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第3章 思惑は交錯する【ミリア編】
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しおりを挟むリドル様とルティア王女の婚約の噂を知ってから私は落ち込んでいた。
リドル様の専属侍女として最低限の業務はこなしていたが、心ここにあらずな状態でちょっとした事を失敗してしまう。
とうとう執事のアーサーに呼び出され、今日一日休みを取るように言われてしまった。
………こんな状態ではリドル様の専属侍女もその内解雇されるわね………
私はベイカー公爵家の自室でひとりいるのも嫌で、街に来ていた。
特に何かをする気も起きず、道をボーッとしながら歩く………
『ドンっ………』
「…おい‼︎………嬢ちゃん………
そっちからぶつかっておいて謝りもしないのかよ‼︎」
私の目の前には、強面の大男が立ち塞がっていた。
「………えっ‼︎ごめんなさい。ボーッとしていたもので………」
「謝って済む問題じゃねぇ‼︎
おぉ………痛い痛い………腕が折れたかもしれねぇ………」
………そんな大きな図体して私が当たったくらいで折れる訳ないじゃない!
私は辺りを見回すが、周りにいる人達は遠巻きに見ているだけで助けてくれそうにない。
………自分でどうにかするしかないってことね………
「失礼ですが…女の私が当たったくらいで折れてしまう腕をなさっているのですか?………その逞しい腕………折れたように見えませんが。」
「はぁ⁈俺が嘘ついているとでも言うのか‼︎」
「………今………折れているであろう方の腕を振り上げましたが痛くないのですか?」
「………こいつ………」
私は大男に腕を掴まれそうになる………
大声を出して逃げようとした時………
「私の妹が何かしましたか?」
突然、紫色の瞳の銀髪の美丈夫が割り込んで来た。
………誰だコイツ………?
「………なんだお前は⁈」
大男が私の疑問を聞いてくれる………
「この娘の兄です。妹が何かしたようですが………」
「おぅよ。その女がぶつかって来たんだよ。腕が折れたかもしれねぇ………
お前が責任とってくれるのかよ‼︎」
「………女性がぶつかったくらいで折れるとは思えませんが………
まぁ…いいでしょう。治療費は、リックベン商会へお願いします。私は商会長をしていますので、ルカ・リックベンに会わせろと言えばその場でお支払い出来るように手配しておきます。」
「………っ‼︎リックベン商会だって‼︎
冗談じゃねぇ………あそこの商会には関わりたくねぇ………
………嬢ちゃん大丈夫だ………もう何ともねぇや………」
大男は転がるようにその場を走り去った。
「お嬢さん大丈夫ですか?
ひとりで大男に立ち向かうなんて、なかなか勇敢なお嬢さんだ。」
「………わたくしに兄はいませんが、貴方様はどちら様ですか?」
銀髪貴公子が、私の手を取り………
「申し遅れました。この街で商会を営んでおりますルカ・リックベンと申します。悪者に勇敢に立ち向かうのは良いですが、あのまま誰も助けなかったら危なかったですよ。女性なんですから無理は禁物です。」
………正論すぎて何も言い返せない………
あまりに突然の登場で失念していたが、助けてもらったお礼も言ってない………
「………あの………助けて頂きありがとうございました。貴方の言う通り、少し遅かったら危なかったと思います。
何とお礼したらいいのか………」
「お礼なんていりませんよ。助けたくて助けたのですから………」
「でも………それでは私の気持ちが収まりません。」
「………でしたら今度私とデートしてください。」
「えっ⁈デートですか?」
「あっ…もしかしてパートナーがいらっしゃるのですか?」
「いえ………そういう相手はいません………」
「でしたらデートしましょ‼︎
あまり身構えないでください。街をブラブラしてお茶でもしましょう。スイーツ大好きなんですが………男ひとりでは入りずらくって………
行ってみたいお店あるんで付き合ってもらいたいんです。」
………ふふふ………スイーツ大好きって………
私は思わず笑ってしまっていた。
「………ふふふ………
分かりました。お付き合い致します。
スイーツ………私も好きですから」
「良かった~♪
じゃあ、いつにしましょうか………?」
私達は、お互いの予定をすり合わせ1週間後に会うことに決めた。
「今日みたいな事があると心配なので家まで迎えに行きますよ。」
「えっ!大丈夫ですよ………」
「ダメです。私が心配になってしまう。」
「………分かりました。では、お願いします。」
「では、どちらにお迎えに上がればいいですか?」
「ベイカー公爵家の使用人エントランスへお願いします。ミリアを呼んで欲しいと言えば取り次いでくれますから………」
「………貴方の名前………ミリアと言うんですね。
素敵な名前だ………
………私にとって特別な名前………」
「えっ⁈何か言いました?」
「いえ。では1週間後、迎えに行きますね………」
ルカ・リックベン様は、颯爽と帰って行った。
………ルカ・リックベン………
………銀髪のルカ………まさかね………
私は夕暮れの街道をひとりトボトボと帰路に着いた。
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