売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

文字の大きさ
上 下
75 / 92
第7章 それぞれの未来【ミリア視点】

1

しおりを挟む

リドル様のタウンハウスでの日々は私にとって困惑と幸せの連続だった。

高熱を出し寝込んだ後、普段通り歩けるようになるまでリドル様がつきっきりで看病していたのはもちろん、歩けるようになってからは侍女頭のエマさんに、何処ぞの高位貴族のお嬢様のように扱われる日々………

少ない人数でタウンハウス内を切り盛りしている筈で私に構っている暇なんてない筈なのに、着替えすら自分ではさせて貰えない。

毎朝、エマさんに起こされ今日着る服を一緒に選び、それに合わせて軽く化粧と髪を整えられる。その後は、リドル様と一緒に朝食をとり、王城へ出勤されるリドル様を見送った後は、刺繍をしたり読書をしたりと時間をつぶす。お茶の時間になればシェフお手製のお菓子と紅茶が用意され全てエマさんが給仕をしてくれる。

今までベイカー公爵家にてエリザベス様へ私がしていた侍女の仕事全てをエマさんが私にしてくれてるのだ。

初日にエマさんが宣言していた通りの扱いに困惑しながらも、嫌な顔せず接してくださる使用人の方々のプロ意識に感嘆する日々だった。




「ミリア様、まもなくリドル様がお戻りになられる時間でございます。エントランスにてお出迎えを………」

………私…リドル様の妻でも婚約者でも恋人でもないのに………

タウンハウスに来て一番困っているのが、使用人の皆様が私をリドル様の妻のように扱う事だ。

「………エマさん…わたくしお迎えに上がらないとダメかしら………?」

「もちろんダメでございます。ミリア様がお迎えに上がれば、リドル様のご機嫌もよろしくなります。わたくし達使用人のためにもぜひエントランスにてお出迎えを………」

………そう言われてしまえば行かない訳にもいかず………
今日もエントランスで待つ使用人の先頭に立ちリドル様を待つ羽目になった。


「ミリアただいま………」

エントランスホールに入って来たリドル様が真っ直ぐに私の元へやって来る。

「………お帰りなさいませ………離してくださいませ………」

私の前に来たリドル様は、私を抱きしめ暫し沈黙する………

お出迎えを始めた頃は抱きしめられる度に慌てて逃げ出そうとしていたが、毎日それが続けば慣れるもので、今では抵抗せずリドル様の気が済むまでジッとしている。

私が慌てれば慌てる程、リドル様の行為はエスカレートしていき、それを使用人総出で生温かい目で見守られるのも恥ずかしい………
結果、ジッとしているのが精神衛生上、一番マシなのだ。

「最近のミリアは俺が抱きしめてもあまり抵抗しなくなったな。少しずつ俺を受け入れる気になって来たか?
………じゃあ…少し先に進んでもいいかぁ~」

………先に進んでも………?

リドル様が私の顎を掴み上向かせキスを仕掛ける………

「………ななななっ…何するんですか‼︎」

いっきに沸点に達した私は力いっぱいリドル様を突き飛ばし、その場を逃げ出した。

………皆さんの前でキスするなんて信じられない………
リドル様はいったい何考えてるのよ!

私はリドル様との夕食をすっぽかし部屋に篭ることにした。

『トントン』

「ミリア様、失礼致します。お夕飯の膳をお持ち致しました。」

先程のリドル様とのやり取りを見ていたエマさんが気を利かせてくれたのか、夕食の膳を持ち部屋へ入って来る。

「手間を掛けさせてごめんなさい………」

「何を言いますかミリア様。どんどん我がままを仰ってくださいませ。ミリア様はリドル様の妻になる方ですので、わたくし達、使用人は顎で使うくらいの気持ちでないといけませんわ。追々、次期公爵夫人になる為の勉強もしていきましょうね。」

目の前にはニッコリ笑顔のエマさんがいる………

「わたくし…リドル様とは結婚出来ません………」

「どうしてですか⁈ミリア様!
あんなにリドル様はミリア様を想ってらっしゃるのに‼︎
………まさか他に好きな方がいらっしゃるのですか⁈」

私はエマさんに肩を掴まれ詰めよられる………

「好きな人は………いません。
わたくしは男爵令嬢です。公爵子息のリドル様とは身分が違い過ぎます。
………それにリドル様にはルティア王女殿下がいらっしゃいます。わたくしが到底敵う相手ではありません。」

「………しかし…リドル様からルティア王女殿下と婚約するとは聞いておりません………」

「………エマさん………
わたくしもバカではありません………
貴族社会での結婚は政略結婚がほとんどです。愛だの恋だのに振り回されればバカを見ることになります。特に下級貴族の25歳令嬢では致命的になるでしょう。」

「ミリア様…そんな悲しい事言わないでください………」

「ごめんなさい…ひとりにしてもらいたいの………」



私は知っていた………
リドル様が頻繁に出かけて行く先がルティア王女殿下の所だろうと………

リドル様に抱きしめられる度に漂う甘い香り………
抱きしめられる嬉しさと同時に感じる女性の香りは私を現実の世界へと戻していく………

タウンハウスでの幸せな日々は幻なのだと………

………でもこの甘い幻が続く限り縋りたいと思ってしまう………



「ミリアさっきはごめん。毎日出迎えてくれるミリアが可愛くて我慢出来なかったんだ。」

リドル様が部屋へと入ってくる………
隣に座ったリドル様にソファへ押し倒され、啄むようなキスが降ってくる………

………あの香りだわ………

私は全てを忘れるようにリドル様のキスに自ら唇を深く重ねた………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

処理中です...