売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】

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リドル様の専属侍女を辞してから数週間が経とうとしていた。
不思議なもので、あんなに苦しかった毎日はリドル様と接しないだけで、穏やかな日々に変わった。

執事のアーサーから言われた次の仕事は、新人侍女の教育係だった。

昔から世話好きだった私には転職だと思えるほどの仕事だった。

公爵家では、行儀見習いを兼ねて子爵家や男爵家の令嬢を一時的に預かる事がある。

今の私の仕事は、最近預かったばかりの新人侍女ふたりの教育だ。

子爵家と男爵家のふたりの新人侍女の教育は多岐にわたる。
侍女としての仕事から、行儀作法、お茶の入れ方やお茶会での給仕の仕方までと、今後貴族社会を生き抜く上で恥をかかないように教え込まねばならない。

幸い教育しているふたりの令嬢は素直な娘達で、私が男爵家出身でも反抗したりすることもない。
その上、何故か私に懐いたふたりは、『ミリアお姉様』と呼び、とても慕ってくれていた。




「ミリアお姉様!次は何をすればよろしいでしょうか?」

「そうね~では…花瓶に上手にお花を生ける練習をしましょうか。
では、これから庭師のところに行ってお花をわけてもらいましょう。」

私はふたりを連れて庭師のところに行き花瓶に生ける花を分けてもらった。

………そういえば…リドル様の部屋も殺風景で花でも飾ろうと思っていたのよね。
色々な事があり過ぎて、すっかり忘れていたわ………

………今でもお部屋は殺風景のままかしら………

リドル様との接点がなくなって、心穏やかに過ごせている………
しかし、ふとした瞬間にリドル様の事を考えてしまう………

心にぽっかり空いた穴はいつか埋まるのだろうか………

「ミリアお姉様…こんな感じでよろしいでしょうか?」

「………そうね………ピンクの花でまとめるのも素敵だけど、間に小さな白いお花を所々入れるのも良いわよ。
あとは、飾る場所の雰囲気に合わせるのも忘れないでね。男性のお部屋に可愛らしいお花を飾ると、身近な方にいらぬ疑いを持たれてしまうかもしれないからね。」

「………確かに………恋人の部屋に女性が好む可愛らしいお花が置いてあったら浮気を疑ってしまうわ………」

ふたりは大きく頷いている………

まだまだ子供だと思っていたけど案外恋人がいるのかもしれないわね。

「貴方達には恋人はいるの?」

思わず聞いてしまっていた………

「わたくしは、幼少期から決められた許婚がいますの………
隣の領地の伯爵様の息子で幼少期からの幼なじみなんです。行儀見習いが終われば結婚する予定です。」

子爵家の見習い侍女が、恥ずかしそうに言う………

「ミリアお姉様!この娘ったら、その婚約者とラブラブなんですよ!
しょっちゅう手紙とかプレゼントとか送られてくるんです。」

「何言ってるのよ‼︎貴方の方こそラブラブじゃないの………
貴方に会いに来る男の人いるの知ってるんだから。」

「アイツはただの友達よ。でも、大きな商会の息子だから結婚してやってもいいとは思ってるけど………」

男爵家の見習い侍女も顔を赤くして言い募る………

ふたりとも素敵な恋人がいるみたいね。

私が15歳くらいの時なんてエリザベス様のお世話が精一杯で誰かと恋仲になりたいとも思わなかったわ………

だからこんな年になっても独り身なのよね………

初恋を拗らせた私なんかより、このふたりの方が恋愛は大人なんでしょうね………


「ミリアお姉様は、銀髪の貴公子様と結婚されないのですか?」

「えっ?銀髪の貴公子?………結婚??」

「よくいらしてますよね。銀髪の貴公子様は、ミリアお姉様の恋人ではないのですか?使用人の方達も皆さん恋人だと仰ってますし、よく会いに来られているので………」

「………ルカは友達よ。恋人ではないわ………」

恋人ではない………
ルカからはアプローチをかけられているがどうしても恋人になることを了承出来ずにいた………

ルカの恋人になって、リドル様の事なんて忘れてしまえばいいのよね………

頭ではわかっているのよ………

私は、まだまだ聞きたそうなふたりに気づかない振りをして、花を生けるのに集中した。





翌朝………
リドルの部屋には、綺麗なお花が生けられた花瓶が窓ぎわに置かれていた………
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