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第4章 思惑は交錯する【ルティア編】

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「この手紙って………」

私は、侍女のアンナから受け取った手紙を見つめ少々困惑していた。

「ベイカー公爵家のリドル様からのお手紙ですが………どうされました?」

まぁ…一応リドル様も私の婚約者候補である訳で、手紙をもらうことは何らおかしい事ではないのだが………
あの歓迎の夜会のあと一度だけご機嫌伺いの手紙を貰っただけで音沙汰なかったのだが、今更どうしたのだろうか?
すっかり存在を忘れかけていた。

そして中身を見てさらに困惑する事となる。

………ベイカー公爵家にてお茶会ですか………
あまりにも唐突過ぎやしませんか………

たぶん、あまりにアクションを起こさないリドル様に焦れた誰かがお尻を叩いたのでしょうけど………

リドル様に全く興味がない私には面倒くさいとしか思えないお誘いだった。

………お断りは出来ないわよね………

「アンナ…ベイカー公爵家へ、お茶会へのお誘いを受ける旨お伝えしてちょうだい。」

「了解致しました。」

部屋を退室して行くアンナの背中を見送りながら大きなため息をついた………




………数日後………


 「本日は当家でのお茶会への誘いを快く受けていただきありがとうございます。」

私は侍女のアンナを連れベイカー公爵家へ来ていた。

「いいえ。わたくしも一度ベイカー公爵家へ訪問したいと考えておりましたの。
願いが叶い嬉しく思っておりますわ。」

「あちらの庭にお茶の席を準備しておりますのでどうぞ。」

私はリドル様にエスコートされお茶の席に着いた。
メイドにお茶を入れてもらいお茶会がスタートするが、リドル様と話していると何か違和感を感じる………

卒なく私の話に合わせて会話をしているが先ほどから目がほとんど合わないのだ。

リドル様の様子を伺っていると、時折りひとりのメイドを目で追い、小さくため息をついている。
私にお茶を入れてくれたメイドだ。


「………リドル様………大丈夫でございますか?何か気になることでも?
先ほどからため息ばかりですわ。」

「申し訳ありません。最近、王城での執務が忙しく、難しい案件にも関わっていまして………ついついため息を溢していました。ルティア様自らお越しくださっているのに失礼致しました。」


………誤魔化したわね………
これは…あのメイドと何かありそうね…


「………お疲れなんですね。あまり無理はなさらないでくださいませ。」


私に指摘されたからか、その後は私との会話に集中され、リザンヌ王国の話やグルテンブルク王国の市井や流行など楽しく会話する事が出来た。
………時折り、あのメイドを目で追ってはいたが………



当たり障りない会話を楽しんでいた私達だったが、急にリドル様が真剣な顔で本題を切り出してきた。

「今日お招きしたのは、ルティア様に確認したいことがあったからです………
ルティア様は、今回の婚約の件…どう思われていますか?」

………今回ベイカー公爵家へ招いたのは、これが聞きたかったのね………

「………どうとは?」

私は慎重に言葉をかえす………

「レッシュ公爵家のイアン殿と私………
現状では、ふたりがルティア様の婚約者候補です。最終的にどちらと婚約するかはルティア様次第と伺っています。」

「わたくしもそのように聞いております………」

「ルティア様とイアン殿はリザンヌ王国で友人だったとか?」

確かにリザンヌ王国では、顔見知りよりは親しい関係だったわね。

「はい………知り合いでした。」

「では、何故始めから婚約者にイアン殿をお選びにならなかったのですか?
………レッシュ公爵家でイアン殿とひとつ屋根の下で暮らしている事実があるにも関わらず………
ルティア様とイアン殿の関係はただの友人なのでしょうか?」

私はリドル様に痛いところを突かれた………
今のイアンとの関係は、ただの友人関係ではないわ。お互いに気持ちを打ち明けてしまった………
『好き』………という気持ちを………
今さら、イアンと友人関係に戻ることは出来ない………

………しかし………リザンヌ王国王女としての立場が、イアンへの気持ちを吐き出す事を躊躇わせる………
………リドル様にイアンと恋仲であると悟られる訳にいかない………


「………リドル様………誤解されているようですが、イアン様とはただの友人ですわ。グルテンブルク王国にイアン様以外全く知り合いのいないわたくしを憐んだ方がレッシュ公爵家ならば友人のイアン様もいらっしゃるからと気を使ってくださっただけですわ。
わたくしは………リザンヌ王国王女として我が国に最も利益をもたらす方と結婚するつもりです………」

私は本心を誤魔化し嘘を伝える………

イアンを好きだと叫びたい心を抑えて………


「そうですか………つまらぬ事を聞きました………
すみません。お茶の続きをしましょう。」



その後は、当たり障りない会話が続き、夕刻になり私は帰宅の途についた。



ベイカー公爵家を後にし、レッシュ公爵家へ向かう馬車の中で考える………

果たしてこのままイアンと無事に婚約を結ぶことが出来るのだろうか………

今さらイアン以外の男性に嫁ぐことなんてリザンヌ王国のためでも出来そうにない。

リザンヌ王国にいる時には、まさか自分が誰かを好きになるとは思わなかった。王女として国のため政略結婚をするのが使命だと思っていたのに………


ルカ王太子との会談が私に重くのしかかる………


あの方に何を命令されるのだろう………



リザンヌ王国王女という鎖に雁字搦めに繋がれている現状に泣きたくなった。


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