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第4章 思惑は交錯する【ルティア編】

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~イアン視点~

街の豊穣祭から帰って来た僕は自室にてルティの事を考えていた。

………最後にキスをした時、初めてルティが答えてくれた………

いつもキスをする度に身を固くしていたルティがあの時だけは抱きしめ返してくれた。

徐々にルティの中の僕の存在が大きくなっていく事に嬉しくなる。

しかし、まだこれではルティ自ら僕を婚約者として選ぶ事はないだろう。

王女という鎖がルティの自由な気持ちを縛っている。

未だに婚約者を選ぼうとしないのは、リザンヌ王国の思惑が絡んでいるからだろう………

………ルカ王太子………あの方の思惑が………


リザンヌ王国のクーデター後、王宮にて王都復旧の陣頭指揮をとっていたのは、ルカ王太子だ。王宮では、もはや陛下はお飾りでしかなかった。

リザンヌ王国にてルカ王太子とハインツ様の橋渡しをしていた僕は、あの方と何度も言葉を交わした。

………ハインツ様に負けずとも劣らない策士ぶりだった。あの方を敵にまわすのは並大抵の決意では出来ないだろう。
誰に対しても気さくで懐深い印象を与えつつ、その実考えている事は容赦なく、えげつない。
笑いながら敵を殲滅していく姿は悪魔としか言いようがない。

身内ですら政治の駒としか考えていないだろう………

………ルティは、ルカ王太子の政治の駒………


レッシュ公爵家とベイカー公爵家………
どちらに嫁がせた方が、リザンヌ王国にとって有利になるか………
ルティの気持ちなど関係ないのだ。

あの方を説得しない限り、僕に勝ち目はない。

ベイカー公爵家とシュバイン公爵家が姻戚関係にある今、公爵家の力関係は圧倒的にベイカー公爵家の方が上だ。
ハインツ様の存在も鑑みると、ルカ王太子は必ずルティをベイカー公爵家へ嫁がせるだろう。

あの方の考えを変える程の何かがレッシュ公爵家に無い今、どうする事も出来ない………



『トントン』

「イアン…今いいかしら?」

母上が部屋に入って来る………

「ルティア様と街の豊穣祭へ行って来たのでしょう?どうでしたか?」

「とても祭りが楽しかったみたいですよ。あの様子では、リザンヌ王国では街に行くことも出来なかったのでしょう。
ルティの世界は、王宮の図書館だけだったんだと思います。」

「………そうなの………
王女というものは大抵、窮屈な生活を強いられるものよ。何処へ行くにも護衛がつき部屋では侍女がつき一人になれる事なんてないわ。でも、わたくしはまだ良かったのよ。慰問で街の教会へ行ったり、避暑で地方へ行ったり、お忍びで街に行く事も出来た。父、母もわたくしの事をとても大切にしてくださったわ。
………でもルティア様は同じ王女でも全く違うのね………
正妃から虐げられ、王宮内では使用人にも顧みられない………
きっと行動も制限されていたと思うわ。
まさしく生まれた時から王宮という鳥籠に捕らえられた小鳥そのもの。
そんなルティア様が唯一安らげる場所が図書館だったのね………」

「ルティはやっと鳥籠から解放されて自由に羽ばたこうとしている。これから沢山の経験を積み重ねる事で、今以上に稀有な存在になると思います。
知識と経験に導かれ先見の明は益々磨かれていくでしょう。
彼女を繋ぎ止めておけるだけの力を僕は持っていない………」

………大切なルティが僕の元からいなくなる未来しか想像出来ない………

「ルティは感情だけでは決して動かないでしょう。たとえ僕に気持ちが傾いていたとしても、国のために婚約者を選ぶ………ベイカー公爵家を………」


リドルに抱かれるルティを想像するだけで胸が抉られたように痛みだす………




「………イアン………随分と弱気なのね………
そんなことでは手に入るものも入らなくなるわよ。」

母上は不敵な笑みを浮かべ僕を見つめる。

「少し見方を変えてみてはどうかしら?
………貴方は、シュバイン公爵家とベイカー公爵家が姻戚関係である今、ベイカー公爵家の方がレッシュ公爵家より力が上だと思ってないかしら?
確かにあの策士のハインツ様があちらにいる現状では、一般的貴族や対外的にもベイカー公爵家の方が上と考えるでしょう。
しかしね………レッシュ公爵家には王女であったわたくしがいるのよ………」

「………え?それが何故、レッシュ公爵家がベイカー公爵家より上になる事の理由になるのでしょうか?」

「イアン…話は最後まできちんと聞くものよ。
本来であれば、四大公爵家の力は均等であるべきなの。しかし、陛下はその均等を壊してまでベイカー公爵家とシュバイン公爵家の結婚を許した。まぁ、ハインツ様が何らかの切り札を使って陛下を脅したのでしょうけど………
では…本当に二大公爵家が姻戚関係になる事で王家に匹敵する力を得ることが出来たのでしょうか?
………答えは否よ!
万が一、王家が潰される力を得る事になる結婚なら陛下は何があろうと許可されないわ。
では、陛下が持っているハインツ様も知らないであろう王家の秘密とはいったい何か………?」

………それがレッシュ公爵家と公爵家へ降嫁した母上と関係があるということか?

「イアン…本気でルティア様を手に入れたいと思うならレッシュ公爵家の家系と歴史をよく調べてみなさい。
わたくしが言う意味のヒントが見つかると思うわ。王家の秘密とは何か………
それを手に入れるヒントがね………」

レッシュ公爵家が握る王家の秘密………
それが分かればルティを手に入れる事が出来るかもしれない………

母上からの助言で一筋の光が見えてきた気がした。
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