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第3章 思惑は交錯する【ミリア編】
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しおりを挟む~リドル視点~
………俺は階下の光景を呆然と眺めていた。
使用人エントランスに、ルカ・リックベンに肩を抱かれたミリアが入って来るところだった。
ふたりはエントランスに誰もいないのをいい事に抱き合う………
いや…ルカがミリアの手を引いて抱きしめたのだ。
………抱きしめたミリアの頭を優しく撫でるルカに嫉妬心が燃え上がる。
あの場所は俺だけのものだ‼︎‼︎
今まで感じたことのない怒りに支配される。
今日昼食を自室に運んできたミリアにルティア王女と近々お茶会を開くことを伝えた。ミリアの反応はいつもとあまり変わらないように感じたが、俯きながら昼食の準備をするミリアの様子に僅かな違和感を覚えた。
………まさかルティア王女とのお茶会にショックを受けたのかと思い、夜ミリアの私室を訪ねてみたが留守だった。
近くを通りかかった使用人にミリアが何処にいるか尋ねると、最近よくミリアに逢いに来る銀髪の美丈夫な恋人とディナーへ街に出ているという。
使用人の言葉に、すぐルカ・リックベンの事だとわかった。
使用人にもふたりが恋人だと思われる程の急接近ぶりに、ルカから先制布告されていた俺は居てもたってもいられなくなり、ミリアが帰って来るのをエントランスで待っていたのだ。
しばらく抱き合っていたふたりだが、ミリアを離しニ、三言葉を交わすとルカはミリアに背を向け帰って行った。
………ミリアに声をかけるべく、そっと背後から近づき声をかけた。
「………こんな夜遅くまで恋人とデートとは………
ミリアも良い身分だな………」
「………っ!………リドル様………」
肩を震わせ背後を振り返ったミリアは俺の顔をみて動揺していた。
振り返ったミリアは、目元を赤く染めて明らかに泣いたのがわかる顔をしている………
「………まさか⁈アイツの前で泣いたのか‼︎」
俺はミリアの肩を掴み怒鳴りつけていた。
………ミリアの瞳にみるみる涙が溜まっていく………
「わたくしのプライベートをリドル様にとやかく言われる筋合いはありません‼︎‼︎」
ミリアに突き飛ばされニ、三歩後退した俺の横をすり抜けミリアは駆け出す。
俺は、好きな女性を泣かせてしまった事実に狼狽し、ミリアを追いかける事も出来ず、ただその場に立ち尽くしていた。
………数週間後………
とうとうルティア王女とのお茶会の日となった。
ベイカー公爵家の庭の四阿にお茶の席が用意され、ミリアに頼んでおいたリザンヌ王国の菓子の他にも我が国で人気の色とりどりの菓子も用意されていた。
「ルティア王女様、エントランスへ到着されました。お出迎えのご準備をお願い致します。」
俺はミリアからの言葉を受けエントランスへ向かう。
エントランスには侍女をひとり連れたルティア王女が待っていた。
「本日は当家でのお茶会への誘いを快く受けていただきありがとうございます。」
「いいえ。わたくしも一度ベイカー公爵家へ訪問したいと考えておりましたの。
願いが叶い嬉しく思っておりますわ。」
「あちらの庭にお茶の席を準備しておりますのでどうぞ。」
俺はルティア王女を庭の四阿へエスコートした。
ルティア王女が席につき、俺も向かいの席につくとミリアがカップに紅茶を注ぎお茶会がスタートする………
俺は紅茶を注ぐミリアの顔を思わず見つめてしまっていた。
あの日以降、ミリアとほとんど言葉を交わしていない。事務的な内容を淡々と命じているだけ………
………このままミリアとの仲はダメになってしまうのだろうか………
「………リドル様………大丈夫でございますか?何か気になることでも?
先ほどからため息ばかりですわ。」
俺はルティア王女の言葉に内心あせる………
ミリアへの気持ちがため息として出てしまっていた。
今はルティア王女に集中せねば………
「申し訳ありません。最近、王城での執務が忙しく、難しい案件にも関わっていまして………ついついため息を溢していました。ルティア様自らお越しくださっているのに失礼致しました。」
「………お疲れなんですね。あまり無理はなさらないでくださいませ。」
その後、ルティア王女の祖国リザンヌ王国の話や我が国の流行、市井での面白い出来事の話など色々と話が広がり楽しい時間を過ごす。
ルティア王女は想像以上に博識で俺の話す内容を理解し、上手い切り替えしをされたりと一国の王女としての高い素養を覗かせていた。
ルティア王女とのお茶会は思いの外楽しいものであったが、時折り隅の方で佇むミリアを見つめている自分がいた。
「今日お招きしたのは、ルティア様に確認したいことがあったからです………
ルティア様は、今回の婚約の件…どう思われていますか?」
「………どうとは?」
ルティア王女は慎重に言葉をかえす………
「レッシュ公爵家のイアン殿と私………
現状では、ふたりがルティア様の婚約者候補です。最終的にどちらと婚約するかはルティア様次第と伺っています。」
「わたくしもそのように聞いております………」
「ルティア様とイアン殿はリザンヌ王国で友人だったとか?」
「はい………知り合いでした。」
「では、何故始めから婚約者にイアン殿をお選びにならなかったのですか?
………レッシュ公爵家でイアン殿とひとつ屋根の下で暮らしている事実があるにも関わらず………
ルティア様とイアン殿の関係はただの友人なのでしょうか?」
「………リドル様………誤解されているようですが、イアン様とはただの友人ですわ。グルテンブルク王国にイアン様以外全く知り合いのいないわたくしを憐んだ方がレッシュ公爵家ならば友人のイアン様もいらっしゃるからと気を使ってくださっただけですわ。
わたくしは………リザンヌ王国王女として我が国に最も利益をもたらす方と結婚するつもりです………」
………やはり簡単には本心を言わないか………
しかしイアンとの関係を問うた時、僅かだが動揺を見せた………
………これはやはりイアンとルティア王女は恋仲かもしれない………
ならば何故ルティア王女はイアンと直ぐに婚約を結ばないんだ………
これは…ルティア王女を政治の駒として動かそうとする者の思惑が絡んでいそうだ………
「そうですか………つまらぬ事を聞きました………
すみません。お茶の続きをしましょう。」
私達は日が暮れるまでたわい無い会話を楽しみ、ルティア王女との初めてのお茶会は幕を閉じた。
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