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第4章 思惑は交錯する【ルティア編】
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しおりを挟む今日は豊穣祭当日………ルティアはソワソワし過ぎてあまり寝られなかった。
今朝方ウトウトしてきたところに、イアンらしき人が寝室に入ってきたようだが、あまりの眠たさに目を覚ますことが出来なかった。
侍女のアンナに起こされるまで寝ていた私は、すっかり朝食を食べそこなってしまった。
アンナが調理場でもらってきた軽食を軽く食べ街に出掛ける準備を始める。
「ルティア様!こちらの衣装見てくださいませ。とっても素敵です‼︎」
アンナに見せられた衣装は、白のブラウスに黒のエプロンスカートを合わせるものだった。上に着るエプロンスカートは、スカート部分に花柄の精緻な刺繍が色とりどりの糸で縫われ、胸の部分には独特な紋章の図柄があしらわれた、とても華やかなスカートになっていた。
それに合わせる小物も用意されていた。
赤いフェルト素材の帽子に、靴も花柄の刺繍が施された赤い靴………
ひとりでも着れる作りになっているがアンナに着せてもらい、髪を三つ編みおさげにされる。
「………なんとも可愛い衣装ね………」
鏡に写る自分は三つ編みおさげ髪もあり、凄く幼く見える。ふっくら自然に膨らんだスカートも足首より少し上で真っ白な靴下が見えているのが何とも恥ずかしい。
「まぁ!ルティア様…とてもお似合いです。すっかり町娘風ですね!
さすが、イアン様!お見立てがバッチリです。」
「………大丈夫かしら………」
私は褒めそやすアンナに半眼になりながら部屋で待っていると、エントランスでイアンが待っている旨を執事が伝えに来た。
「アンナ行ってくるわ!」
妙な興奮状態でエントランスへ降りて行く。エントランスには普段の服装とは違うイアンが待っていた。
白のシャツに、花柄の刺繍が施された黒のベストを着て、黒のパンツを履いたイアンは金髪碧眼の美貌もあり、民族衣装だからか、どこぞの王子様みたいに見えた。
………うっ………お揃いみたいじゃない………
恥ずかしい………
「ルティ………今日は一段と可愛いね。そのおさげ髪も衣装とマッチして、とても似合っているよ。
………やっぱり僕の見立ては正しかったみたいだ。」
「でも…子供っぽ過ぎないかしら………?」
「確かに、普段着の時より幼く見えるかもしれないけど、お祭りなんだしそれくらいスカートが短い方が動きやすいよ!」
私はイアンに手を引かれ、外に留まっていた馬車に乗り込む。
お忍びということもあり、馬車は目立たない簡素なものだった。
「ルティごめんね。祭にはどんな人が来ているかわからないし、貴族とわかると厄介だから………こんな簡素な馬車でごめん。」
イアンは謝るが、内装はビロードが張られたフカフカの椅子が設置され、座り心地は抜群だ。中が見えない様に下されたカーテンもシルク糸で織られているのかシンプルだが光沢を放ち、取り付けられたランプも精緻な細工が施されキラキラと輝いている。
………リザンヌ王国から乗ってきた馬車より百倍素晴らしいんだけど………
「イアン大丈夫よ。とっても座り心地は良いし、内装も品があって素敵よ。」
「ルティにそう言って貰えて安心しました。」
イアンは、先程から繋いでいた手はそのままに反対の手で私の腰を引き寄せる………
馬車の中、近過ぎる距離に心臓が高鳴りだす。
「………イアン………近過ぎないかしら………?」
「えっ⁈そうですか~?
街までの道は悪路もありますから、万が一転げ落ちたら大変だ。しっかり支えてますから安心して身を任せて大丈夫ですよ。」
私はイアンに押しきられる形で、全く揺れない馬車の中、街に到着するまで腰を抱いた腕を離して貰えなかった。
………イアンの嘘つき………
街に到着すると、馬車を降り私はイアンに手を繋がれ色とりどりの花々が飾られた道を歩き出す。お店の軒先や街路樹の下には沢山の花々が植えられたプランターが置かれ、広場には花のモニュメントが所狭しと飾られていた。
どこを見ても花で溢れかえり、たくさんの屋台が立ち並ぶ光景は、ルティアの心をワクワクさせてくれる。
人人人で溢れかえった道や広場は、手を繋いでいなければ逸れてしまいそうだった。
イアンは、物珍しそうにキョロキョロする私を色々な所に連れ回してくれる。
「ねぇ!イアン…あのみんなが持ってるフワフワの綿みたいなのって何?
色々な色があって綺麗ね~」
「あれは、飴を溶かして特殊な機械に入れて綿状にしたお菓子です。綿菓子って言うんですよ。フワフワして美味しいよ。食べてみたい?」
「食べてみたいわ‼︎」
私達は、女性や子供が並ぶ列に一緒に並ぶ。
並んでいる女性達がチラチラとイアンを見て囁きあっている………
………本当見た目は王子様よねぇ………
私達の番になり、淡いピンク色と青色がミックスされた綿菓子を買う。
歩きながら綿の様な飴を食べ始める。
………フワフワして甘くて美味しい………
私は夢中で綿菓子を食べていて気づくのが遅れた………
………ちゅ………ペロッ………
「………‼︎」
「ルティ…唇の端に綿菓子ついてたよ。」
あまりに突然過ぎてイアンを見つめ固まってしまう。
………みるみる顔が赤くなってくる………
ここここ…公衆の面前でキキ…キス………
「ルティ顔真っ赤で可愛い………」
「………」
私は涙目でイアンを睨む事しか出来ない。
「………ごめんごめん………ついね!
次のお店行こうか~♪」
私は何とも軽いノリのイアンに連れられ俯きながら歩く。
王子様のような容姿の貴公子に、顔を真っ赤にして俯きながら歩く可愛らしい女の子のカップルは道行く人々の注目を一身に浴びて進む………
その後、その年の女神フローラと男神デフュロスに選ばれたとして、この注目のカップルを探して祭りの実行委員が街中を走り回る羽目になる。
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