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第3章 思惑は交錯する【ミリア編】

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………1週間後………

私は自室にてソワソワしていた。今日の街歩きの為に淡いブルーのワンピースを新調した。

………少し若かったかしら………

鏡の前に立ち全身を眺める。
いつもは、まとめている髪も下ろして緩くウェーブをかけている。

………何ソワソワしてるんだろう………

ここのところリドル様の事でずっと落ち込んでいた私は、今日の街歩きをとても楽しみにしていた。

ルカ様に助けてもらった後、念のためリックベン商会の事も調べて、商会名簿の中にルカ・リックベンの名前を見つけ身元も確認済みだ。

顔見知り程度の人の馬車に乗るのは、少し抵抗があるがきっと大丈夫だろう………



『トントン』

「ミリアにお客さんよぉ~」

侍女仲間が声を掛けてくれる………

「ルカ・リックベンさんって人………
ミリアの知り合い?もの凄い美丈夫ね………サラサラの銀髪なんて、まるで王子様みたい❤︎
………そういえば………これからお出掛けなの⁈」

私の頭からつま先まで眺め、侍女仲間が聞く………

「そうなの………呼んでくれてありがとね。」

「ちょ…ちょっとミリア‼︎いつの間にあんな美丈夫捕まえたのよぉ!‼︎」

私は侍女仲間の叫び声を背にエントランスへ急いだ。




エントランスには、壁にもたれ門番と話しているルカ様の姿が見えた。
白シャツにベージュのパンツを履いたシンプルな服装なのに何故か目立つ………

やっぱり美丈夫はどんな格好してても似合うのね~

私は変な感心をしながらルカ様に近づいた。

「ルカ様………お待たせ致しました。」

「ミリアさん今着いたところで、あんまり待っていないから大丈夫ですよ。
話し相手も居ましたしね。」

ルカ様は悪戯そうに門番の方を見やる………

気恥ずかしくなったのか顔を赤らめた門番が背を向け立ち去っていく。

………あぁ………ここにも天性の人たらしがいるわ………

私は思わず半眼でルカ様を見てしまった。

「ミリアさん…時間もあまりない事ですし、行きましょうか。」

私達はエントランスを抜け歩き出す………

「………あの………馬車で来ているのではないのですか?
………ここからだと街まで結構距離があります。歩くのは難しいかと………」

「大丈夫です。少し行った所に街行きの乗り合い馬車が居ますので、それに乗って行きましょう。」

………私が街に行く時によく使う馬車だわ。女性、子供も乗っているから安心なのよね………

「得体の知れない男と馬車で二人きりは心配でしょう。乗り合い馬車の方が安心かと思いまして………」

わずかな気配りが嬉しい………

「ルカ様………気を遣っていただきありがとうございます。」

「あ!それと、ルカ様って辞めて欲しいです。私は貴族でもないしがない商人ですから、ルカでいいですよ。」

「………では、わたくしのこともミリアと呼んでください。わたくしも一介の侍女ですから。」

私達は、街までの道のりを乗り合い馬車に揺られながら、たわいの無い会話を楽しむ………

私は荒んだ心が温かくなるのを感じていた………



「………あのぉ………そろそろ手を離して頂けませんか?」

乗り合い馬車を降りる時に手を貸してもらって以降、何故かルカは手を離してくれない………

「えっ⁈どうしてですか?
街は人通りも多いですし、万が一逸れたら再び会う事は難しい。」

「でも大丈夫です。ルカは目立つしすぐ見つけられると思いますから………」

「………ミリアは分かってませんね………
先ほどから沢山の男達が貴方を見てるのですよ。」

「へぇ?………それこそルカの思い違いじゃありませんか………
わたくしは平凡な顔立ちですし、あまり目立ちませんから………」

「………ミリア………貴方はとても魅力的な女性ですよ!
綺麗な赤毛に漆黒の瞳………
はっきり言って貴方は美人だ。
今日の服装も淡いブルーのワンピースがとても似合っている………
先ほどから私は貴方に釘づけなんですが…」

「………」

今まで男性に面と向かって褒められた事がない私は、顔が赤くなっていく。

「………という事で街歩き中は手を離すのは無しです。」

ルカは、何も言えない私の手を強く握り直した。




私達は街歩きを楽しみ色々なお店を見て回った。
雑貨屋、ジュエリーショップ、ドレスショップ、本屋………
ルカは、自身が商会を営んでいるせいか、知識も豊富で目利きも見事だった。

その後、当初からの約束だったスイーツ店へ私達は来ていた。

「………」

私の目の前には、生クリームがたっぷりのったプリンアラモードが鎮座していた。

「あぁ~これが食べたかったんです!」

目の前のルカは、目をキラキラさせてプリンアラモードを見つめている………

………見ているだけで胃がもたれそうだわ………

「ルカ………本当に甘いものが好きなのね………
わたくしの事は気にせず食べてください。」

………私は頼んだ紅茶を飲みながら、幸せそうにプリンアラモードを頬張るルカを見ていた。

「………男で甘いもの好きって変ですか?」

「変では無いけど、珍しいですよね…」

「私が、こんなに甘いもの好きになったのは幼少期の経験があったからだと思います………
私は小さな頃、ある事情で各国を転々としてました。貧しい劇団に所属していましたので、その日暮らしで食べる物にも困る程だったのです。もちろんそんな状況ですから、甘いお菓子なんて食べれません。」

………ルカは劇団に所属していた⁈

まさかね………

「劇団で各地を回っていた時、ある貴族が治める山岳地帯の村に行きました。
そこで会った女の子に初めて飴をもらったのです。その女の子は領主の娘でしたが貴族らしくなく村の子供達ともよく遊んでいました。飴をもらった時も、他の子供にも配っていたので大した意味は無かったと思いますが、初めて食べた飴のあまりの甘さに感動してしまい、大人になり、ある程度裕福になってからは極度の甘党になってしまいました。」

………私はルカから聞く幼少期の話が徐々に確信に変わっていくのを感じていた。

目の前のルカは、私の知るルカなの………?

「………ルカ………その話って………」



「やっと気づきましたか…ミリア。
8歳の時に、たった1ヶ月しか一緒に居なかったから覚えてないと思っていました。あの時は、たくさん貴方に助けられました。貴方と過ごしたあの1ヶ月間は私にとって特別な思い出です。」

「………貴方………あのルカなのね………」

私は久々に会った旧友の成長した姿に感動して泣きそうだった。

「わたくしの後ろに隠れてばかりいたルカが、こんなに立派な男性になるなんて………」

「………ミリア………貴方の後ろに隠れてばかりいた私のことは忘れてください………」

………ルカが私の手をにぎる………

「ミリアには、貴方を守れるようになった今の私を見てもらいたい………」

私は、真摯に紡がれる言葉をただ聞いていることしか出来なかった。
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