上 下
27 / 92
第3章 思惑は交錯する【ミリア編】

6

しおりを挟む

「ミリア!貴方の恋人がエントランスでお待ちよぉ~」

「………あのねぇ………ルカは恋人じゃないわ。友達よ………」

ルカと街に行った日以来、ルカは頻繁にベイカー公爵家を訪れるようになった。

それも、私が休憩時間の時を狙ってだ。
………そもそも休憩時間が何時かなんて教えてないんだけど………どこから聞き出したのかしら…?

まぁ、あの天性の人たらしスマイルでベイカー公爵家の使用人達を誑し込んだのでしょうけど………

今ではただの旧友が、使用人仲間の間では恋人という事になっている。

「もぅ、ミリアったら………
嘘つかなくても分かっているわよ!
あんな美丈夫が何とも思ってない女の所に頻繁に通う訳無いじゃない。
ミリアに会えない日は、ワザワザ花束まで届けさせるのに………
有名な商会長で美丈夫な男………今後絶対に現れないからしっかり捕まえておくのよ‼︎何だったらミリアから仕掛けて既成事実作っちゃえばいいのよぉ~」

貴族社会では厳しい目で見られる婚前交渉も平民の間では大目に見てもらえることも多く、平民同士の結婚では婚前交渉しているカップルも珍しくない。

「………」

私は、使用人仲間の言葉に背を向けエントランスへ向かう。

「ルカ!待たせてしまってごめんなさい。貴方も忙しいんだから頻繁に会いに来なくてもいいのに………
それに毎日お花やお菓子などプレゼントも………
私…何もお返し出来ないわ………」

「ミリア…気にしないでください。
私が貴方に会いたくて来ているのですから………
プレゼントも気に入ってくれているなら嬉しいです。」

ルカの言葉に思わず赤面してしまう………

………深い意味はないのよ…きっと………


「今日はディナーを御一緒出来ないかと誘いに来ました。私に申し訳ないと思っているなら一緒に行きましょう。
街でも有名な美味しいレストランなんです。きっと気に入ってくれると思います。」

「そうね………特に夜予定もないし御一緒しようかしら………」

「じゃあ決まりですね。また仕事が終わる頃に迎えに来ますね。」

………もう………本当強引なんだから………

私は呆れながらルカの背中を見送った。




あとは、リドル様の私室に昼食を持って行かなきゃ………

私は厨房へ行きリドル様用の昼食をワゴンにのせ部屋へ向かう。


リドル様がルティア王女の婚約者候補になったという話を聞いてから私達の関係は在るべき姿に戻った………
………主人と侍女の関係に………

これが正しい関係だと頭ではわかっている。しかし、一度火のついた感情を消す事はどうしても出来なかった。

リドル様の専属侍女として毎日接していれば嫌でも思いしらされる………

………リドル様を好きだという感情を………

噂では、リドル様とルティア王女の婚約の話は進んでいるらしい。
これからルティア王女がリドル様に会いにベイカー公爵家へ訪れる事も増えるだろう………

その時、仲睦まじいリドル様とルティア王女を果たして平常心で見ていられるのだろうか………

私は、リドル様の専属侍女を辞めなければ心が壊れてしまうとわかっていた。





『トントン』

「失礼致します。昼食をお持ちしました。」

「そこのテーブルに置いてくれ。」

リドル様は何やら難しい顔をして書類を読んでいる。
ただ、仕事をしているだけの姿にも胸が締めつけられる。

………ミリア!仕事に集中よ‼︎

私は自分に言い聞かせワゴンから昼食をテーブルへ並べていく。

「ミリア………近々、ルティア王女がベイカー公爵家へ来ると思う。お茶会への誘いの手紙を出した。可能であれば、ルティア王女の国の菓子を準備しておいてくれ。リザンヌ王国を離れて寂しい思いをされているかもしれない。自国の菓子ならきっと癒しになる。」

………とうとうその時が来てしまったのね………

「かしこまりました。至急手配致します。」

私は、ジクジクと痛み出した心を無視し仕事に徹した。




仕事が終わり自室にてボーッとしていた私に侍女仲間からルカがエントランスで待っていることが伝えられる。

………マズイ!ディナーの約束をしていたんだったわ………

私は慌てて普段着のワンピースに着替え部屋を飛び出した。

「ごめんなさい!ルカ。待たせてしまったわ‼︎」

息を切らしながらエントランスに駆け込んだ私をルカは怪訝そうに見る。

「………ミリア、もしかして今仕事終わったばかりですか?
なんだか、いつもの仕事着とあまり変わらないような………?」

私はあまりに急いで準備した為、街歩きをする時の簡素なワンピースに、髪は仕事の時のまま、ただ纏めているだけ………
アクセサリーさえ着けていない状態だった。

対するルカは、いつもの普段着とは違い洒落たジャケットにトラウザーズをあわせた、きちんとした出で立ちだ。

「………っ!ごめんなさいルカ………
急いでいたもので………時間があれば着替えてくるわ。」

ふたりの出で立ちのあまりの違いに恥ずかしくなり自室に戻ろうとした私の手をルカが掴む。

「ミリア………大丈夫です。
私がきちんとドレスコードを伝えなかったのが悪いんです。
今の姿でも十分綺麗ですが、今夜行くレストランは貴族御用達の店なんです。
今からだと既製品になってしまいますが、このままドレスショップへ行きましょう。
お詫びにプレゼントさせてください。」

「えっ!でも悪いわ………」

「時間もありませんし行きますよ!」

私は強引なルカに手をひかれ豪華な馬車に乗せられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...