売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】

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リドル様のタウンハウスでの日々は私にとって困惑と幸せの連続だった。

高熱を出し寝込んだ後、普段通り歩けるようになるまでリドル様がつきっきりで看病していたのはもちろん、歩けるようになってからは侍女頭のエマさんに、何処ぞの高位貴族のお嬢様のように扱われる日々………

少ない人数でタウンハウス内を切り盛りしている筈で私に構っている暇なんてない筈なのに、着替えすら自分ではさせて貰えない。

毎朝、エマさんに起こされ今日着る服を一緒に選び、それに合わせて軽く化粧と髪を整えられる。その後は、リドル様と一緒に朝食をとり、王城へ出勤されるリドル様を見送った後は、刺繍をしたり読書をしたりと時間をつぶす。お茶の時間になればシェフお手製のお菓子と紅茶が用意され全てエマさんが給仕をしてくれる。

今までベイカー公爵家にてエリザベス様へ私がしていた侍女の仕事全てをエマさんが私にしてくれてるのだ。

初日にエマさんが宣言していた通りの扱いに困惑しながらも、嫌な顔せず接してくださる使用人の方々のプロ意識に感嘆する日々だった。




「ミリア様、まもなくリドル様がお戻りになられる時間でございます。エントランスにてお出迎えを………」

………私…リドル様の妻でも婚約者でも恋人でもないのに………

タウンハウスに来て一番困っているのが、使用人の皆様が私をリドル様の妻のように扱う事だ。

「………エマさん…わたくしお迎えに上がらないとダメかしら………?」

「もちろんダメでございます。ミリア様がお迎えに上がれば、リドル様のご機嫌もよろしくなります。わたくし達使用人のためにもぜひエントランスにてお出迎えを………」

………そう言われてしまえば行かない訳にもいかず………
今日もエントランスで待つ使用人の先頭に立ちリドル様を待つ羽目になった。


「ミリアただいま………」

エントランスホールに入って来たリドル様が真っ直ぐに私の元へやって来る。

「………お帰りなさいませ………離してくださいませ………」

私の前に来たリドル様は、私を抱きしめ暫し沈黙する………

お出迎えを始めた頃は抱きしめられる度に慌てて逃げ出そうとしていたが、毎日それが続けば慣れるもので、今では抵抗せずリドル様の気が済むまでジッとしている。

私が慌てれば慌てる程、リドル様の行為はエスカレートしていき、それを使用人総出で生温かい目で見守られるのも恥ずかしい………
結果、ジッとしているのが精神衛生上、一番マシなのだ。

「最近のミリアは俺が抱きしめてもあまり抵抗しなくなったな。少しずつ俺を受け入れる気になって来たか?
………じゃあ…少し先に進んでもいいかぁ~」

………先に進んでも………?

リドル様が私の顎を掴み上向かせキスを仕掛ける………

「………ななななっ…何するんですか‼︎」

いっきに沸点に達した私は力いっぱいリドル様を突き飛ばし、その場を逃げ出した。

………皆さんの前でキスするなんて信じられない………
リドル様はいったい何考えてるのよ!

私はリドル様との夕食をすっぽかし部屋に篭ることにした。

『トントン』

「ミリア様、失礼致します。お夕飯の膳をお持ち致しました。」

先程のリドル様とのやり取りを見ていたエマさんが気を利かせてくれたのか、夕食の膳を持ち部屋へ入って来る。

「手間を掛けさせてごめんなさい………」

「何を言いますかミリア様。どんどん我がままを仰ってくださいませ。ミリア様はリドル様の妻になる方ですので、わたくし達、使用人は顎で使うくらいの気持ちでないといけませんわ。追々、次期公爵夫人になる為の勉強もしていきましょうね。」

目の前にはニッコリ笑顔のエマさんがいる………

「わたくし…リドル様とは結婚出来ません………」

「どうしてですか⁈ミリア様!
あんなにリドル様はミリア様を想ってらっしゃるのに‼︎
………まさか他に好きな方がいらっしゃるのですか⁈」

私はエマさんに肩を掴まれ詰めよられる………

「好きな人は………いません。
わたくしは男爵令嬢です。公爵子息のリドル様とは身分が違い過ぎます。
………それにリドル様にはルティア王女殿下がいらっしゃいます。わたくしが到底敵う相手ではありません。」

「………しかし…リドル様からルティア王女殿下と婚約するとは聞いておりません………」

「………エマさん………
わたくしもバカではありません………
貴族社会での結婚は政略結婚がほとんどです。愛だの恋だのに振り回されればバカを見ることになります。特に下級貴族の25歳令嬢では致命的になるでしょう。」

「ミリア様…そんな悲しい事言わないでください………」

「ごめんなさい…ひとりにしてもらいたいの………」



私は知っていた………
リドル様が頻繁に出かけて行く先がルティア王女殿下の所だろうと………

リドル様に抱きしめられる度に漂う甘い香り………
抱きしめられる嬉しさと同時に感じる女性の香りは私を現実の世界へと戻していく………

タウンハウスでの幸せな日々は幻なのだと………

………でもこの甘い幻が続く限り縋りたいと思ってしまう………



「ミリアさっきはごめん。毎日出迎えてくれるミリアが可愛くて我慢出来なかったんだ。」

リドル様が部屋へと入ってくる………
隣に座ったリドル様にソファへ押し倒され、啄むようなキスが降ってくる………

………あの香りだわ………

私は全てを忘れるようにリドル様のキスに自ら唇を深く重ねた………
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