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第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】

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今朝も朝早く起きた私は鼻歌混じりに庭へと向かう………
今日のお花はどんなのにしようかしら~♪


勝手に始めたリドル様の殺風景なお部屋に毎朝花を飾る日課は、私に良い影響を与え始めていた。

始めは…リドル様への想いを忘れられず未練タラタラだわ………と思いへこんでいたが、毎日どんなお花を飾ろうか考え実際に朝早くリドル様のお部屋へ行き、花が生けられた花瓶を置いてくる…
リドル様のために何かしてあげられていると思うと心がそれだけで満たされていく感覚は私を癒してくれている。

………リドル様はきっと、ご自身の部屋に花が飾られている事すら気づいてないでしょうけどね………



庭に出た私は、陽の光に照らされた庭の草花を見て清々しい気持ちで満たされる。

いつものようにホースを蛇口に繋ぎ、庭の草花にむかって、勢いよく水をかけ始めた。

………キラキラと輝く水のシャワーを見ているだけでも気持ちいい………

そしていつものように花壇に咲く花に水をあげようとホースを持ったまま振り向いた………

「うわぁ‼︎」

「………えっ‼︎リドル様!」

私の背後にはずぶ濡れになったリドル様が立っていた………

………何故ここにリドル様がいらっしゃるの‼︎‼︎

「申し訳ありません!気づかずに誤って水をかけてしまいました!
直ぐにお召し物の替えをお持ちします。
………あっ!それよりも湯浴みをされた方がよろしいですね………
今から準備致します………」

リドル様の突然の登場と水をかけてしまった罪悪感で私は取り乱してしまう。

「…ミリア………大丈夫だから落ち着け!
私は自室に戻るからタオルと着替えだけ用意を頼む。」

リドル様は私に背を向け歩き出す………

私はその背を見つめ…数分後我に返った。

急ぎ足でタオルを取りに行き、クローゼットから着替えをつかむと、リドル様の私室へ向かった。


『トントン』

「失礼致します。タオルと着替えをお持ち致しました。」

私はずぶ濡れのまま窓際に佇むリドル様に近づき、タオルと着替えを差し出す。

「………えっ!」

気づいたらリドル様に手を引かれ抱きしめられていた………

突然の事に動揺した私は力一杯身動ぎ逃げようとする。

「ミリア…頼むから逃げないでくれ………」

リドル様の切実な声に抵抗する力が抜ける………


「………やっとだ………やっと抱きしめる事が出来た………」

「………えっ!」

………どういう事なの…?リドル様にはルティア王女という婚約者がいるじゃない………

高鳴り出した心が急激に冷えていき冷静になってくる。

「リドル様、そろそろ離してくださいませ!」

「嫌だ………今離したらミリアは逃げてしまう………」

リドル様は離しまいと私を抱きしめる腕に力をこめる。
………イヤイヤをする子供みたいだわ………
私のお節介な心が疼きだす………

「リドル様…どうなさいました?
いつもの貴方らしく有りませんよ。
優雅で、優秀で誰に対しても卒なく対応し、たくさんの令嬢の憧れの的である貴方は何処へ行ってしまったの?」

「………そんなのは本当の俺じゃない………
本当の俺は、好きな相手も振り向かせる事が出来ないダメな奴なんだ………」

………好きな相手………

私の心がズキリと痛む………
きっとルティア王女と何かあったのね………

「大丈夫ですよ…リドル様………
貴方はこんなに素敵な貴公子ではありませんか。どんな女性でも振り向かせることが出来ます………
リドル様が本気になって好きにならない女性なんていませんから………」

「………ミリアも俺の事を好きになってくれるのか?」

「………えっ!」

抱きしめられていた体を離され、怖いくらい真剣な瞳で見つめられる。

前髪から雫が滴り、リドル様の顔を濡らす………
………泣いてるみたい………

無意識にゆっくり手を伸ばし、リドル様の顔を伝う雫を拭っていた。

時が止まったような瞬間に目が離せない………

リドル様の顔を包む私の手をリドル様が掴み引き寄せる………

………ちゅっ………くちゅ………

気づいた時には深いキスを落とされていた。


………早くやめなければいけないのに………


この時間が永遠に続けばと願う私はリドル様の深い口づけに身を委ねてしまった。
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