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第4章 思惑は交錯する【ルティア編】
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しおりを挟む………そして………
とうとう私が怖れていた日がやって来てしまった………
ルカ王太子との会談の日が………
当初レッシュ公爵家にて会談をする予定だったが、ルカ王太子殿下とレッシュ公爵家との調整がつかず、結局ルカ王太子サイドから指定された場所にて会談することが決まった。
私は朝から侍女のアンナと数名のメイドの手で支度が進められ、レッシュ公爵家の紋章が入った豪華な馬車に乗り指定された場所に向かっていた。
ゆっくりと馬車が停まり、御者が扉を開けてくれる。御者の手を借り、降り立った場所は………白亜のとても大きな屋敷だった。
………見たところ…貴族の屋敷よね………
ルカ王太子は、グルテンブルク王国の貴族家に滞在しているのかしら?
………普通は、王太子なんだから王城に滞在するわよね………私みたいな特別な事情がない限り………
じゃあ…会談のために借りてるだけかしら………?
私が色々と考え込んでいると、エントランスの扉からひとりの男性が現れる。
「ようこそお越しくださいました。ルティア王女殿下。
わたくしルカ王太子殿下の侍従をしておりますルドルフと申します。
別室にてルカ様がお待ちです。」
私はルドルフの後について邸宅内を進む………
………このお屋敷の主人は挨拶に来なかったわね………
私に協力者の貴族を知られたくないのか………
………まさか、この屋敷自体がルカ王太子のものなのか………?
「こちらで、ルカ王太子殿下がお待ちでございます。」
私は案内された部屋の中へ入る………
部屋はとても広く開放的な空間だった。
奥のガラス窓が大きく開かれたテラス席に銀髪の男が優雅に座りお茶を飲んでいる。
………あぁ………本当嫌味なほど様になってるわね………
母譲りのサラサラの銀髪にリザンヌ王家独特の紫色の瞳の美男子。
陛下譲りのウェーブがかかった焦げ茶色の髪に平凡な顔立ちの私と全く違う………
本当…同じ両親から生まれたとは思えないわね………
「ルカ王太子殿下…この度はお招き頂きありがとうございます。」
私は、ルカ王太子に近づきカーテシーをとりお決まりの挨拶をする。
「………ルティア…久しぶりだね………
今日はわざわざ来てもらってありがとう。」
私は、ルカ王太子に促され向かいの席に座る………
人払いされているのか室内にはルドルフ以外誰もいない。
お茶を入れてもらい妙に渇く喉を潤す。
「レッシュ公爵家での生活はどうだい?
少しはこちらの生活には慣れてきたのかな?」
………本当…胡散臭い笑顔だこと………
「えぇ………レッシュ公爵家の皆様には良くしてもらっておりますわ。
こちらでの生活も楽しく過ごさせて頂いております。」
ルカ王太子の表情が変わる………
「………っ‼︎」
笑顔が抜け落ち、鋭い視線に射抜かれる。
ルカ様の視線から目を逸らせない………
今逸らしてしまったら、喰われる………
本能的な恐怖心が私を襲う。
「………ルティア………
君はリザンヌ王国の王女であることを忘れてはいないか?
………ずいぶんとイアン殿と親しくしているようじゃないか………
あまりにもベイカー公爵家のリドル殿を蔑ろにしているように見えるが………
………王女ともあろう者が、よもや恋などしてはいないだろうなぁ~?」
………レッシュ公爵家へ滞在してからの私の行動が監視されていたかもしれない事実に、私の背中を冷や汗が伝う………
「まさか………
そんな馬鹿げた事ある訳ございません………
一国の王女たる者、その身は祖国のものであります。祖国の利のため動く事はあっても、自身の感情では決して動いてはならぬ………
当たり前の事ですわ………」
「………そうか………
それを聞いて安心した………
君は、祖国にとって最も利になる男の元へ嫁ぐ決意をしていると受け取ったよ。」
「えぇ…そのつもりでございます。」
私の心臓が早鐘を打つ………
「では…リザンヌ王国の方針を伝えようか………
ベイカー公爵家のリドル殿との婚約を進めよ。あちらの家の意向もあるだろう………
まずは、リドル殿の心を掴むよう行動するように。ベイカー公爵家から断られたら元も子もないからな。」
想像はしていたが………
リザンヌ王国の意向………
いいえ…ルカ王太子の手に入れたい家がベイカー公爵家であった事実に目の前が真っ暗になる………
「………了解致しました………」
「最後にお聞きしてもよろしいでしょうか?
なぜ、ベイカー公爵家をお選びになられたのですか?」
私は最後の力を振り絞りルカ王太子を見遣る………
「頭のいい君ならわかっていると思うが………
ベイカー公爵家とシュバイン公爵家が姻戚関係にある今、王家に匹敵する力を持つベイカー公爵家とリザンヌ王国が姻戚関係になる事は、我が国に大きな利となるという事だ。」
やはり…そうでしたか………
「わかりました。リザンヌ王国の為に行動致します………」
私の心が血を流しているかのようにジクジクと痛む………
私は何とかルカ王太子の前を辞去するまで平静を装うことが出来た………
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