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第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】
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しおりを挟む………翌日………
寝不足と二日間の予想外の出来事とリドル様との行為で限界を迎えていたのか、私は高熱を出し寝込んでしまった。
「………ミリア…水だよ………」
朝から甲斐甲斐しく私の世話を焼いているリドル様に口移しで水を飲ませてもらう。
………美味しい………
冷たい水がゆっくりと流れ込み、火照った体をわずかばかりか冷やしてくれる。
頭にモヤがかかり何も考えられない………
ずっと握られている手の感触だけが私の意識を繋ぎとめてくれていた。
不意に私の手を離そうとしたリドル様に不安を覚えすがりつく………
「………イヤぁ………ここにいて………
ひとりにしないで………」
「………ミリア………
大丈夫だよ。ずっと側にいるから………」
私は手を握っていてもらうだけだと不安でうわ言のようにイヤイヤと繰り返す………
「………リドル様…わたくしを………
抱きしめて………不安なの………」
ぼやける視界の中、見上げた先のリドル様の顔を触ろうと手を伸ばす………
その手をそっと握られ、リドル様がベットへ入り私を抱きしめてくれる。
リドル様の匂いに包まれ、伝わってくる温もりに泣きたくなる………
「リドル様…ずっとそばにいて………」
あやすように背中を優しく撫でられ………
安心した私はやっと眠りにつくことが出来た………
………ここどこかしら?
深い眠りから覚めた私は周りの状況をみて困惑していた。
フカフカのベットに寝かされ、寝室と思しき部屋は品の良いクリーム色の壁紙に淡いグリーン生地に花柄の刺繍がほどこされた可愛らしいデザインのカーテンがかけられている。
カーテンが閉められているので外の様子はわからないが、明らかに女性が使う部屋だとわかる。
………本当にここ何処かしら………?
私は外が気になりカーテンを開けようと起き上がり足を踏み出そうとして、その場に座り込んでしまった。
………全く足に力が入らないわ………
『ガチャ』
誰かが部屋の扉を開けた音に振り返ると………
「………リドル様………………」
お皿とコップが置かれたお盆を持ったリドル様が入ってくるところだった。
足に力が入らず座り込む私を見つけたリドル様が慌てて駆け寄ってくる。
「ミリア!まだ起き上がるのは無理だ!
3日間熱でうなされてたんだから………
無理をさせてすまなかった。」
私はリドル様に抱き上げられベットに戻される。
………確かに3日も眠りっぱなしだったら足に力が入らないのは仕方ないわねぇ…
なんだか夢と現実を行ったり来たりしていたような………
「………リドル様…ここは何処ですか?
森の中の家ではないですよね………」
「ここは…王都にある俺のタウンハウスだ。あのまま森の中の家で過ごすのはミリアの熱が下がらない現状で危なかったから侍医の指示で急ぎ王都に戻ってきた。」
………ここは王都なのね………
「3日間ずっと寝たままだったから直ぐに元の状態に戻るのは難しい。侍医からもしばらくはゆっくり休むように言われている。」
「………しかし…こちらでお世話になるのは皆さんにご迷惑ですわ………」
リドル様のタウンハウスなのだから、ここで働く使用人もベイカー公爵家ほど多くないはず………
見知らぬ女の世話をしなきゃだなんて………
そんな迷惑かけられないわ。
「歩けるようになりましたら直ぐにウィッチ男爵家へ戻りますので、その間だけお世話になります。」
私の話を聞いたリドル様の顔つきが変わる………
「………ねぇ…ミリア………
あの山小屋で言ったことは嘘だったの?
俺を愛していると………
ミリアの全てを俺に捧げると………」
リドル様が私を押し倒し胸元のボタンを僅かに開ける………
「………ココ…まだ所有の印が残ってる………
もう一度…思い出せるようにつけ直してあげようか………」
黒い笑顔でにじり寄るリドル様に背中を冷や汗が伝う………
「………う…嘘ではありませんわ………
わたくしの全てはリドル様のものです………」
「ちゃんと覚えていたならいいんだ。
この家の使用人には俺の愛する女性と伝えてある。
………次期公爵夫人になる令嬢だとね………
気兼ねなく過ごせばいいよ。あとでミリア付きの侍女を紹介するよ。
ここから逃すつもりはないからね………」
至近距離で見つめられ、私の心臓が囚われる恐怖と愛されている幸福感で爆発しそうだった。
………ちゅ………
軽いキスを落とされ抱きしめられる………
「でもまずはしっかり食事を取らなきゃね。
………ほら…あ~んして………」
テーブルに置いてあったスープ皿をとり、リゾットをすくったスプーンが目の前に差し出される。
「………あのぉ………自分で食べれますから………」
「ダメだよ!今日一日は俺が付きっきりで看病するって決めたんだ。
………ほら…抵抗せず口あける‼︎」
リドルに甲斐甲斐しくお世話され、恥ずかしさで顔を赤らめたミリアと嬉しそうにミリアを見つめるリドルのやり取りは、夜ミリア付きの侍女エマが入ってくるまで続いた。
「はいはいリドル様!ミリア様と一緒にいたいのはわかりますが、病み上がりのミリア様を疲れさせてどうするんですか‼︎さっさと部屋から出て行きなさい!」
恰幅のいい侍女のエマさんがリドル様を追い出す。
お母様と同じ年くらいかしら………
「今日よりミリア様付き侍女となりましたエマでございます。このタウンハウスでは侍女頭としても仕えております。
こちらの屋敷では少数精鋭の使用人しかおりませんので緊張せず、ゆっくり過ごしてくださいませ。」
朗らかな笑顔で接してくださるエマさんに慣れない環境に置かれた私の心が軽くなる………
「見ず知らずの女の世話をさせてしまい申し訳ありません。短い間かと思いますがよろしくお願い致します。」
私はベットの上から深々と頭を下げる。
「………ミリア様………
貴方様は将来リドル様の奥様になる方と伺っております。
リドル様のあの様子ですと…ここからミリア様を逃すつもりは全くないでしょう。わたくし達使用人も次期公爵夫人として接したいと考えております。」
私の手を握り満面の笑顔で私に詰め寄るエマさんに顔がひきつる………
「………ミリア様…ベイカー公爵家での貴方様のお噂…使用人仲間の間では有名なんですよぉ~
このタウンハウスの使用人の中にもスーパー侍女だった貴方様のファンは沢山おります。
………わたくしもその内のひとりです………
使用人一同、ミリア様を逃すつもりはございませんので………未来の公爵夫人様❤︎」
侍女頭エマさんの思わぬ暴露に衝撃を受けた私は、その夜再度熱を出し寝込むことになった。
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