売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

文字の大きさ
上 下
70 / 92
第6章 鎖を断ち切るために【ルティア&イアン編】

7

しおりを挟む

~イアン視点~

舞踏会場の壁際でルティとリドルの動向を見守っていた僕は、ルカ王太子に挨拶をしているルティの顔色がみるみる変化していくのがわかった。

いつもは淡く色づいている頬も今は血色なく真っ白になっている。
僅かな変化で周りの者はルカ王太子に注目しているため誰も気づいていない………

今にも倒れそうなルティをリドルが支え会場を後にした。

………ベイカー公爵家の控え室へ行くのか?

僕は二人を追うべく会場を後にした………




………ルティ…泣いているの?

すぐにルティとリドルの後を追った僕だったが途中で友人に捕まった。
滅多に夜会に参加しない僕を見つけ声を掛けたらしいが、タイミングが悪過ぎる。声をかけてきた友人を殴りたくなった。

いつになく剣呑な雰囲気の僕に友人は早々に退散したが………
そのせいでベイカー公爵家控え室に着くのが遅くなってしまった。

廊下には人影はなく静まり返っている………

ベイカー公爵家控え室の扉から聞こえる微かな女性の泣く声………

………ルティが泣いている………
まさかリドルが慰めているのか………?

他家の控え室に勝手に入る事も出来ず、ただ扉の前に佇むことしか出来ない自分に腹が立つ。

………ルティが泣いているのに慰める事も出来ないなんて………

血が滲む程、唇を噛み締めていると………

遠くから此方に向かい廊下を歩いてくる男に気づいた。

………リドルか………

泣いているルティを慰めているのがリドルではなかった事実にホッとする………

一度きちんと話しておく必要があるな………

僕はゆっくりとリドルへ向かって歩き始めた。





「これはこれは、レッシュ公爵家のイアン殿ではありませんか。こんな寂しいところでどうされたのですか?」

此方に気づいたリドルが話し掛けてくる………

「きちんとお話するのは初めてですね。
レッシュ公爵家のイアンと申します。先ほどベイカー公爵家の控え室へルティア王女殿下が入って行かれるのを見まして、同じ婚約者候補として気になりましてね………」

「………左様でございますか………
挨拶が遅くなり失礼致しました。
ご存知かと思いますが、ベイカー公爵家のリドルと申します。
………先日は当家の領地へお越し頂きありがとうございます。
おかげで此方の首尾も上々です………」

やはりベイカー公爵領地への招待は、ルティアの相手を知る目的もあったか………

「こちらこそベイカー公爵領地で楽しい時を過ごさせて頂き感謝しております。
………と…まぁ…決まり文句はここら辺にして、そろそろ本音で話しませんか?」

目の前の笑顔を浮かべたリドルの口角がつり上がる………

「時間もない事ですし本音で話す方がお互いの為ですね………
単刀直入に伺いますがルティア王女殿下の想い人はイアン殿ですね?
そして貴方もルティア王女殿下を愛してらっしゃる………
間違いありませんね?」

笑顔を消したリドルに問われる………

「えぇ…そうです………
ルティア王女殿下と私は生涯を誓いあった仲です。もちろんリザンヌ王国の思惑は別でしょうが………」

「やはりそうでしたか………
ルティア王女殿下から協力を申し出られた時からそうではないかと思っておりましたが………
ルティア王女殿下の話では、リザンヌ王国側の意向はベイカー公爵家へ嫁ぐことだと伺いましたが、その通りですか?」

「あぁ………口惜しいですがね………」

「しかしルティア王女とイアン殿はそれを覆そうとしている………
間違いありませんか?」

「えぇ……ルティア王女殿下がどうルカ王太子殿下を説得するかはわかりませんが、私はルカ王太子殿下を納得させるだけのカードは持っていますよ。内容を話すことは出来ませんが………」

「わかりました。貴方と共闘関係を築く上で此方の事情も話しておく必要がありますね………
私にはどうしても手に入れたい女性がいます。その女性と将来は結婚するつもりですので、もちろんルティア王女殿下の婚約者候補を早々に辞退したいと思っています。しかし、イアン殿の話ではリザンヌ王国の思惑もあり、ルティア王女殿下はレッシュ公爵家へ嫁ぐと言えない立場にあると………」

「えぇ………その通りです。今回のルティア王女の婚約に関して全ての決定権はルティア王女殿下(リザンヌ王国)にある………
婚約者候補のベイカー公爵家もレッシュ公爵家も、こちらから辞退することは許されていない。そのためリドル殿は辞退する事が出来ず困っているところにルティア王女殿下から今回の共闘を提案されたと言う訳ですね。」

目の前の男が不適に笑う………

「………困ったことがありましてね………
私の手に入れたい女性は、ルカ王太子が手に入れたい女性でもあるんですよ………」

「リドル殿の想い人がルカ王太子の手に入れたい女性………?」

………どういう事だ?
これでは、ルカ王太子がその女性を手に入れたいが為に邪魔者のリドルを蹴落とすため、ルティとの婚約話を推し進めているみたいではないか!

「ルティア王女殿下も一緒にお耳に入れておくべき情報です………
ベイカー公爵家控え室にて話しましょう。」

僕はリドルの後に続きルティがいるベイカー公爵家控え室へ入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

処理中です...