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第3章 思惑は交錯する【ミリア編】

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~ベイカー公爵家執務室にて(リドル視点)~

「………父上!今何と仰いましたか⁈」

俺は思わず執務机を両手で叩いていた。

「まぁ、落ち着けリドル………
隣国リザンヌ王国の第二王女ルティア様の婚約者候補になったと言ったのだ。」

「お前も知っているだろう………?
先のリザンヌ王国のクーデターの事は………」

「もちろん知っていますが、何故その話がルティア王女の婚約者候補に私が選ばれることと繋がるのですか⁈」

「リザンヌ王国のクーデターの鎮圧にリザンヌ王国の王太子が関わっていた事は知っているな。我が国は、その王太子の要請に応え、兵を出した。
リザンヌ王国の現国王は側妃にうつつを抜かす愚か者だが、王太子は違う。
リザンヌ王国の政を動かしているのは王太子だ。クーデター鎮圧から1年………
リザンヌ王国の復旧は目まぐるしい。
たった1年で、あそこまで王都を復旧させた手腕は見事だ。
王太子が、近い将来王に立つと言われている今、リザンヌ王国は将来的に我が国に劣らない大国になる可能性を秘めている。
我が国としては、クーデターの時に兵を貸した恩を盾にリザンヌ王国とより強固な同盟関係を築く必要があると考えている。」

「つまり………リザンヌ王国の第二王女を我が国の貴族と政略結婚させたいということですか………」

「でも何故私なのですか⁈」

「王太子様はすでにマイヤー伯爵家のリリア様と結婚している。隣国の王女を側妃として迎える訳にもいかない。
次に位の高い公爵家に白羽の矢が立ったという訳だよ。」

「………しかし、四大公爵家で婚約者がいないのはレッシュ公爵家のイアンも同じではないですか。何故よりによって私なんですか………」

やっとミリアとの仲も少しずつ進展してきたところなのに………

「………勘違いしているようだが………
レッシュ公爵家のイアン殿も婚約者候補だぞ。現段階では、お前とイアン殿がルティア王女の婚約者候補だ。」

「はぁ~?何ですかそれは………
まるでルティア王女が気に入った方と婚約するみたいじゃないですか⁈」

「………その通りだが………」

………ありえない………

「リドル………この婚約は今後の公爵家同士の力関係にも影響する。
今後、リザンヌ王国が大国に成長した場合、ルティア王女と結婚した公爵家はリザンヌ王国という大きな後ろ盾を得る事になる。そうなれば、我が国での発言権や立場はより強いものになるだろう。
現在、ベイカー公爵家とシュバイン公爵家が姻戚関係にある為、ベイカー公爵家の立ち位置は王家に匹敵するほど強いものだが、レッシュ公爵家のバックにリザンヌ王国が付けば状況は変わるだろう。」

「………リドル………言っている意味がわかるな………
この婚約者候補の勝ち負けが、将来のベイカー公爵家に影響を及ぼすという事だ。
何が何でもルティア王女を手に入れる必要がある………
………全力でルティア王女を落とせ………
これは命令だ!」



俺は自室に戻り頭を抱え、今の話を考えていた………

ベイカー公爵家の将来を考えれば、ルティア王女と結婚することが正しいと頭ではわかっている。

しかし、心はミリアを求めている………

俺にとってミリアは初恋であり、諦めることなど出来ない愛する女性だ。

このままルティア王女と結婚したとしてもきっとミリアを愛し続けるだろう。

こんな事になるなら、もっと早く行動すればよかった………

フラれる事を恐れ、行動しなかった過去の自分に絶望する事態となってしまった。





それから数週間後、グルテンブルク王国に来たルティア王女を歓迎する夜会が開かれる旨が貴族各家へ通達された。

………ベイカー公爵家には、リドル宛に、ルティア王女のエスコート役として夜会に出席するように伝える書簡も一緒に届いた訳だが。

現在ルティア王女は、レッシュ公爵家へ滞在している。詳しくは知らないが、リザンヌ王国へ行っていたイアンとは知り合いだとか………
我が国の習慣など直に学ぶ為に、レッシュ公爵家へ滞在することになったようだ。

………元々ふたりが知り合いなら、さっさとイアンと婚約してくれれば良かったのに………本当に俺を巻き込まないでくれ。


『トントン』

「リドル様、今日のお召物は何になさいますか?」

いつもと同じように部屋に入ってきたミリアを見て思わず抱きしめたくなる。

まぁ………そんな事すればやっと縮まってきた距離も離れてしまう。
最近は少しずつ休憩時間のお茶にも付き合ってくれるようになったのに………

「………ミリアには………
誰か好きな人はいないのか?」

悶々と考えていた俺は、気づいたら絶対に聞いてはいけない事を聞いてしまっていた………

「………えっ⁈………いますわ………」

「………っ‼︎」

俺の世界が灰色に染まっていく………
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