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第3章 思惑は交錯する【ミリア編】

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~リドル視点~

………最悪だぁ………俺はいったい何をやっているんだ………

ルティア王女の婚約者候補である事を伝えてからミリアとの関係は最悪なものになっていた。

少しずつ距離が近くなって来たのに自分の手でぶち壊してしまった。
あの時、婚約者候補である事を言わなければ良かったのか………?

いくら考えても答えは出なかった。


『トントン』

「失礼致します………今日のお召し物をお持ち致しました。」

ミリアが室内へ入ってくる………

最近は、朝起こしにくるのを断っている。あんなに幸せだった朝の時間は俺にとって苦痛の時間に変わりつつあった。

………寝ぼけた頭でミリアに会ったらタガが外れて襲いかかってしまいそうだ。
それほどミリアが恋しかった………

「………あぁ…そこのテーブルに置いてくれ………」

あの日以降、侍女としてのスタンスを崩さなくなったミリアの態度に切なくなる………

「リドル様、今日の朝食はどうなさいますか?私室にてお召し上がりになりますか?」

最近王城でもピリピリした態度を隠さなくなった俺を心配して、先日王太子様直々に今日一日休むように言われたのだった。

執務にも身が入らない俺は同僚にも心配される始末だ。

「王城での仕事は一日休みとなった。
朝食はいらない。昼食をここへ持ってきてくれ………
当分ひとりにしてくれないか………」

「かしこまりました。」



それ以上何も言わない俺にミリアが頭を下げ静かに退室して行く。


俺は執務机に突っ伏し今までの事を考え始めた。


ルティア王女の婚約者候補になり、夜会でエスコートしてから社交界では、あたかも俺が婚約者であるかのような噂が流れている。

実際にはレッシュ公爵家のイアンも婚約者候補であり、尚且つルティア王女がレッシュ公爵家に滞在しているにも関わらずだ。

まぁ………裏で父上が暗躍しているのかもしれないが………

しかし、ルティア王女は今の現状をどう思っているのだろう………?

あの夜会でエスコートした時は当たり障りのない対応をされていた。
こちらから話掛ければ答えてくださっていたが、自ら話す事もなく微笑んでいるだけ………
俺に興味がある肉食系令嬢とは比べられないが、今まで接してきた令嬢達と比べても、とても淡白だった。

ルティア王女は、はっきり言って俺に全く興味がない………

ルティア王女とイアンはリザンヌ王国で知り合いだったという。
ただの知り合い程度の関係でレッシュ公爵家へ滞在するのはおかしくないか?
普通は一国の王女なんだから、王城に滞在するのが普通だろう………

ルティア王女とイアンは、もしかすると恋仲なのかもしれない………

恋人同士であればルティア王女の俺に対する素っ気ない反応も頷ける。

………これは確かめてみる必要がありそうだ………

俺は執事のアーサーを呼び出し、ベイカー公爵家にてルティア王女とのお茶会をセッティングするように伝えた。




私室にてジッとしているのも退屈で俺は散歩でもしようと庭に出た。

少し前までは、ミリアと一緒に歩いた庭をひとりで歩く………
何とも物悲しい気持ちになり庭での散歩もやめて久々に街に出ようかと思う。

主エントランスから出ると執事のアーサーが護衛を付けろだのと煩いので、使用人の玄関口から出ようかと向かう。

………⁈あれはミリアか!

玄関口では、ミリアと知らない男が話し込んでいた。

あんな銀髪の妙な迫力がある男なら忘れないと思うが………新入りか………?

しばらく様子を伺っていると、ミリアがその男に屈託なく笑いかけた………

………っ‼︎

衝撃だった………俺ですらほとんど笑いかけてもらったことなどないのに………

まさかミリアが言っていた好きな相手って………アイツなのか⁈

信じられない事実に目の前が真っ暗になる………

あの男はいったい誰なんだ………

今更ミリアを諦めるなんて出来ない………



男がミリアと別れ玄関口を出て行く。

俺は後を追うべく急いで外に出た。

………慎重に後をつけていく………

ちょうど角を曲がったので見失わないように走り角を曲がった………

「………!」


「ベイカー公爵家の子息様が私に何のようですか?」

角を曲がった先で、胡散臭い笑顔の銀髪の男が待っていた………

「君に聞きたい事があってね。うちの侍女のミリアとはどういう関係かを………」

「申し遅れました。わたくし、街で商会を営んでおりますルカ・リックベンと申します。
ミリアさんとは幼少期からの知り合いでして、何十年かぶりに偶然街でお会いしました。それから意気投合しまして仲良くしてもらってます。」

「それよりも………何故、たかだか使用人の事で子息様自ら私の後をつけていたのですか………?」

………目の前の男の纏う雰囲気が一気に冷たいものへと変わる………

只者ではないと思っていたが………

魑魅魍魎集う社交界を渡る俺ですら圧倒されそうになる。

「………いや………ミリアは私の乳兄妹なんだ。だから心配だっただけだ………」

「子息様は、ミリアの乳兄妹ですか………
………では私がミリアにアプローチしても何の問題もありませんね。
………恋人でもないのですから………」

「………っ‼︎」

「では、先を急ぎますので失礼致します。」

ルカ・リックベンは俺に背を向け歩きだす………

思わぬ伏兵の登場に俺はその場にぼう然と立ちつくしていた。




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