45 / 92
第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】
2
しおりを挟むリドル様の専属侍女を辞してから数週間が経とうとしていた。
不思議なもので、あんなに苦しかった毎日はリドル様と接しないだけで、穏やかな日々に変わった。
執事のアーサーから言われた次の仕事は、新人侍女の教育係だった。
昔から世話好きだった私には転職だと思えるほどの仕事だった。
公爵家では、行儀見習いを兼ねて子爵家や男爵家の令嬢を一時的に預かる事がある。
今の私の仕事は、最近預かったばかりの新人侍女ふたりの教育だ。
子爵家と男爵家のふたりの新人侍女の教育は多岐にわたる。
侍女としての仕事から、行儀作法、お茶の入れ方やお茶会での給仕の仕方までと、今後貴族社会を生き抜く上で恥をかかないように教え込まねばならない。
幸い教育しているふたりの令嬢は素直な娘達で、私が男爵家出身でも反抗したりすることもない。
その上、何故か私に懐いたふたりは、『ミリアお姉様』と呼び、とても慕ってくれていた。
「ミリアお姉様!次は何をすればよろしいでしょうか?」
「そうね~では…花瓶に上手にお花を生ける練習をしましょうか。
では、これから庭師のところに行ってお花をわけてもらいましょう。」
私はふたりを連れて庭師のところに行き花瓶に生ける花を分けてもらった。
………そういえば…リドル様の部屋も殺風景で花でも飾ろうと思っていたのよね。
色々な事があり過ぎて、すっかり忘れていたわ………
………今でもお部屋は殺風景のままかしら………
リドル様との接点がなくなって、心穏やかに過ごせている………
しかし、ふとした瞬間にリドル様の事を考えてしまう………
心にぽっかり空いた穴はいつか埋まるのだろうか………
「ミリアお姉様…こんな感じでよろしいでしょうか?」
「………そうね………ピンクの花でまとめるのも素敵だけど、間に小さな白いお花を所々入れるのも良いわよ。
あとは、飾る場所の雰囲気に合わせるのも忘れないでね。男性のお部屋に可愛らしいお花を飾ると、身近な方にいらぬ疑いを持たれてしまうかもしれないからね。」
「………確かに………恋人の部屋に女性が好む可愛らしいお花が置いてあったら浮気を疑ってしまうわ………」
ふたりは大きく頷いている………
まだまだ子供だと思っていたけど案外恋人がいるのかもしれないわね。
「貴方達には恋人はいるの?」
思わず聞いてしまっていた………
「わたくしは、幼少期から決められた許婚がいますの………
隣の領地の伯爵様の息子で幼少期からの幼なじみなんです。行儀見習いが終われば結婚する予定です。」
子爵家の見習い侍女が、恥ずかしそうに言う………
「ミリアお姉様!この娘ったら、その婚約者とラブラブなんですよ!
しょっちゅう手紙とかプレゼントとか送られてくるんです。」
「何言ってるのよ‼︎貴方の方こそラブラブじゃないの………
貴方に会いに来る男の人いるの知ってるんだから。」
「アイツはただの友達よ。でも、大きな商会の息子だから結婚してやってもいいとは思ってるけど………」
男爵家の見習い侍女も顔を赤くして言い募る………
ふたりとも素敵な恋人がいるみたいね。
私が15歳くらいの時なんてエリザベス様のお世話が精一杯で誰かと恋仲になりたいとも思わなかったわ………
だからこんな年になっても独り身なのよね………
初恋を拗らせた私なんかより、このふたりの方が恋愛は大人なんでしょうね………
「ミリアお姉様は、銀髪の貴公子様と結婚されないのですか?」
「えっ?銀髪の貴公子?………結婚??」
「よくいらしてますよね。銀髪の貴公子様は、ミリアお姉様の恋人ではないのですか?使用人の方達も皆さん恋人だと仰ってますし、よく会いに来られているので………」
「………ルカは友達よ。恋人ではないわ………」
恋人ではない………
ルカからはアプローチをかけられているがどうしても恋人になることを了承出来ずにいた………
ルカの恋人になって、リドル様の事なんて忘れてしまえばいいのよね………
頭ではわかっているのよ………
私は、まだまだ聞きたそうなふたりに気づかない振りをして、花を生けるのに集中した。
翌朝………
リドルの部屋には、綺麗なお花が生けられた花瓶が窓ぎわに置かれていた………
1
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる