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第6章 鎖を断ち切るために【ルティア&イアン編】
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しおりを挟むベイカー公爵家別邸での日々は穏やかに過ぎていた………
別邸の為か、仕えている使用人も最小限でこちらからアクションを起こさなければ過度に干渉されることもない。
イアンと客間で話していれば、さりげなくお茶とお菓子を用意してくれたり、食事の席では完璧に給仕をし、ストレスなく食事を堪能出来る。その食事も毎回趣向をこらしたもので、目にも舌にも楽しめるものだった。
外出を希望すれば、護衛はつくものの適度な距離を保ちイアンとのふたりの時間を邪魔することはない。
王都での張り詰めた緊張感から解放され、イアンと二人ベイカー公爵領地での生活を楽しんでいた。
昨晩イアンとの夕食の席で給仕をしていた執事のセバスチャンから遠乗りへ行ってみたらどうかとの提案を受けた。
王都では遠乗りをする機会もなく、リザンヌ王国でも馬に直接乗った経験は全くない。それどころか馬車で何処かへ行く経験すらしたことなかった。
馬に乗る経験なんて滅多に出来るものではない。私はふたつ返事で、今日の遠乗りに行くことを了承していた。
朝からメイドに乗馬服を着せてもらう。初めて着るジャケットにトラウザーズを併せた男性のような格好に戸惑うが、いつもの自分ではないようで、それすら嬉しく感じてしまう。
「ルティア王女殿下、とてもお似合いですわ。」
「………変じゃないかしら?」
「いえいえ、とても素敵な装いですわ。可愛らしさの中に知的な雰囲気も合わさって本当に素敵です。」
メイドの過剰な褒め言葉に恥ずかしくなるが、そのままイアンの待つエントランスへ連れて行かれる事となった。
「ルティ…乗馬服もとっても似合っていますよ。いつもの可愛らしいドレス姿も可愛いですが、ジャケットにトラウザーズの格好も新鮮ですね。なんだか可愛い弟が出来たみたいだ。」
イアンは私の頭を軽くなでる………
なんだか子供扱いされてるようで、むくれてしまう。
「………イアン!わたくしの事、子供扱いしましたわね‼︎わたくし貴方の妹でも弟でもありませんわ!」
「ごめんごめん………可愛くてついね。
ルティは僕の愛する人だよ………」
エントランスに集まる使用人の前での軽い惚気に私の顔が真っ赤に染まったのはいうまでもない。
「………イアン!冗談言ってないで行きますわよ‼︎」
恥ずかしさを隠すため怒ったふりをする私は苦笑をもらすイアンの腕を掴み歩き出した。
「あのぉ………馬って………
わたくし乗れそうにないわ………」
厩に繋がれた馬の大きさを見た私は怖気付いていた………
………馬ってあんなに大きいの………
全く乗れる気がしないんだけど………
思わず後退った私は背後から近づいていたイアンに肩をつかまれる。
「ルティ…逃げようったってそうはいかないよ!何事も経験してみなきゃね!」
私はイアンに手を引かれ今日乗る予定の馬に近づく………
真っ白な毛に鼻筋だけ茶色の毛が混じる馬はつぶらな瞳と相まってとっても愛嬌があり可愛らしい。
イアンに促され馬の立髪を優しく撫でてあげると鼻を鳴らして首を下げてくれる。
「こちらの馬は当家のエリザベスお嬢様の馬でして、とても大人しく扱いやすい馬ですので初心者のルティア王女殿下でも安心して乗れるかと思います。」
執事のセバスチャンの説明を受け、イアンが真っ白の毛の馬に跨り、私に手を差し出す。
私はセバスチャンの手も借りどうにかイアンの前に座ることが出来た。
馬上の人になった私は、その高さに身が竦む………
身を固くした私を安心させるようにイアンの腰を抱く力が強まった。
すっぽり包まれている感覚にようやく力を少し抜く事が出来た。
護衛を先頭にゆっくりと進みだす………
「イアン………片手で大丈夫なの?」
私を安心させるため片手で私の腰を抱き、もう片手で手綱を操るイアンに問い掛ける。
「えっ⁈………あぁ~片手で馬くらい操れないと男としてダメでしょ。」
なんでもないことの様に話すイアンに胸がときめいてしまう。
………何だか…イアン格好いいわぁ………
始めは慣れない私に併せゆっくり進んでいたが、徐々に馬の駆けるスピードが早くなる。
木漏れ日が差し込む林の中は爽やかな風が吹き抜け、馬で駆ける疾走感もありとても気持ちいい。
徐々に緊張感も和らぎ、初めての感覚に高揚感が増していく………
「………ルティ…楽しいですか?」
「えぇ!…ちょっぴり怖いけど楽しいわ………」
「今度はレッシュ公爵家の領地へ一緒に行きましょう。レッシュ公爵家の領地だったら本当にふたりだけで遠乗りに行ける。馬の乗り方も教えてあげられる………
まだまだ楽しい経験をさせてあげる。」
一緒に馬に乗りながら紡がれる言葉に私の心がワクワクしてくる。
………イアンと一緒なら些細なこともきっと楽しい………
私はイアンとの明るい未来に思いを馳せ林を走り抜ける爽快感を感じていた。
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