売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】

閑話 ベイカー公爵の親心

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数日前に執事のアーサーからミリアがベイカー公爵家を辞め、ウィッチ男爵家へ戻った事を聞かされた私は、執務室にて物想いに耽っていた。

………リドルは何をやっているんだ………

アーサーにはやり過ぎだと言われたが………

しかし、少し考えればわかるだろうに………

現在の四大公爵家の力バランスはとても悪い。シュバイン公爵家のハインツ殿とエリザベスが結婚したからだ。
未だにハインツ殿が陛下をどう脅してエリザベスとの結婚を承諾させたかは不明だが、やり手のハインツ殿の事だから王家の秘密でも握っていたのだろう。

シュバイン公爵家とベイカー公爵家が姻戚関係となり、王家まで潰しかねない権力を手に入れた今、さらなる権力の集中を恐れる陛下は、リドルとルティア王女の結婚を許しはしないだろう。

そんなこともわからない程、リドルは馬鹿なのか?

………いや…恋は人を盲目にさせるのか………

しかしミリアがベイカー公爵家を去ってしまったのは誤算だった。

このままリドルが動かない様であれば、こちらから然るべき名家との婚姻を打診せねばならないなぁ………

ミリアには、沢山の恩がある………
それだけでなく、あれだけ優秀な侍女は早々いない。
本人は全く自身の価値に気づいていないが………

まだミリアがエリザベス付きの侍女をしていた時も、我が家を訪れる貴族家の奥方に気に入られ、息子の嫁にと打診されたのも数えきれない。
全ての申し出を断ったのもリドルと結婚して貰いたかったからだ。

リドルへの婚約話を断っていたのも、ミリアに対するリドルの気持ちを知り、二人を結婚させたかったからだ。

さて…この先、あの二人はどの道を進むのだろうか………

執事のアーサーの話だと、最近までミリアに接触していた男がいたようだ。

ルカ・リックベン………
リックベン商会の商会長をしている男か………

また大物にミリアは好かれたものだ………

ルカ・リックベンは平民のフリをして商会長をしているが、その実態ははっきりしない。我が国で急激に成長した商会ではあるが、リックベン商会自体は、ルカ・リックベンの隠れ蓑に過ぎない。

ミリアは、ルカ・リックベンが隣国の王太子殿下である事を知っているのか?

………いや…たぶん知らんだろうなぁ~
ミリアの性格だと、もし知っていたらあんなに親しくしないだろうな………

ベイカー公爵家使用人エントランスの門番に自身の部下をねじ込んでくる辺り、ミリアへの執着がうかがえるしなぁ………

当初ルカ王太子殿下が、リドルとルティア王女の婚約を強く希望していたのも、ミリアを手に入れやすくする目的もあったのだろう。

………あの策士を相手にするには、リドルには気が重いかもしれん………
しかし、好いた女は自分で勝ちとってこそ、次期ベイカー公爵として認めてやれる………
そうでなければ、魑魅魍魎はびこる貴族社会を制することは出来まい………



『トントン』

「父上…失礼致します。お話がありますが今よろしいでしょうか?」

「………大丈夫だ………何用だ?」

「以前、ルティア王女の婚約者候補に決まった際、何が何でもルティア王女の婚約者になれと仰いましたね………
………お断り致します………
私には心に決めた女性がおります。今後もその女性としか結婚するつもりはありません。」

「次期ベイカー公爵として愛だの恋だのだけで結婚出来る訳ないだろう!
前も言っただろう………
ルティア王女との婚約が今後の四大公爵家の力関係に影響すると‼︎」

「果たして本当にそうでしょうか………?
ルティア王女には心に決めた方がいるようですよ。その方に嫁ぐ事を決心したようですが、リザンヌ王国の思惑で公言出来ないみたいです。ルティア王女はリザンヌ王国とは、我が国へ嫁げば縁を切りたいと思っているでしょうね。
何しろ幼少期から虐げられ、大人になっても国に利用される立場でしかない。
恨んでいてもおかしくないですよ。
ルティア王女がベイカー公爵家に嫁いだとしてもリザンヌ王国側とこちら側の橋渡しはしないでしょうね。もうリザンヌ王国の王女ではなくなる上、ルティア王女の気持ちを無視した結婚を強要したのですから………」

「ルティア王女の心に決めた方とは、レッシュ公爵家のイアン殿なのか?」

「今の段階では教えられませんが、ルティア王女から、その方と結婚出来るよう協力して欲しいと言われています。
………私との結婚を強要するより、今恩を売っておいた方が追々ベイカー公爵家に有益かと思います。」

………まさかルティア王女と密談を交わしていたとは………

リドルもなかなかやるではないか………

「それに…ルティア王女と私の婚約を陛下が許す訳がない………
四大公爵家の力関係があまりにも違い過ぎる………
父上もそんな事、承知ではないのですか………?」

………気づいておったか………

「ルティア王女との婚約話は、お前の好きにすればいい………
………そんな事より、ミリアがベイカー公爵家を去ったのは知っているな?」

「………えぇ………知っています………」

「お前は、ミリアをどうするつもりなのだ?」

「ご心配なく………
諦めるつもりは毛頭ありませんから。
必ず連れ戻しますよ………」

「………ならいい………お前の好きにしろ」

………リドルがやっと本気になったようだ。

今後の展開を楽しみに、私に背を向け立ち去るリドルを見送った。

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