売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】

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翌朝早くに起き出した私は寝不足でハッキリしない頭をスッキリさせるため、冷たいシャワーを浴びていた。

………リドル様とベットを共にしてしまった………
その事実が心の奥深いところを揺さぶる………
このままでは本当にリドル様の言う通り結婚を承諾してしまいそうだわ………

私は冷たい水を浴びて、リドル様に流されそうになる気持ちを鎮めようとした。



すっきりした頭で朝食の準備に取り掛かり、料理が出来上がる頃合いにリドル様が階下へ降りてくる。

「………ミリアおはよう。とってもいい匂いだね………
朝食は何かなぁ?」

ふたり分の料理を小皿に取り分けていた私の背後に近づいていたリドル様に抱きしめられ、またまた手元を覗き込まれる。

「………リドル様…溢してしまいます!
今すぐに離れなさい‼︎」

「大丈夫だよ………
愛するミリアに朝の挨拶をしているだけでしょ。」

右手にお玉…左手にスープ皿を持った私が抵抗出来ないのをいい事に、あろうことか頬にキスされる。

「………!!」

あまりの出来事にスープ皿を落っことしてしまった………

スープ皿の割れる音に我に返った私は、振り向きざまにリドル様の頬を思い切り引っ叩いていた。

「朝っぱらから何してんですか‼︎
朝食抜きにしますよ‼︎‼︎」

顔を真っ赤にして怒る私に流石に反省したのかリドル様が謝りたおす………
顔に私の手形をつけ情けない姿で謝るリドル様に、またしても絆されてしまい、ついつい許してしまった。

私の作った料理を美味しそうに食べてくれるリドル様を見ていると幸せな気持ちで満たされていく。

………ずっとここでふたりだけで暮らせたらどんなに幸せだろう………



朝食を食べ終え、食後のお茶を入れているとリドル様が突然言い出した。

「俺がミリアを抱きしめるのは、ひとつの愛情表現だからやめるつもりはないからな!」

………朝のキッチンでの事を言っているのね!謝りはしたけど納得はしていないと言うことかしら………

「………リドル様………
私達は未婚の男女です!節度を保ったお付き合いをするべきです!」

「どうせ直ぐに俺の婚約者になるんだからいいじゃないか!」

「私は貴方の婚約者になる事を承諾した覚えはありません。」

「………ミリアお願いだから………
俺と結婚する未来を真剣に考えてくれないか………
ミリアが身分差にこだわっているのはわかっている。しかし…身分の差はそんなに重要な事なのか………?」

リドル様は私の手を握り真剣に訴えかけてくる………

身分の差を乗り越え結婚した両親の存在が私の頭をかすめる………

「………身分の差は………軋轢を生みますわ………」

私は弱々しく答えることしか出来ない………

「………ミリア…今はいいよ………
時間はまだある………ゆっくり俺との未来を考えてくれ………」

ゆっくりと立ち上がり扉を開け外へ出て行くリドル様を見送る………

私にリドル様との未来をつかみ取るだけの勇気はないわ………

静かな室内に私の重いため息がこだました。




『バタン………キュキュ…バタン………』

………数刻後………

気持ちを切り替えた私は明日にはなくなるであろうパンの在庫をみて、今日中にパンを焼くためパン生地を大きなまな板の上に叩きつけていた。

………なかなかストレス発散になるのよねぇ~
リドル様とのことをウジウジ考えるのも性に合わないし、このモヤモヤする気持ちをパンにぶつけると何だかスッキリしてくるわぁ………

パンも作れるし、ストレスも発散出来て一石二鳥だわぁ………

私は朝のどんより感が嘘のようにご機嫌でパン作りに没頭していた。

『バタン…キュ………バタン………』

「…また随分と大きな音が聞こえると思ったら………ミリアは何をしてるの?」

私が振り返るとテーブルに沢山の木の実や果物が入った籠を置くリドル様と目が合う。

今朝の今で気まずいが気にしてても仕方ないし………

「明日からのパンがなくなりそうなのでパンを焼こうと思って………」

「………ミリアはパンまで焼けるの⁇」

「ひと通りの家事は出来ますから………
それよりも、その籠の中の木の実に果物はリドル様が取ってきてくださったのですか?」

「………あぁ…ここの森は狩りでよく来ていたから土地勘があるんだ。新鮮な食材は貴重だからな。ミリアの料理に使えるだろうか?」

「もちろんです!木の実は今作っているパンに混ぜましょう。………確かドライフルーツがあったはず。一緒に入れたらより美味しくなるわ!」

私は籠の中を見ながらどんな料理に使えるか思案する………

「………ミリア…何か手伝える事はないだろうか………?」

「………じゃあ…一緒にパンを作りましょう。」


発酵させたパン生地を二つに分け、ひとつはドライフルーツと木の実を混ぜ型に入れた。

もうひとつは丸パンにするため、適度な大きさに切り成形していく。

「こんな感じでいいのか?」

隣に立ったリドル様が私の手元を見ながら見様見真似でパン生地を丸めている。

真剣になり過ぎて、顔に小麦粉がついていることにも気づいてないわ………

「………ふふ…リドル様、顔真っ白よ………」

「えっ⁇そうなのか………
手が離せないからミリア拭ってくれないか?」

「………私だって…手が真っ白ですわ!
無理ですよぉ~何だか可愛らしいからそのままがよろしくてよ。」

「ミリア…恥ずかしいから拭ってくれよ!」

困り顔のリドル様を見て思わず笑ってしまう。

「………笑ったな!………ミリアもこうしてやる‼︎」

丸くしていたパン生地をまな板に放り投げたリドル様は、空いた手に小麦粉をつけ私の顔に塗る………

「…やぁ‼︎…リドル様、何するのよ‼︎‼︎」

私達はパン作りそっちのけで、お互いに粉まみれになりながら戯れる………

全身粉まみれになりながら子供の頃のように言い合い笑い合う………

身分差なんて関係なかった子供の時みたいにふざけ合い、近い距離で戯れる………

私の心の枷も外れていく………

ハメを外して戯れていた私は、何かに躓き転びそうになる………

眼前に迫る床に目を瞑った時、力強く腕を引かれ目を開けると床に仰向けに倒れたリドル様の上に抱き留められていた。

粉まみれで滑稽なリドル様の顔は子供みたいで私の心が揺さぶられる………

私はリドル様の顔を両手で包み言葉を紡ぐ………

「………本当…子供みたい………
わたくしの愛しい人………………」

飛び散った粉が窓から差し込む陽の光に照らされキラキラと舞い散る………

静けさを取り戻した部屋に優しいキスの音色が響いた。



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