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第3章 思惑は交錯する【ミリア編】

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~ルカ視点~

私は泣き崩れたミリアをベイカー公爵家へ送り届け、街外れにある貴族のタウンハウスが集まる閑静な住宅街に建つ、ひときわ豪華な邸宅へ戻って来た。

エントランスには、私の昔からの副官であるルドルフが待っていた。

「ルカ様、お帰りなさいませ。
………その様子ですとミリア嬢とのディナーは上手く行ったようですね。」

「………お前には全てお見通しか………
順調に事が進んでいるよ………」

幼い頃から行動を共にしているこの男には私の僅かな機微も手に取るようにわかってしまう。

………厄介な事ではあるが、絶対に信用出来る副官だからな………

幼い頃から命を狙われ続けた私にとって背中を預けられるほど信用出来るヤツの存在は貴重だ。

私はルドルフに上着を預けると執務室へと向い、置いてあるソファに仰向けに寝そべるとミリアの事を考えだした。

………ミリアと初めて会ったのは7歳の時だった………

リザンヌ王国の側妃の子供として生を受けた私は、正妃に王位継承権を持つ男子がいなかった事もあり、産まれてすぐに王太子に即位することになった。

陛下は母を溺愛していたため、正妃には見向きもせず、結果として正妃に男子が生まれることもなかった。

後宮での立ち位置の危うさに正妃は、母もろとも私を暗殺する事を企てた。

それにいち早く気づいた母は、信頼を寄せていた男に私を託し王城から逃した。

母が託した男こそ、私の副官をしているルドルフだ。

アイツにとって母は特別な存在だったという………
アイツは何も言わないが、父に横取りされるまで母と恋仲だったのかもしれない。

王城から逃げ出した俺達だったが、正妃から差し向けられる刺客に狙われ、同じ場所に長く留まる事が出来ず、ルドルフの知り合いが営む劇団に紛れ各地を転々とする事になった。

まぁ、この劇団も各国の情報を集めるリザンヌ王国の諜報部隊だった訳だが。

私は幼い頃、刺客の目を欺くため少女の格好をさせられていた。


劇団のメンバーとして各地を点々とする中で、ミリアの生家であるウィッチ男爵家が治める山岳地帯へ1ヶ月滞在することになった。

7歳になった私は、劇団メンバーとして女役で舞台に上がるのに抵抗が出てきたところに、劇を観た村の子供達に女装男と毎日虐められ自分の置かれた状況に絶望しかけていた。

そんな時、私の前に颯爽と現れ村の悪ガキを蹴散らしていたのがミリアだった。

始め女の癖に男の喧嘩にしゃしゃり出てくるミリアを冷めた目で見ていた。

しかし、毎回虐められている私の前に現れ私を守るように悪ガキと対峙するミリア………

小さな体で自分より大きな悪ガキに向かっていくミリアの真っ直ぐな姿に惹かれた。弱い者を絶対に見捨てない姿に………

卑屈になっていた私の心が晴れていくのを感じていた。

それから何に対してもやる気がなかった私は変わった。

剣の腕も強かったルドルフを師とし練習を重ね、食べられる物は何でも食べた。
成長期だったのか小さくてヒョロヒョロの身体はあっと言う間に大きく逞しくなった。毎日の剣の練習も欠かさなかった私は、体力がつくと共に技術も磨かれていき数年後には襲ってくる刺客を劇団のメンバーと撃退出来るまでになっていた。

劇団の役者として色々な劇の配役をする事で、いつの間にか身についた人心掌握術は大人になりリックベン商会を立ち上げてから役立つ事となった。

グルテンブルク王国の王都でリックベン商会を拡大し、そこを拠点として各国の諜報活動を行うようになった頃、シュバイン公爵家のハインツが現れたのだ。

………あの男は本当に怖い………

初めてリックベン商会にひとりで現れ、対応した私を見て『リザンヌ王国の王太子様ですね。』と宣ったのだ。

そして、私にある情報を伝えた。

『リザンヌ王国で、王弟と正妃が結託しクーデターを企てている』と………

その情報は、リザンヌ王国に諜報員を送り込み随時情報を収集していた私ですら掴んでいない話だった。

王弟のクーデターが起こった時こそ私がリザンヌ王国へ返り咲くチャンスだ………
正妃も一緒に叩き、国の英雄として凱旋すれば愚かな父王から王位を奪うことも可能になる。

私はハインツと手を組み、リザンヌ王国の王宮に送り込んだハインツの部下からの情報を元に、王宮が王弟派の手に落ちる寸前にリザンヌ王国にグルテンブルク王国の兵を借り受け進撃した。

荒れた王都にのさばる王弟派の兵士を蹴散らし、王宮に踏み込む寸前の兵を制圧したことで私は英雄としてリザンヌ王国に返り咲くことが出来た。

荒れた王都もだいぶ復旧し、あと何年かすれば父王も王位を譲るだろう………


あの時ミリアに会っていなかったら今の私はいない。

真っ直ぐで…勇敢で…お節介なあの少女を愛し続けて20年………

ついにミリアの横に立てる男となった………

今更この想いを諦めることなど出来ない。

邪魔者は蹴落とすだけだ………



『トントン』

「ルカ様………リザンヌ王国王太子としてグルテンブルク王城にて、陛下に謁見する日が決まりました。」

………先に送り込んだルティアが、グルテンブルク王国の公爵家に嫁げばリザンヌ王国は強い後ろ盾を得る事が出来る。

王城を影で支配するハインツと姻戚関係のベイカー公爵家へ嫁げば、リザンヌ王国のグルテンブルク王国への発言力も強まるだろう。

………何より邪魔なリドルを排除出来る。

一度、ルティアに釘を刺しておくか………

私は側で控えるルドルフにレッシュ公爵家に滞在するルティアへの訪問を調整するように指示した。
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