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第4章 思惑は交錯する【ルティア編】
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歓迎の夜会からリドル様にエスコートされ、レッシュ公爵家へ帰って来た私はエントランスで待ち構えていたイアンに捕まっていた。
イアンに手を掴まれ廊下を進む………
連れて行かれた場所はレッシュ公爵家に滞在している私も今まで入った事がない場所だった。
「………イアン………ここって………」
月あかりに照らされ浮かび上がる天井まである棚には、たくさんの本が整然と並べられていた。
「王宮には負けますがレッシュ公爵家の書籍室です。恋愛小説など女性が好むものは少ないですが、歴史書や伝記、グルテンブルク王国の観衆やマナーなど多ジャンルの書籍が置いてあります。
父にはルティが自由に使えるように許可をもらってます。時間がある時に自由に入って大丈夫です。
もちろん、窓際に机もありますからうたた寝もしていいですよ。」
………イアンが茶目っ気たっぷり言うもんだからついつい笑ってしまう………
「………ふふふ…イアン………さすがに、人様の家でうたた寝しないわよ………」
肩を震わせ笑っていると、いつの間にか目の前までイアンが近づいてきていた。
「………ルティ………夜会ではリドルと楽しそうに踊っていたね………
アイツは、ダンスが上手いし話上手だから楽しかったんじゃないかな。
………もしかして好きになっちゃった?」
「えっ⁈……………そんな事はないわ………」
「確かに、リドル様はとても紳士的よ。誰かさんと違って毎朝、未婚の女性の寝室に忍び込んで寝顔を見るようなこともしないでしょうしねぇ~
………ただ………あの方は私に興味は無いんじゃないかしら………
きっと、どんな女性に対しても………
スマートに接しているだけ………」
確かにリドル様は女性の扱いが上手な方だ。女性が喜ぶ事をサラッと言えるし、エスコートの仕方も上手い。
………しかし、ただそれだけなのだ………
リドル様にとって特別な存在として扱われている様には感じなかった。
ルティアは、リザンヌ王国の王宮で不遇な扱いを受けていた事もあり、他人から向けられる悪意や善意にとても敏感だった。
………よっぽどイアンから向けられる好意の方が熱いのよねぇ~
まぁ、からかっているだけかもしれないけど………
「じゃあ、僕にもまだまだチャンスはあるのかな?」
イアンに肩を掴まれ引き寄せられる………
普段とは違う夜会服に、窓から差し込む月の光に照らされたイアンの顔が真剣に私を見つめている。
なんだか幻想的な空気感に私の心臓が高鳴り出す………
「僕も遠慮することは辞めにしようと思ってね………
………ここにいるお姫様は鈍感過ぎる………
ルティ………必ず貴方を手に入れてみせる………
どんな手段を使ってでも………」
イアンに頭を抱かれ深い口淫を仕掛けられる………
………ちゅ………くちゅ………
私の心臓が早鐘を打つ中、月あかりに照らされた部屋には口づけの音だけ響いていた。
夜会の日から宣言通りイアンが何か仕掛けてきたかと言うと………何も日常は変わっていなかった。
ただ………以前より一緒にいる時間が増えている。
毎朝イアンの顔面アップで起きるのは変わらないが、その後の朝食では、我が物顔で私の隣を陣取り、事あるごとに世話を焼きたがる。
色々と世話を焼かれているところをマリアンヌ様とレッシュ公爵様に生温かい目で見られるのが何とも恥ずかしい。
王城での仕事が休みの日は、日課の散歩にイアンが必ず参加する。
今も私はイアンに手を繋がれ薔薇が咲き乱れる庭をふたりで散歩している。
人払いをしているのか、近くには誰もいない。
「この庭は母上のお気に入りなんだ。昔から薔薇が大層好きな人でね………
詳しくは聞いた事ないけど、あの人は綺麗なだけの花には興味ない。話好きだし、明るい性格で周りの女性達のリーダー的存在だけど、一筋縄ではいかないのが母上なんだよ。
以前から公爵家にはたくさんの婚約の打診が来ていたけど、全て母上の一存で断っていたようだ。綺麗なだけの令嬢は必要ないとね………
それは他国の王女との婚約話が上がった時もそうだった。
そんな母上がルティの事は、凄く気に入っている。
あの人が本気になったら、僕以上に厄介だよ。
………ルティはレッシュ公爵家からも逃げられないね………
早く僕に囚われてしまいなよ………」
「………イアン………買い被り過ぎです。マリアンヌ様がわたくしに親切なのは、わたくしの境遇に同情して下さっているからだわ。」
「………まぁ…今はそういう事にしておくよ………
それよりルティは、街歩きってした事ないよね?
