今すぐ俺との婚約誓約書に署名するならひとりで街に出ても構わないよ。でもそれが出来ないならエマと護衛をつける。ミリアがきちんとタウンハウスへ戻って来るためにね………」
私を此処から逃がさないための監視役という訳ね………
「………リドル様…わたくしが本当に婚約誓約書に署名したら困るのは貴方様ではありませんの!」
「別に全く困らないが………
そもそもミリアをタウンハウスから出さないのは俺との結婚をミリアが承諾しないからだろう。」
私はリドル様の言い分を聞く内に段々と腹が立ってきた………
「では、お伺い致します!
リドル様は、ルティア王女殿下の婚約者候補ではないのですか⁈
はっきりお応えください………
わたくしとの事はただの遊びですか?」
リドル様が辛そうに顔を歪める………
「ルティア王女との婚約話が無くなった訳ではない………
ミリアにはきちんと話しておかないといけないな………
ルティア王女との婚約話は未だに決着はついていない。候補は俺とレッシュ公爵家のイアン殿の二人だ。一番厄介なのはこちら側から断る事が出来ないんだ。ルティア王女が選んだ相手は嫌でも婚約者になるしかない。」
「………でしたら…リドル様がわたくしと結婚すると言っている事は全て嘘ですか?」
「嘘ではない………俺は本気でミリアと結婚しようと思っている。その為の行動も起こしている………
ミリア…頼むから俺を信じてくれ………」
リドル様の言葉が右から左へ抜けていく………
………リドル様の何を信じろというのよ!
「貴方様が何をしてもルティア王女がリドル様を選べば、全てが終わります………
わたくしは愛人になってまでリドル様の愛が欲しいとは思いません………」
「………ミリアを愛人にするわけないじゃないか!」
「でも貴方様には、この婚約を断る権利が無い………
もう…夢を見るのはやめましょう。
現実を見るべきです………
リドル様…わたくしを解放してください。」
リドル様が辛そうに顔を俯かせる………
唐突に私をかき抱いたリドル様が紡ぐ………
「それでもミリアを手放すことは出来ない………………」
私はリドル様に抱きしめられながら、ただ涙を流すことしか出来なかった。
次の日…一通の手紙を書いていた………
『親愛なるエリザベス様へ
ミリアの最初で最後のお願いでございます。どうかわたくしをリドル様のタウンハウスから連れ出し、匿って頂きとうございます………』
数日後、その手紙を受け取ったエリザベス様からの迎えの馬車がタウンハウスへ横付けされ、私の人生の中で決して忘れる事が出来ない激動の日々が始まる事となる。
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