売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第2章 うたた寝王女絶叫編

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~イアン視点~

会場の真ん中では、ルティアとベイカー公爵家のリドルが踊っている。

ふたりは見つめ合い華麗なステップを踏む………

僕との時はあんなに足をもつれさせていたのにね………

やるせ無い気持ちでふたりのダンスを見続ける。

あの場にいるのは、僕でありたかった………

自分の色を纏って踊るルティアを見ることしか出来ないなんて、切なさで胸が締めつけられると同時に、ルティアの腰を抱くリドルに殺意が芽生える。

二階のバルコニーからふたりを見つめる僕に話しかける者がいた。

「イアン………今のお前なら視線だけで人を殺せそうだな………」

僕の上司のハインツ様がバルコニーにもたれ悪戯に声をかけてくる。

この上司は、僕がリザンヌ王国にいる時からルティアに想いを寄せていたことに気づいていた。

クーデターが起こり、我が国に援助を申し出たリザンヌ王国の王太子の要請に応えたのも、僕から知らせたルティア王女の先見の明の能力の有用性を鑑みて後々王女を我が国が手に入れる為だった。

「………ハインツ様………奥様のエリザベス様をひとりにして大丈夫なのですか?」

「あぁ…エリザベスなら王太子妃のリリア様と歓談しているよ。
女性同士の会話に男が側にいるのも無粋だしな。」

ハインツ様は、奥様をとても愛していると社交界では有名だ。

愛しているなんておこがましい程の執着をしていることは、エリザベス様がまだ廃太子した第二王子と婚約していた当初からハインツ様の部下をしている者なら誰でも知っている。

王城でエリザベス様に粉をかけようと思うバカは誰もいない………

知らないうちに抹殺されるからだ………

まぁ、男は誰も近づかないから放っておいても大丈夫か………



「そんな事より、ルティア王女とリドル………
なかなか良い雰囲気でダンスを踊っているじゃないか………
………で、お前は指を加えて見ているだけか………」

「………ハインツ様は何をおっしゃりたいのですか?」

「………ルティア王女が、レッシュ公爵家に滞在しているという絶対的有利な状況のイアンが手をこまねいている現状がなんとも哀れでなぁ………」

俺は苦虫を噛み潰したように顔をしかめる………

「初めからルティア王女への婚約の打診は、レッシュ公爵家のイアンと、と書簡に記載すれば何の問題もなかったと思いますが………」

「まぁ…そう睨むな………
私も難しい立場なんだよ………
義父のベイカー公爵の顔も立てねばならないだろう。公爵家で婚約者がいない家が二家ある現状でレッシュ公爵家だけ贔屓する訳にいかないのだよ。
しかも、ベイカー公爵家はエリザベスの生家だ。蔑ろにすれば私の首が危うい。
ルティア王女にどちらの公爵家に嫁ぐか決めてもらう方が、角が立たないだろう?」

………この人は、全ての状況を判断し最善の策を講じる人だった。
感情論だけでは絶対に動かない………
………いや………エリザベス様だけは例外か………

「後はルティア王女がお前を選べばいいだけの話ではないか………
3年も想い続け親しくなったのに、今日会ったばかりのリドルにお前は負けるのか?
想い人ひとり手に入れる為の策も講じれないような部下は必要ない………
よく考えることだな………」

「………」

ハインツ様は、エリザベス様の元へ向かうべく背を向け歩き出す………

正論すぎて何も言い返せない僕は、リドルと踊るルティアをただ見つめることしか出来なかった………



夜会から数日後………
社交界ではある噂が流れ始めていた…

『リザンヌ王国のルティア王女とベイカー公爵家のリドル様が婚約するらしい………』と。


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