近々、街で春の女神フローラに捧げる祭が行われるんだけど一緒に行く?」
「えっ?女神フローラですか?」
イアンの話では、年に1回春に一年の豊穣を女神フローラに願う祭が開かれる。
その祭では、色とりどりの花々で街中が飾られ沢山の屋台が街中に並び、すごい賑わいだと言う。
その日だけは、貴族も平民もなく皆グルテンブルク王国の民族衣装を着て、祭を楽しむのだそう。
「………イアン………わたくし祭に行ってみたい………
連れてってくれるの?」
「もちろんです。当日は僕からルティに可愛い民族衣装をプレゼントします。
楽しみにしていてください。」
私は初めての街歩きに胸を高鳴らせていた。
イアンに手を掴まれ廊下を進む………
連れて行かれた場所はレッシュ公爵家に滞在している私も今まで入った事がない場所だった。
「………イアン………ここって………」
月あかりに照らされ浮かび上がる天井まである棚には、たくさんの本が整然と並べられていた。
「王宮には負けますがレッシュ公爵家の書籍室です。恋愛小説など女性が好むものは少ないですが、歴史書や伝記、グルテンブルク王国の観衆やマナーなど多ジャンルの書籍が置いてあります。
父にはルティが自由に使えるように許可をもらってます。時間がある時に自由に入って大丈夫です。
もちろん、窓際に机もありますからうたた寝もしていいですよ。」
………イアンが茶目っ気たっぷり言うもんだからついつい笑ってしまう………
「………ふふふ…イアン………さすがに、人様の家でうたた寝しないわよ………」
肩を震わせ笑っていると、いつの間にか目の前までイアンが近づいてきていた。
「………ルティ………夜会ではリドルと楽しそうに踊っていたね………
アイツは、ダンスが上手いし話上手だから楽しかったんじゃないかな。
………もしかして好きになっちゃった?」
「えっ⁈……………そんな事はないわ………」
「確かに、リドル様はとても紳士的よ。誰かさんと違って毎朝、未婚の女性の寝室に忍び込んで寝顔を見るようなこともしないでしょうしねぇ~
………ただ………あの方は私に興味は無いんじゃないかしら………
きっと、どんな女性に対しても………
スマートに接しているだけ………」
確かにリドル様は女性の扱いが上手な方だ。女性が喜ぶ事をサラッと言えるし、エスコートの仕方も上手い。
………しかし、ただそれだけなのだ………
リドル様にとって特別な存在として扱われている様には感じなかった。
ルティアは、リザンヌ王国の王宮で不遇な扱いを受けていた事もあり、他人から向けられる悪意や善意にとても敏感だった。
………よっぽどイアンから向けられる好意の方が熱いのよねぇ~
まぁ、からかっているだけかもしれないけど………
「じゃあ、僕にもまだまだチャンスはあるのかな?」
イアンに肩を掴まれ引き寄せられる………
普段とは違う夜会服に、窓から差し込む月の光に照らされたイアンの顔が真剣に私を見つめている。
なんだか幻想的な空気感に私の心臓が高鳴り出す………
「僕も遠慮することは辞めにしようと思ってね………
………ここにいるお姫様は鈍感過ぎる………
ルティ………必ず貴方を手に入れてみせる………
どんな手段を使ってでも………」
イアンに頭を抱かれ深い口淫を仕掛けられる………
………ちゅ………くちゅ………
私の心臓が早鐘を打つ中、月あかりに照らされた部屋には口づけの音だけ響いていた。
夜会の日から宣言通りイアンが何か仕掛けてきたかと言うと………何も日常は変わっていなかった。
ただ………以前より一緒にいる時間が増えている。
毎朝イアンの顔面アップで起きるのは変わらないが、その後の朝食では、我が物顔で私の隣を陣取り、事あるごとに世話を焼きたがる。
色々と世話を焼かれているところをマリアンヌ様とレッシュ公爵様に生温かい目で見られるのが何とも恥ずかしい。
王城での仕事が休みの日は、日課の散歩にイアンが必ず参加する。
今も私はイアンに手を繋がれ薔薇が咲き乱れる庭をふたりで散歩している。
人払いをしているのか、近くには誰もいない。
「この庭は母上のお気に入りなんだ。昔から薔薇が大層好きな人でね………
詳しくは聞いた事ないけど、あの人は綺麗なだけの花には興味ない。話好きだし、明るい性格で周りの女性達のリーダー的存在だけど、一筋縄ではいかないのが母上なんだよ。
以前から公爵家にはたくさんの婚約の打診が来ていたけど、全て母上の一存で断っていたようだ。綺麗なだけの令嬢は必要ないとね………
それは他国の王女との婚約話が上がった時もそうだった。
そんな母上がルティの事は、凄く気に入っている。
あの人が本気になったら、僕以上に厄介だよ。
………ルティはレッシュ公爵家からも逃げられないね………
早く僕に囚われてしまいなよ………」
「………イアン………買い被り過ぎです。マリアンヌ様がわたくしに親切なのは、わたくしの境遇に同情して下さっているからだわ。」
「………まぁ…今はそういう事にしておくよ………
それよりルティは、街歩きってした事ないよね?
近々、街で春の女神フローラに捧げる祭が行われるんだけど一緒に行く?」
「えっ?女神フローラですか?」
イアンの話では、年に1回春に一年の豊穣を女神フローラに願う祭が開かれる。
その祭では、色とりどりの花々で街中が飾られ沢山の屋台が街中に並び、すごい賑わいだと言う。
その日だけは、貴族も平民もなく皆グルテンブルク王国の民族衣装を着て、祭を楽しむのだそう。
「………イアン………わたくし祭に行ってみたい………
連れてってくれるの?」
「もちろんです。当日は僕からルティに可愛い民族衣装をプレゼントします。
楽しみにしていてください。」
私は初めての街歩きに胸を高鳴らせていた。
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