32 / 92
第3章 思惑は交錯する【ミリア編】
11
しおりを挟む~ルカ視点~
私は泣き崩れたミリアをベイカー公爵家へ送り届け、街外れにある貴族のタウンハウスが集まる閑静な住宅街に建つ、ひときわ豪華な邸宅へ戻って来た。
エントランスには、私の昔からの副官であるルドルフが待っていた。
「ルカ様、お帰りなさいませ。
………その様子ですとミリア嬢とのディナーは上手く行ったようですね。」
「………お前には全てお見通しか………
順調に事が進んでいるよ………」
幼い頃から行動を共にしているこの男には私の僅かな機微も手に取るようにわかってしまう。
………厄介な事ではあるが、絶対に信用出来る副官だからな………
幼い頃から命を狙われ続けた私にとって背中を預けられるほど信用出来るヤツの存在は貴重だ。
私はルドルフに上着を預けると執務室へと向い、置いてあるソファに仰向けに寝そべるとミリアの事を考えだした。
………ミリアと初めて会ったのは7歳の時だった………
リザンヌ王国の側妃の子供として生を受けた私は、正妃に王位継承権を持つ男子がいなかった事もあり、産まれてすぐに王太子に即位することになった。
陛下は母を溺愛していたため、正妃には見向きもせず、結果として正妃に男子が生まれることもなかった。
後宮での立ち位置の危うさに正妃は、母もろとも私を暗殺する事を企てた。
それにいち早く気づいた母は、信頼を寄せていた男に私を託し王城から逃した。
母が託した男こそ、私の副官をしているルドルフだ。
アイツにとって母は特別な存在だったという………
アイツは何も言わないが、父に横取りされるまで母と恋仲だったのかもしれない。
王城から逃げ出した俺達だったが、正妃から差し向けられる刺客に狙われ、同じ場所に長く留まる事が出来ず、ルドルフの知り合いが営む劇団に紛れ各地を転々とする事になった。
まぁ、この劇団も各国の情報を集めるリザンヌ王国の諜報部隊だった訳だが。
私は幼い頃、刺客の目を欺くため少女の格好をさせられていた。
劇団のメンバーとして各地を点々とする中で、ミリアの生家であるウィッチ男爵家が治める山岳地帯へ1ヶ月滞在することになった。
7歳になった私は、劇団メンバーとして女役で舞台に上がるのに抵抗が出てきたところに、劇を観た村の子供達に女装男と毎日虐められ自分の置かれた状況に絶望しかけていた。
そんな時、私の前に颯爽と現れ村の悪ガキを蹴散らしていたのがミリアだった。
始め女の癖に男の喧嘩にしゃしゃり出てくるミリアを冷めた目で見ていた。
しかし、毎回虐められている私の前に現れ私を守るように悪ガキと対峙するミリア………
小さな体で自分より大きな悪ガキに向かっていくミリアの真っ直ぐな姿に惹かれた。弱い者を絶対に見捨てない姿に………
卑屈になっていた私の心が晴れていくのを感じていた。
それから何に対してもやる気がなかった私は変わった。
剣の腕も強かったルドルフを師とし練習を重ね、食べられる物は何でも食べた。
成長期だったのか小さくてヒョロヒョロの身体はあっと言う間に大きく逞しくなった。毎日の剣の練習も欠かさなかった私は、体力がつくと共に技術も磨かれていき数年後には襲ってくる刺客を劇団のメンバーと撃退出来るまでになっていた。
劇団の役者として色々な劇の配役をする事で、いつの間にか身についた人心掌握術は大人になりリックベン商会を立ち上げてから役立つ事となった。
グルテンブルク王国の王都でリックベン商会を拡大し、そこを拠点として各国の諜報活動を行うようになった頃、シュバイン公爵家のハインツが現れたのだ。
………あの男は本当に怖い………
初めてリックベン商会にひとりで現れ、対応した私を見て『リザンヌ王国の王太子様ですね。』と宣ったのだ。
そして、私にある情報を伝えた。
『リザンヌ王国で、王弟と正妃が結託しクーデターを企てている』と………
その情報は、リザンヌ王国に諜報員を送り込み随時情報を収集していた私ですら掴んでいない話だった。
王弟のクーデターが起こった時こそ私がリザンヌ王国へ返り咲くチャンスだ………
正妃も一緒に叩き、国の英雄として凱旋すれば愚かな父王から王位を奪うことも可能になる。
私はハインツと手を組み、リザンヌ王国の王宮に送り込んだハインツの部下からの情報を元に、王宮が王弟派の手に落ちる寸前にリザンヌ王国にグルテンブルク王国の兵を借り受け進撃した。
荒れた王都にのさばる王弟派の兵士を蹴散らし、王宮に踏み込む寸前の兵を制圧したことで私は英雄としてリザンヌ王国に返り咲くことが出来た。
荒れた王都もだいぶ復旧し、あと何年かすれば父王も王位を譲るだろう………
あの時ミリアに会っていなかったら今の私はいない。
真っ直ぐで…勇敢で…お節介なあの少女を愛し続けて20年………
ついにミリアの横に立てる男となった………
今更この想いを諦めることなど出来ない。
邪魔者は蹴落とすだけだ………
『トントン』
「ルカ様………リザンヌ王国王太子としてグルテンブルク王城にて、陛下に謁見する日が決まりました。」
………先に送り込んだルティアが、グルテンブルク王国の公爵家に嫁げばリザンヌ王国は強い後ろ盾を得る事が出来る。
王城を影で支配するハインツと姻戚関係のベイカー公爵家へ嫁げば、リザンヌ王国のグルテンブルク王国への発言力も強まるだろう。
………何より邪魔なリドルを排除出来る。
一度、ルティアに釘を刺しておくか………
私は側で控えるルドルフにレッシュ公爵家に滞在するルティアへの訪問を調整するように指示した。
2
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」
「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」
「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」
「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」
あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。
「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」
うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、
「――俺のことが怖くないのか?」
と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?
よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる