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第6章 鎖を断ち切るために【ルティア&イアン編】
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しおりを挟む~イアン視点~
舞踏会場の壁際でルティとリドルの動向を見守っていた僕は、ルカ王太子に挨拶をしているルティの顔色がみるみる変化していくのがわかった。
いつもは淡く色づいている頬も今は血色なく真っ白になっている。
僅かな変化で周りの者はルカ王太子に注目しているため誰も気づいていない………
今にも倒れそうなルティをリドルが支え会場を後にした。
………ベイカー公爵家の控え室へ行くのか?
僕は二人を追うべく会場を後にした………
………ルティ…泣いているの?
すぐにルティとリドルの後を追った僕だったが途中で友人に捕まった。
滅多に夜会に参加しない僕を見つけ声を掛けたらしいが、タイミングが悪過ぎる。声をかけてきた友人を殴りたくなった。
いつになく剣呑な雰囲気の僕に友人は早々に退散したが………
そのせいでベイカー公爵家控え室に着くのが遅くなってしまった。
廊下には人影はなく静まり返っている………
ベイカー公爵家控え室の扉から聞こえる微かな女性の泣く声………
………ルティが泣いている………
まさかリドルが慰めているのか………?
他家の控え室に勝手に入る事も出来ず、ただ扉の前に佇むことしか出来ない自分に腹が立つ。
………ルティが泣いているのに慰める事も出来ないなんて………
血が滲む程、唇を噛み締めていると………
遠くから此方に向かい廊下を歩いてくる男に気づいた。
………リドルか………
泣いているルティを慰めているのがリドルではなかった事実にホッとする………
一度きちんと話しておく必要があるな………
僕はゆっくりとリドルへ向かって歩き始めた。
「これはこれは、レッシュ公爵家のイアン殿ではありませんか。こんな寂しいところでどうされたのですか?」
此方に気づいたリドルが話し掛けてくる………
「きちんとお話するのは初めてですね。
レッシュ公爵家のイアンと申します。先ほどベイカー公爵家の控え室へルティア王女殿下が入って行かれるのを見まして、同じ婚約者候補として気になりましてね………」
「………左様でございますか………
挨拶が遅くなり失礼致しました。
ご存知かと思いますが、ベイカー公爵家のリドルと申します。
………先日は当家の領地へお越し頂きありがとうございます。
おかげで此方の首尾も上々です………」
やはりベイカー公爵領地への招待は、ルティアの相手を知る目的もあったか………
「こちらこそベイカー公爵領地で楽しい時を過ごさせて頂き感謝しております。
………と…まぁ…決まり文句はここら辺にして、そろそろ本音で話しませんか?」
目の前の笑顔を浮かべたリドルの口角がつり上がる………
「時間もない事ですし本音で話す方がお互いの為ですね………
単刀直入に伺いますがルティア王女殿下の想い人はイアン殿ですね?
そして貴方もルティア王女殿下を愛してらっしゃる………
間違いありませんね?」
笑顔を消したリドルに問われる………
「えぇ…そうです………
ルティア王女殿下と私は生涯を誓いあった仲です。もちろんリザンヌ王国の思惑は別でしょうが………」
「やはりそうでしたか………
ルティア王女殿下から協力を申し出られた時からそうではないかと思っておりましたが………
ルティア王女殿下の話では、リザンヌ王国側の意向はベイカー公爵家へ嫁ぐことだと伺いましたが、その通りですか?」
「あぁ………口惜しいですがね………」
「しかしルティア王女とイアン殿はそれを覆そうとしている………
間違いありませんか?」
「えぇ……ルティア王女殿下がどうルカ王太子殿下を説得するかはわかりませんが、私はルカ王太子殿下を納得させるだけのカードは持っていますよ。内容を話すことは出来ませんが………」
「わかりました。貴方と共闘関係を築く上で此方の事情も話しておく必要がありますね………
私にはどうしても手に入れたい女性がいます。その女性と将来は結婚するつもりですので、もちろんルティア王女殿下の婚約者候補を早々に辞退したいと思っています。しかし、イアン殿の話ではリザンヌ王国の思惑もあり、ルティア王女殿下はレッシュ公爵家へ嫁ぐと言えない立場にあると………」
「えぇ………その通りです。今回のルティア王女の婚約に関して全ての決定権はルティア王女殿下(リザンヌ王国)にある………
婚約者候補のベイカー公爵家もレッシュ公爵家も、こちらから辞退することは許されていない。そのためリドル殿は辞退する事が出来ず困っているところにルティア王女殿下から今回の共闘を提案されたと言う訳ですね。」
目の前の男が不適に笑う………
「………困ったことがありましてね………
私の手に入れたい女性は、ルカ王太子が手に入れたい女性でもあるんですよ………」
「リドル殿の想い人がルカ王太子の手に入れたい女性………?」
………どういう事だ?
これでは、ルカ王太子がその女性を手に入れたいが為に邪魔者のリドルを蹴落とすため、ルティとの婚約話を推し進めているみたいではないか!
「ルティア王女殿下も一緒にお耳に入れておくべき情報です………
ベイカー公爵家控え室にて話しましょう。」
僕はリドルの後に続きルティがいるベイカー公爵家控え室へ入った。
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